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257. 墓場には蜘蛛がいる

「あらっ?」


 あやめちゃんが急に声を上げて、北の方へふり返った。


「え、うん」


 キルコの中に人と話してるのかな。

 お、寄って来た。


「げんきくん、蜘蛛子さんが見てるって」

「ベルナデット? どこからっ?」


 こんな所に暴れ込まれたら大変だっ!


「街の外、お墓あたり」


 あやめちゃんが、街の外を指さした。

 視界の端にギリギリ、街の外にある墓場が見える。


「街には入ってないのか、アヤメ」

「うん、まだ、尖塔の上から見てるって」

「どの尖塔だろう」


 相当距離があるので、よく見えない、なにやら尖っている物があるような無いような。

 あやめちゃんが、キルコタブレットを僕らに見せる。

 そこには、塔に絡みついた、人間体のベルナデットが映っていた。

 あ、逃げた。


「どうしようか、げんきくん」

「街にはまだ入って無いのか、ううん」


 悩むなあ。

 頼みの綱のオッドちゃんは、あちこちのテーブルに行って、パンを食べまくっていた。


「ベルナデットが街に入って来たら教えるように、キルコさんに言って」

「了解だよ、了解だって言ってるよ」

「街の外だと、森に逃げられてしまう恐れがありますね」

「中に入ってくれば追い詰められるけどねえ」

「人への被害があったら、困るんだよ」

「し、しばらく様子をみましょう」

「わかったんだよ、ご隠居」

「ん? ご隠居?」


 まあ、パットは水戸黄門を知らないから無理は無い。

 ベルナデットが街に入ってきたら入ってきた時の事だ。


 僕らが作ったパンが焼けた。

 みんなで熱々のそれをテーブルに持ち込んで食べてみた。

 うん、なかなか美味しい。

 セシリアちゃんも、初めてでこれなら才能がありますと褒めてくれた。

 色々な形で、味わいも色々だね。


「みんなのも美味しいね」


 トマスがパンを食べてそう言った。

 うんうん、良い会だったね。

 パン焼きが終わって、会は終了となった。

 セシリアちゃんは今晩から一般病棟に移るらしい。

 良かった良かった。


「パンを焼くのも楽しいわね、生まれて初めてパンを焼いたわ」

「たのしかったね、げんきくん」

「うん、来て良かった」


 僕らは、院長先生に挨拶をして、おいとまをすることにした。


「もう帰っちゃうの?」

「うん、またくるよトマス」

「また来てくださいね」

「うん、また来るよ」

「来るんだよ」

「私も、また来て良い?」

「うん、もうお友達だよ、カタリナちゃん」

「クルツもたまに来てるんでしょ?」

「うん、たまにお花持って来てくれるよ」

「もー、あいつったら」

「クルツさんともお友達なのね」

「うん、パーティの仲間よ」

「わあ、良いなあ」

「良く無いわよ、馬鹿男子ばっかりよ」


 あはは、クルツも世話好きだなあ。

 奴はセシリアちゃんが好きなのかな。

 なかなか微笑ましい感じだ。


 僕らは、挨拶をして、治療院を後にした。


「さて、ちょっと時間あるなあ」

「ギルドに帰って、マイカル様の講座をちょっとみませんか?」

「そうしようか。オッドちゃんはどうする?」

「馬車でごろごろしてるわ」

「セシリアちゃんは?」

「私は家に帰ります、ちょっと妹が風邪を引いてるので看病しないと、今日は楽しかったです」


 カタリナちゃんはぺこりと頭を下げて、連邦口方面の階段を降りて行った。


「またねー」

「はーい」


 カタリナちゃんはふり返って手をふった。

 うーん、良い子だなあ。


「あれで、モフモフさせてくれたら、文句はないんだけど」

「諦めなさい、アヤメ」


 僕らは階段を上って、塔路まで登り、ギルドへと戻った。

 中庭に入ると、まだ講座がやっていて、うまるちゃんが、マイカルさまにしごかれていた。


「おお、げんき帰ったか、一本ウマルと乱取りしていかんか」

「うまるちゃんボロボロじゃないですか」

「なんで、ちゃんずけなんだよっ」

「ほれ、まだ元気じゃろ」

「も、もう限界っす」

「なんじゃ、ひ弱じゃのう、そんなんじゃ、武道の天下はつかめんぞっ」

「まあ、一日で強くなるものでも無いざますから」

「まあ、そうじゃの、では、誰か、乱取りするか?」


 エルザさんが手を上げて、前にでた。


「ふむ、エルザか、相手は」

「ゲンキか、神さんが良い」

「げんきやるか?」

「めんどうくさいですっ」

「なろうっ、逃げるかっ」

「エルザさんは勝負汚いので」

「ふむ、では、そうじゃな、ニーナやってみるか?」

「へっ、あたしが? な、なんでにゃ?」

「使うのは、今日覚えた拳闘レスリングのみ、消える魔法無し、でどうじゃ?」

「うっ」

「それなら、いいかにゃ。あたしの人生で、凶眼のエルザと戦えるとは思わなかったにゃ」

「猫、手加減はしねえぞ」

「望む所にゃっ!」


「それでは、はじめっ!」


 エルザさんと、ニーナさんの乱取りがはじまった。

 意外に良い勝負してるかも。

 二日で覚えた拳闘レスリングの技だけだと、良い勝負みたいだ。

 でも、まあ、エルザさんは運動チートだから、拳闘レスリング独特の円を描くすり足でしゃっしゃと動き、早いパンチを繰り出している。

 対してニーナさんも、運動神経が結構良い上に、猫の獣人特有の柔らかい動きで、なかなか上手い。


「どっちが勝つかねえ」


 白翼のセストル団長が、僕の近くに寄ってきて、そうつぶやいた。


「どっちでしょうねえ、二人とも上手くなってますね」

「ニーナも運動神経良いからね」


 パンと、ニーナさんがジャンプして、壁を蹴って立体的にエルザさんに蹴り掛かる。

 二歩、間合いをすっとずらして、エルザさんが、ニーナさんの襟首を捕まえて、振り回す。


 豪快な技だなあ。

 途中で、襟を取った手を払い、ニーナさんが空中で身体をねじらせて、四つ足で畳に着地した。

 二人とも、動きが拳闘レスリングしてる。

 覚えが早いな。

 パンパンパパンと、エルザさんがパンチを繰り出す。

 あれは、ボクシング入ってないか?

 また見取ったのかな。

 パンチをかいくぐり、ニーナさんが低いタックルで、エルザさんの足をつかむ。

 にやっと笑ったエルザさんは、ニーナさんのお腹を抱えて逆さに持ち上げて、太ももに頭を挟み込んで、そのまま畳に落ちた。


 パイルドライバーやんっ!!


「ぎにゃああっ!」

「見事っ! 一本!」

「神さんがやってた技だから良いんだよな?」

「ま、まあ、ありじゃな」

「もう、俺がやられた技を覚えたのかよっ!」


 座って休んでいたうまるちゃんが声をあげた。

 ああ、うまるちゃんをアレで沈めたのか。

 それは、神さまが悪いな。


「神さま、あれは、レスリングでも、そのプロレスの……」

「ご、誤解じゃ、似た技があるんじゃよっ」


「すげえなあ、さすがはエルザさん」

「あの技は、外の地面だと、死ぬかもな」


 一本取って、エルザさんがドヤ顔でポーズを取った。

 ほんとにもう。

 負けず嫌いだなあ。


 話を聞いたら、まだ、立ち技しか教えてなかったらしい。

 投げが出るとは神さま自体も思わなかったようだ。


「変な技を使うと、エルザさんに見取られて、死人がでますよ」

「う、うむ、気を付けるとしよう」


 そんな感じで、マイカル様の拳闘レスリングの講座は終わった。


「拳闘レスリングの基本はどこから教えているのですか」

「立ち技の腕技からじゃな。足技もあるんじゃが、まずは腕技からと思ってな」

「足捌きも教えてますね、良い感じですね」

「投げも教えたいのじゃが、受け身を教えてからじゃな」

「拳闘レスリングの受け身は、どんな感じざますか?」

「あまり地面は叩かないのう、こう、くるりと回る受け身がメインじゃな」


 そう言うと、マイカルさまは、首を丸め、くるっと回った。

 おお、結構、柔道の前回り受け身とは違うね。

 実戦だと、岩とか有るし、手を痛めるからかな。


「ジュードーの受け身の方が覚えやすそうざますね」

「まったく、良い武道じゃのう、柔道は」

「嘉納治五郎先生に感謝ですよ」


 ちょと、マイカル流の回転受け身をやってみた。

 ふむ、立つときに足をクロスさせるのか。

 投げ技が違うから、受け身も違うっぽいね。


「うむ、さすが上手いの」


 マダームもくるりとマイカル流受け身を取って回った。

 さすが、うまい。


「このウケミとか言うのを覚えたら、勇者ゲンキのジュードーはかわせるのかっ、神さんっ!」

「馬鹿め、柔道は受け身を覚えてから本番じゃ、かわす技ではないわ」

「ウマルも、明日からジュードー講座を受けるざます」

「え、俺も? だけど、ゲンキはライバルだからさっ!」

「阿呆め、敵であろうと、ライバルであろうと、学べる機会があったら学ぶのじゃっ」

「教えてあげるよ、僕の動きをつかんだら、戦いやすくなるよ」


「明日、ウマルちゃんは、俺らと一緒にダンジョンいくんじゃねえの?」

「クルツ、おまっ、ちゃんずけすんなよっ」

黒い幽霊ブラックゴーストとダンジョンに行くの、うまるちゃん」

「あ、ああ、その、金も無いし、ダンジョンに潜って稼ごうかなって思ってよ。そしたらクルツが一緒に行こうって」

「うまるちゃん、ダンジョン初めてらしいからさ、色々覚えておかないと死んじゃうしよ」

「そりゃあ、よかったね、うまるちゃん」

「だから、ちゃんずけすんなって、言ってるだろ、勇者」

「ああ、ごめん癖で」

「武道家がダンジョンに行くとなると、色々厳しいざます。クルツさンに色々教わるといいざます」

「うす、ギルマス」

「クルツ、うまるちゃんをよろしくね」

「おうよ、基本的な事を覚えたら、ぜったい、どっかのパーティが声かけてくるからさ」

「がんばんじゃぞ、ウマル」

「はいっ、神さん師匠!」


 セストルさんが、あやめちゃんに近づいた。


「今日の夜に、片手剣の練習をしますか?」

「あ、おねがいします、セストルさん」

「あたしも、つきあうにゃ」

「わあ、ニーナさんも、ありがとうございます、モフモフして良いですか」

「い、嫌にゃっ!!」

「あら、アヤメに片手剣を教えるの?」


 シルビア姐さんが寄って来た。


「うん、なんだか、キルコゲールを操縦する時は、剣なんだってさ」

「おー、搭乗ゴーレム用なのね、魔法剣士を目指してるのかと思ったわ」

「生身の時は、魔法なんだよ」



 講座を受けていた、冒険者たちが行水場へ向かって歩き出していた。


「あ、エルザさんちょっと」

「お?」


 僕は魔法袋から、紙で包んだパリムを一切れエルザさんに出した。

 彼女はパクリと食べる。


「お、うめえな、このパリム」

「セシリアちゃんが焼いたものです」

「……そっか」

「明日の夕方に、会いに行きましょう」

「ん、わかった」


 エルザさんはうなずくと、ぶらぶらと行水場に向かった。

 さあ、どうなるだろうね。

【次回予告】

晩ご飯を食べたら、あやめの片手剣の修業である。

片手剣は、右手の剣よりも、左手の盾の方が重要だ!

そして、げんきは、あやめちゃん用の盾を魔法袋から出すのだが……。


なろう連載:オッドちゃん(略

次回 第258話

あやめの片手剣修業

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