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255. セシリアちゃんのパンを食べにいく

「それでは、今日の柔道講座を終わります」

「かっこよかったぜ、あんちゃんっ!」

「俺に、あの殴り合いの技教えてくれようっ」

「いや、ボクシングは、投げどころか、蹴りも無い、純粋殴り技だけの武術だから、実用性はあんまりないよ」

「でも、すげえ格好良かったじゃんよっ」

「マイカル流拳闘レスリングが、割と近いから神さまに教えてもらいなさいよ」

「おお、そうじゃよ、立ち技は結構ボクシングに近いのじゃ」


 フットワーク使わない時点で、まるっきりの別物ですけどね。

 マイカルさまの武道は、投げを警戒して、ボクシングみたいにフットワークを使わず、曲線のすり足での足捌きで、古武道とかに近いかな。

 実用性で言うと、拳闘レスリングの方が実戦向きだと思う。


 うまるちゃんは、道場の隅で肩を落としてしょんぼりしていた。


「まあ、気をおとすんじゃないざますよ。これから修業して強くなるざます」

「俺のカインデル鉄拳術が田舎拳法ってはっきり解って、悔しいんだ」

「マイナー武道はマイナーなだけの欠点があるざます。獣人が使うのに爪に特化していない、しかも投げへの対応が無い時点で未完成ざますよ」

「爪を使う武道だと、投げ技が無いんだ、だから……」

「世界は広いざます、まだまだ未熟ざますわ」

「立ち技だけなら、と思ったのに、パンチだけのボクシングに負けた……。俺は……」

「馬鹿もんっ! ぶつくさ言っておらんで、練習じゃっ!! 昼飯を食ったらしごいてやろうぞっ!!」

「か、神さん師匠……。教えてくれるんですか……」

「うむ、しばらく修業して、また勇者に負けろ、そうやって悔しい思いをして、だんだんと強くなれいっ!! それが格闘家ぞっ!!」

「は、はいっ!!」


 涙をこぼしながら、うまるちゃんはマイカル様に土下座をした。

 うんうん。

 柔道場にいるみんなの、うまるちゃんを見る目がやさしい。

 やっぱりみんな一本気な若者は好ましいらしい。

 うまるちゃんをマイカルさまとマダームに任せて、僕は行水場へ行き、汗を流した。


 パットと、エルザさんと、リターナーさんと、連れ立って、廊下を歩いていると、マイカルさまが声をかけてきた。


「おう、げんき、今日はわしの講座にくるんじゃろうな」

「あ、ごめんなさい、今日もお見舞いがあって、明日は確実に」

「えーー」


 なんか、神さまが涙目になった。

 しかたが無いではありませんか、おっちゃん武道神と、美少女パン職人だったら、美少女が大正義なのでありますよっ!


「明日はきっと受講しますので」

「ほんとじゃぞ、まっておるからなっ」

「神さん、俺らが、講座に行きますから」

「あたいも行くぜ」

「おうおう、エルザに、リターナー、お前らも良い才能を持っておるからな」


 マイカルさまはニッカリと笑った。

 ほんとうに、この神さまは武道が好きなんだなあ。

 うまるちゃんをよろしくおねがいしますよ。


 馬車に戻ると、あやめちゃんとオッドちゃんとカタリナちゃんがお茶を飲んでいた。


「お昼、どうするの?」

「んー、軽食かな、治療院で焼きたてパンを食べるからね」

「あ、なるほどなんだよ」

「あたいらは午後から武道なんだが」

「あと、カスピル商会のドワーフのお姉さんが、お米持って来てくれたので、磨いであるんだよ」

「おお、炊いて、味を見ようか」

「もう、火をいれれば炊けるんだよ」


 久しぶりに、ご飯とお味噌汁と、あと、何か。

 オッドちゃんの謎空間の魔導冷蔵庫を出してもらって、中をあらためる。

 あんまり、肉とかの残りは無いなあ。

 野菜も少ない。


 あやめちゃんが、ソファー冷蔵庫から、包みを取り出した。


「こんな事もあろうかと、挽肉とタマネギを買っておいたんだよ」

「おお、さすが、あやめちゃん」

「ハンバーグね」


 その通り。

 あやめちゃんにハンバーグを作ってもらって、僕がお味噌汁だね。

 キャンピング馬車の備え付けのコンロは一つしかないから、こちらで、ご飯を炊いて、テーブルに卓上魔導コンロでハンバーグを焼こう。

 エルザさんと、リターナーさんと、オッドちゃんのは大きめね。


「カタリナちゃんも食べていく?」

「え、良いんですか?」

「いいのよ、食べて行きなさい、食べない子は大魔導になれないわ」

「ありがとうございます」


 あやめちゃんにタマネギ状のネギを一個貰って、ジャガイモ的な物とお味噌汁にしよう。

 鍋にお水を張って、鰹節と昆布の出汁を取る。

 そろそろ乾物も少なくなってきたなあ、カスピル商会に頼まないと。

 キャンピング馬車のキッチンスペースは狭いので、一人が動くのがやっとだな。

 タマネギ状のネギの皮をむき、ざくざくと切っていく。

 ジャガイモの皮をむく。

 あやめちゃんは、テーブルでハンバーグの種をぺったんぺったんと作っている。

 鍋の中のお米が煮立ってきたので、火を緩める。

 はじめちょろちょろなかぱっぱであるよ。

 文化釜か、炊飯器が欲しいなあ。

 さすがに、魔導炊飯器はメイリンにもキルークにも売っていなかった、帝国に行けばあるのかなあ。


 十分ほどたったので、ちょっとの間強火にしてから、火を止めて横に置いた。

 しばらく蒸らすのが、ご飯を鍋で炊くコツなのだ。

 あいたコンロで、鍋に水を張り、昆布をいれて火を付ける。

 沸騰したら、昆布を取り出し、鰹節を入れる。

 一煮立ちしたら、昆布を取り出し、灰汁を取り、ボールにザルで取ってこすのである。

 そのあと、その出汁にタマネギっぽい物と、ジャガイモ的な物をいれて煮る。

 煮立ったら、お味噌を投入。くるくる回してとく。

 うん、良い味。


 あやめちゃんのハンバーグ第一陣ができはじめていて、ご飯が待てない人はパンでパクパク食べておる。

 パットにお味噌汁をよそってもらうように頼んで、僕は、帝国ソースと、マヨネーズを混ぜて、オーロラソースを作る。

 出来た、ソースを、もう、むっしゃらむっしゃら食べているオッドちゃんの残り半分のハンバーグにかける。


「! なにこれ、おいしいわっ!」

「オーロラみたいだから、オーロラソースって言われてるよ」

「うめえなあっ、味噌汁もうめえっ」

「いけやすね、これは」

「おいしいです、勇者さまっ」


 キャンピング馬車にはコンロがないから、付け合わせのジャガイモ焼きとかが作れなくて何だなあ。でも、あやめちゃんが残ったタマネギ状の物を輪切りにして焼いてそえていた。


 ご飯の蒸らしが終わったので、木の深皿に盛る。

 お茶碗が欲しい所だなあ。

 木を削って作ろうかな。


 みんなの所にご飯も出して、僕も食べ始める。

 おおっ、普通にお米。

 美味しく炊けたよ。


「ああ、美味しいでやすね、こうして食べる物でやしたか」

「米も良いもんだな」

「お米、おいしいですね」

「あやめちゃんハンバーグ、おいしいね」

「ありがとう、げんきくん」

「あとで作り方を教えてくれ、アヤメ」

「うん、いいよ、パットちゃん」


 なんというか、お店のハンバーグよりも、あっさり目なんだけど、はんなりと美味しい。

 牛乳に浸したパンと、ナツメグ風の香草が入っている。


「アヤメさん、お料理上手ですねえ」

「ありがとう、カタリナちゃん、モフモフしていい?」

「普通に駄目です」


 カタリナちゃんに断られた、あやめちゃんが涙目になった。


 ああ、お味噌汁が故郷の味だなあ。

 海苔が欲しいなあ。

 あと塩鮭とか。

 なんだか、日本に帰りたくなったよ。


 ふう、美味しかった。

 軽く食べたけど、和食を食べるとなんだか心の飢餓感が収まるね。


 オッドちゃんと、エルザさんと、リターナーさんの大食いトリオが、鍋いっぱいのご飯を消滅させてくれた。

 満足満足。

 あやめちゃんがいれてくれた、日本茶互換の香り茶を飲んで、ふうっと一息つく。


「おし、美味かった、じゃ、行くかリターナー」

「うす、姐さん、いきやしょう」


 エルザさんと、リターナーさんは、マイカルさまの講座に出かけていった。


 僕らも、治療院に行くかな。


「オッドちゃんも行く? セシリアちゃんがパンを焼くんだけど」

「え?」


 どうしようかなって感じにオッドちゃんの眉が曇った。


「セシリアちゃんって誰ですか?」

「殺人鬼に家族を殺された子だよ」

「わ、私も行って良いですか?」


 え、なんでよ? という僕らの疑問の視線を見て、カタリナちゃんは慌てた。


「その、私も何か出来ないかなって、歳も近いと思いますしっ」

「やっぱり、カタリナちゃんは優しいんだよ、モフモフして良い?」

「普通に駄目です」

「しゅーん」

「し、しかたがないわね、私が連れていってあげるわ、カタリナ」

「ありがとうございます、オッド師」


 オッドちゃん、あんた、さっき、あからさまに、めんどうくさいわって表情をしてませんでしたか?

 弟子に良い所を見せたいのだろうなあ。

【次回予告】

ケストナ治療院で、セシリアのパン焼き会が始まる。

彼女に教わりながら、いっしょにパンを焼くげんき達。

和やかで静かな午後が過ぎていく。


なろう連載:オッドちゃん(略

次回 第256話

治療院のパン焼き会

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