258. あやめの片手剣修業
さあ夕方である。
僕らはキャンピング馬車に戻った。
晩ご飯はどうするかなあ。
と、思っていたら、ドアがノックされた。
出て見ると、うまるちゃんがいた。
「おお、本当に馬車溜まりに住んでるんだなあ」
「どしたの、うまるちゃん」
「いや、ギルマスに勇者がここに住んでるって聞いたんで気になってさ」
「お茶のんでいきなよ」
「いいのか?」
「中も見て欲しいしね」
「おじゃまするぜ」
うまるちゃんは、キャンピング馬車の中を見回して感嘆の声を上げていた。
「だれ、そいつ?」
「武道家のうまるちゃん」
ぶぶっ! と、あやめちゃんが噴きだした。
まあ、なんか彼って、うまるちゃんってイメージじゃないよね。
「ジャッカルの獣人さんなんだよっ」
「もふもふはしねえのか?」
「犬科の人は毛が硬そうで、なんかモフモフ欲が沸かないんだよ。あやめと言います、よろしくね、うまるちゃん」
「あ、ああ、ウマルです。なんで笑いを含んでるんだ?」
「異世界の漫画のキャラクターと同じ名前なんだよ」
「マンガ?」
あやめちゃんは、近くの紙に、すらすらとうまるちゃんを書いた。
うむ、見事なうまるちゃんだ。
「えー?」
パットと、エルザさんと、リターナーさんが絵を見て噴きだした。
うまるちゃんは困っておる。
「うまるちゃんは、どこに泊まってるの?」
「連合口近くの安宿だよ」
「漂泊の武道家は大変なんだね」
「まあなあ。ま、明日、迷宮に行って稼いでくるぜ」
「がんばるんだよ」
うまるちゃんをソファーに座らせて、あやめちゃんがお茶を出した。
「こりゃすんません。しかし、中は意外に広いね、安宿よりも豪華だし、いいなあ」
「七千万グースよ」
「げっ」
「腕を磨いて、それくらい稼ぐでやすよ」
「がんばりますよ、リターナー先輩」
「僕らは、夕食を食べに行くんだけど、うまるちゃんも一緒にどう?」
「いや、その、持ち合わせが……。今は宿代きっちりぐらいしかなくてさ」
「おめえ、晩飯どうするつもりだったんだ?」
「水、かな?」
「奢ってあげるから、きなさい、若い武芸者が食事抜きとか身体に良くないわ」
「い、いや、チビちゃん、俺は慣れてるから平気……」
「あ、この人、僕らのボスのオッドちゃん」
「げっ!! あの、申し訳ありませんっ!!」
もう遅い、オッドちゃんはプウと膨れて、そっぽを向いた。
「名高いオッド師がこんな可愛い人だとは思いませんで、俺の中のオッド師といえば、昔話にも良くでてくる大魔導の中の大魔導だったんで」
「そ、そう、あなた、ちょっと解っているわね」
あいかわらず、オッドちゃんチョロい。
満面の笑顔だ。
みんなで馬車の外に出た。
さて、どこに行こうかな。
「メイリンにはハーフリング料理の店は無いのかな」
「やめとけ、このまえ部下どもが軒並み行ってみたが、どれもあんま良くなかったみてえだ」
「諸王国風のレストランは結構あるのにね」
「いえ、諸王国風のレストランもホテルとかの塔路沿いにあるだけで、安くて美味い店は、あまり無いみたいですよ」
「そうなんだ」
「うまるちゃんは何か食べたい物あるかな?」
「いえ、その、特にないですよ、アヤメさん」
「ウマルがいるから、ウイルウイルに行きましょう」
「あ、そうだねえ」
「それは良いな、行こう」
「どこだ?」
「獣人連合国料理のお店」
「お、いいでやすね、いきやしょう」
僕らは、連合口主道まで行って、下りはじめた。
途中でショートカットの階段を使って、上廻り横路まで下りる。
「しかし、メイリンって街は、なんでこんなにややこしい事になってんだろ」
「最悪、迷宮に籠城するために、螺旋状に道を作ってるらしいよ」
「ああ、そうか、昔、迷宮にこもって戦ったって聞くな」
「迷宮の地下五階までは、博物館になってるから、狩りが終わったら見てくるといいんだよ」
「へえ、そんな物が、おもしろいな」
上廻り横路から、また階段をつないで、共和国主道まで下りる。
だんだん日が暮れてきて、さびしい感じだ。
足を止めて、北の墓場を見る。
うーむ、ベルナデットは、まだ墓場だろうか。
「墓場にいるみたいだよ」
「そうなんだ。なにしてるのかな」
「納骨堂で、子どもと話してるって」
「は?」
「人間に化けてるから、子どもが寄って来たみたい、男の子。スラムの子みたいね」
「あぶなくない?」
「特に、害意は無さそうと、言ってるよ」
うーん、困ったなあ。
行って退治するのが良いんだろうけど、なんか気がすすまない。
美しい女の人の顔で、人語を解するから、かなあ?
でっぷり太ったオークのおやじだったら、迷うこと無く退治できていたのかな。
うーむうーむ。
なんだか僕は優柔不断だなあ。
ときどき、良い方向に行く事もあるけど、本来は迷うのは良く無いと思うんだよね。
うーむうーむ。
まあ、いいや。
晩ご飯を食べてから考えよう。
共和口主道を少し下りて、階段を降りると、ウイルウイルの裏口あたりに着いた。
そのまま、正面にまわる。
お、今日はそんなに混んでないね。
なんとか、みんな入れそうだ。
「おお、故郷の匂いがするなあ」
「いらっしゃいませ、あ、オッド師と勇者さん」
「また来たわ、最近混んでるって聞いたけど、そんなでもないわね」
「ランチタイムは混んでますけど、夜はそんなでも無いですよ」
狸獣人のウエイトレスさんは、そう言って笑った。
あいかわらず、はんなりとして可愛い。
僕らは、奥の席に案内されて、座った。
「ああ、なんだか、久々な気がするな、故郷の料理は」
「うまるちゃんは、獣人連合国からメイリンに来たんじゃないの?」
「いや、一年ほど、諸王国連邦を旅してたんだ。大陸の東端を見て、それから、帝国に行って西の端を見る予定だったんだよ」
「大陸横断なんだよ」
「色々な武道と戦ってさ、腕を上げて、戦挙に出て、目指すは連合国大統領だぜっ」
「おお、将来はライオン大統領と戦うのか」
「まだまだ、道は遠いけどな、でも、やっぱ漢として生まれたら、頂点を目指したいしよ」
格好いいなあ、うまるちゃん。
オッドちゃんが、うまるちゃんにメニューを渡した。
「うまる、あんたが料理を適当に頼みなさい」
「え、良いんですか、オッド師」
「美味しい物をね、不味かったら怒るわ」
「そんな、理不尽な、……お、チャパルがあるな、うむ、メインは豚の蜜焼きかな」
うまるちゃんが、メニューをさしながら、色々頼んでいた。
うむ、期待出来そう。
「お客さん、キグルの出でしょう」
「おしい、山を越えた、ダーラス大密林のトトス市だよ」
「あら、私はレントン市よ、お隣ね」
「へえ、レントンには良く遊びにいったよ、懐かしいなあ」
「故郷の味を楽しんでいってね」
なんか、同郷同士の話はいいねえ。
しばらくすると、沢山の料理が運ばれてきた。
おおお。
豚の蜜焼きはこの前食べたな。
わ、なにこれ、不思議な色の大きな蟹だ。
細長い魚を揚げて、赤いソースをかけた物。
ポタージュみたいな、お粥みたいな、スープ? シチュー?
あと、紐パンが出て来た。
お酒を飲む人達には、赤い色のワインが、僕らにはちょっと青臭いピコリ茶が配られた。
「おーうまそうだな」
エルザさんが、蟹のはさみをもいでかぶりついた。
「ん、うめえっ」
どれどれ、僕も足を一本もらい、不思議な形のはさみで殻を割って食べてみた。
おーーー。
なんだろう、蟹っぽい味なんだけど、不思議に甘い。
すてきな味わいの蟹、甘酸っぱいソースに良く合う。
「あ、このシチュー美味しいんだよ」
「密林にすむ、カラピナって鳥のシチューですよ」
「あー、美味いなあ、故郷でよく食べた」
「ふむふむ」
ポタージュみたいに濃厚で、その中に淡泊な鳥の肉が入っている。
おーー。
透き通った野菜が入っていて、とろみはそこから出ているようだ。
「おいしいでやすね、へええ」
「おいしいわね、よくやったわ、ウマル」
「いえいえ、そんなでもないですよ」
平べったいパンみたいな物も出ていた。
これがチャパルかな?
わっ! 辛いっ!!
でも、美味いっ!!
カラウマ!
「辛いね-、これっ」
「いや、本国に比べるとかなりマイルド」
「本国風のを作ると、連合国の人以外食べられませんよ」
「でも、うま味はよく出てるね、コックさんすごく上手いよ」
「お父さんは天才なので」
「辛いけど、美味しいわ」
チャパルを食べた後、カラピナシチューを食べると、味が合わさって、さらに美味しいね。
「おお、甘辛い、白身魚、うまいな」
「それは、パスパスって魚です。十王聖定市の近くの海でよくとれるけど、メイリンで良く手にはいったね」
「この季節だけ、近くの海にくるんですって、今日の目玉よ」
うん、パスパスは美味しい。
良く脂がのっていて、身が引き締まっていて、ぷりぷりしている。
甘辛ソースが良く合う。
チャパルとも良くあうね。
「ここは美味しいなあ、ランチはどれくらい?」
「五百グースぐらいよ」
「うわ、やすいなあ。毎日来ちゃおうかな」
「早めに来た方がいいわよ、お昼の五だと、もう混み混みだから」
ああ、やっぱり、このお店は美味しくていいなあ。
みんな、瞬く間に料理を平らげて、満腹した。
「あ、おねえさん、トカンを六個ください、持って帰ります」
「あ、トカンあるのかー、お、俺もいい?」
「七個で」
「はい、うけたわまりました」
狸のおねえさんが、奥にひっこんだ。
僕らは、デザートにでた、練った感じの甘いヨーグルトを食べる。
「満腹満腹、うまるちゃんありがとう、おいしかったよ」
「お、俺は頼んだだけでさ、おいしいのはここのお店の手柄だ」
「あんたがいなかったら、こんな組み合わせで頼んでないわよ、ありがとう」
「いや、その、へへへ」
うまるちゃんは、凶悪なジャッカル面を歪ませて、頭をかいて照れた。
さて、ギルドに帰ろう。
「今日はゴチになりました、ありがとうございます」
「いいのよ、また一緒にたべましょうね」
「ありがとうございます、俺はこれで」
「おやすみ、うまるちゃん、ダンジョン頑張ってね」
「おう、稼いでくるぜっ」
うまるちゃんは、片手をあげて、下周り横路の方へ歩いていった。
さあ、僕らも、坂を上がって戻ろう。
わっせわっせと、日の落ちたメイリンの急階段を上がっていく。
「うまるちゃん、顔は怖いけど良い人みたいなんだよ」
「うん、武道に一途なんで、みんなに好かれてるよ」
「まあ、普通の街なら、並ぐらいに強いんだがよ、ここには、ゲンキもいるし、ギルマスも、神さんもいるからな」
「神さんにしごかれて強くなりそうでやすね」
「うむ、奴は楽しみだな」
「ゲンキの近くには、面白い人間が集まるわね」
うまるちゃんは、まだ弱いけど、あれは自分で頑張って手に入れた武道だからね、スキルでズルをしてる僕とは違うのだ。
チートで手に入った技術だから、僕が強いと言われると、なんだか違和感がある。
うまるちゃんみたいにまっすぐに武道をやってる人をみると、なんだか羨ましくなるね。
といっても、僕がスキル無しに武道をやっても、何年かけても、うまるちゃんの所までも到達できない気がするな。
本当に、スキルは手軽だけど、なんだか、本当の力じゃ無いような気がする。
スキルは、僕の前に現れる、いろいろな問題を解決する基礎になってるんだけど、それにおごってはいけないんだろうね。
僕は、偽物なんだな。
そんな事を思いながら、わっせわっせと階段を上がり、ギルドに戻った。
「げんきくん、これからセストルさんと片手剣の練習だから、模擬刀と盾を出してほしいんだよ」
「ああ、そうだったね、一緒に行こうか」
「うん!」
「ゲンキさん、迷宮用の装備を出してくださいやし、俺とエルザ姐さんでチェックしやすから」
「ああ、そうだったね」
僕は、シートを出して、その上に、迷宮アタック用に買った、ロープ等をだして並べた。
オッドちゃんが光球魔法を出して、謎空間から、どさどさと迷宮用装備を出し……。
「こりゃあ、舫い綱でやすね、なんでこんなものが……」
「ああ、もう、おおざっぱだな、ロープが絡んでるじゃねえかっ」
「うるさいわね、使えれば良いのよ」
なんか、要らない物とか、手入れが悪い物とかが山のように馬車溜まりの広場に広げられた。
オッドちゃんらしい。
「それじゃ、僕らはいくね」
「はい、帰ってくるまでにやっておきやすね」
僕は、あやめちゃんと、パットと並んで、中庭に向かった。
中庭の柔道場では、マイカルさまがいつものように酒をかっくらい、セストルさんと、ニーナさんが、座っておしゃべりをしていた。
「あ、きたきた」
「遅くなりました-。ごめんなんだよ」
「あたしらも今来たところにゃー」
「おお、お前らも来たか、どうだ、酒の相手をせい」
「いえ、今日は、中庭で、片手剣の練習ですよ」
「げんきがか?」
「あやめちゃんです」
「おお、なるほどのう」
僕は刃引きをした、片手剣の練習刀を出して、あやめちゃんに渡した。
「盾は、どれが良いかな」
魔法袋の中から、カイトシールドを出してみた。
「うん、この前のこれがいいんだよ」
うん、なんだろう、この猫シールドって?
前は読み飛ばしていたっぽい。
僕は猫シールドを魔法袋から引っ張り出した。
「!」
「!」
「これは猫が描いてある、カイトシールドですね」
「か、かわいいんだよっ」
「なんの意味があるにゃ?」
「可愛い絵で切りかかりにくくするのかな?」
あやめちゃんは猫シールドを手に付けて構えた。
可愛い白猫の全身が描かれた盾が、よく似合う。
『にゃおん』
「鳴いたーっ!!」
「鳴いたんだよっ!!」
「魔法がかかっておるのう、振ると鳴くようじゃ」
「な、なんの意味があるにゃっ!」
「これを使うんだよっ!」
「え、それを使うのかにゃ?」
「かわいいは正義なんだよっ!」
「ははは、では始めましょう」
「基本はパットちゃんに習ったんだよ」
「そうですか、では打ち込んで来てください」
セストルさんは盾と片手剣を構えて、腰をすこし落とした。
中庭には、かがり火が灯っていて、あたりをオレンジ色に染めていた。
あやめちゃんは、タンタンと歩いて、セストルさんに切り込んだ。
「お、なかなか良い感じですね」
『にゃおうっ』
うーむ、盾を前にした、構えがなかなか堂にいっている。
あやめちゃんの鋭い打ち込みを、セストルさんが盾でカンカンと受ける。
そして、盾が動くたびに、猫の鳴き声が響く。
「その盾、やめましょう、気がそがれます」
「いやっ!」
「うえー……。モフモフモードにゃ」
はあ、とセストルさんはため息をついて、首をふった。
「まあ、気にしない事にしましょう。良い感じに基礎ができてますね。あとは練習でしょう。あと、剣に捕らわれすぎている感じがしますね、片手剣の場合、重要なのは剣ではなくて、盾なんです」
「盾なの?」
「そうです、基本的に盾で敵の攻撃をさばいてさばいてさばききって、剣で切ります。剣は最後なんですよ」
「なるほどなんだよ、目から鱗がおちたかんじ」
「これからニーナと二人で切り込んで行きます、それを盾で捌いてください」
「いくにゃーっ」
両手に木の短剣を持ったニーナさんと、セストルさんが、あやめちゃんに肉薄する。
二人かがりだと、大変そうだなあ。
『にゃにゃにゃにゃっ、にょーん』
そして、盾で受けるたびに、猫の鳴き声がする。
一体、なんの目的の機能なのかっ。
防戦むなしく、あやめちゃんは、脇腹にニーナさんの一撃を食らい、セストルさんの木剣に頭をたたかれた。
「あうーっ」
『にゃあ』
「盾の捌き方は色々あって、相手の刃に合わせて直角に受ける時と、すらせるように受け流す時があります。すらせながら、一歩前進して、盾を立てて、相手に激突させる方法もありますよ」
「盾技は奥が深いのにゃっ」
なるほどなあ、勉強になるなあ。
セストルさんの助言を受けて、あやめちゃんは、盾を縦横に使い始めた。
そして、猫の泣き声が響き渡る。
『にゃにょにょーん、にゃにゃにゃりなーおおっ』
「うるせいにゃ、この糞盾!!」
「なんの目的があるのかなあ」
やっぱりあやめちゃんの運動神経は良いなあ。
もう、カンカンとニーナさんとセストルさんの打ち込みをさばけるようになってきた。
おや、なんだかあやめちゃんの動きが……。
猫っぽい。
しなやかに、くるくると、猫っぽく動き、ニーナさんの双剣を弾き、セストルさんの木剣を弾く。
そのたびに、猫の鳴き声が出て、猫獣人のニーナさんよりも、よほど猫っぽい感じになっていく。
「なんか、魔法の盾じゃないですか、あれ?」
「猫の動きで戦う盾じゃな、珍品よのう」
「す、すごいね、アヤメさんっ!」
「き、気持ち悪いにゃっ!」
「わたしは猫、いま、猫として戦うのだっ」
『にゃにゃにゃっ、にゃーんにゃなーごっ!』
それでいいのかっ!?
【次回予告】
夜、また、げんきはベルナデットの夢を見る。
彼女は、墓場でスラムの子どもと出会い、言葉を交わす。
蜘蛛は不幸な子どもの境遇を知り、未知の感情が胸の中に湧くのを感じる。
なろう連載:オッドちゃん(略
次回 第259話
夢の中で蜘蛛は子どもと話す




