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254. ウマルちゃんと、激闘する

「ボレアスで戦えば、ノトスが覚醒したやもしれぬのに」

「覚醒の前に、だいたい死にますから」

「死に直面せねば、隠された能力は覚醒せんものだ」


 なによ、そのチート理論。

 まあ、僕もボレアスさんが覚醒しなかったら、普通にコルキスさんに殺されてますけどね。

 試合であんな強度の戦いとか、無理でしょうよ。


 うまるちゃんは、メルクさんに木製の護拳を借りて振っていた。

 意外に出来そう、なのと、あと、ぱらぱらと旅塵りょじんらしい土埃が散らばる。


「うまるちゃん、君、行水してきなさいよ」

「ちゃ、ちゃんとはなんだっ!! それに行水は嫌いだっ!!」


 あっと、脳内でうまるちゃん呼びだったから、つい出てしまった。


「行水してこないと、試合は許可しないざます」

「ぐぬぬ」

「メルク、武道着を売ってあげるざます」

「はい、一万グースです」

「た、高いっ、そんなっ」

「お金ないざますかっ」

「あ、あるけどよ、その宿代とか、飯食う金とかでさ」

「ダンジョン代さえ残れば、ダンジョン行って稼いでくるざます」

「わ、解った、に、逃げるなよ勇者っ!」

「講座やりながら待ってますから」


 うまるちゃんは武道着を持って、行水場に向かって去って行った。

 ふむ、行水してくるまで、どうしようかな。


 とりあえず、パットと乱取りしたり、リターナーさんと乱取りしたりしてるうちに、綺麗になった、うまるちゃんが帰ってきた。


 茶色い色のジャッカルさんだと思ってたのだが、毛色は青であった、色が変わるほど汚れるとは何事。


「へへへ、久々に水浴びをしたぜ、さあ、勝負だ勇者!」

「行きましょう、手加減はしませんよ、うまるちゃんっ」

「だからっ! なんで、ちゃんづけだっ!!」

飛高ひだかげんきです、流派は学校柔道!」

「あ、ああ、その、ウマル・ブラッテンです。流派はカインデル鉄拳術!」


 僕は手を軽く上げて、うまるちゃんと対峙した。

 彼は軽く背をまるめ、猫足立ちで、木製護拳を軽く握って構える。


「よしっ、審判はわしが務めようっ! ルールは無しっ! 好きに戦えっ! 相手の心が折れたら、そいつの負けだっ!!」


 ざっくりとしたルールですね。


「はじめっ!!」


 ぱんっ! と、一直線にうまるちゃんは中段からの正拳突き。

 お、意外に良い速度だ。

 僕はその正拳を捌いて、巻き込むように固める。


「ぬ、ぬおっ!」


 懐に飛び込んで、体勢を崩し、うまるちゃんを腰に乗せて、体落とし。


 ドターーーン!


 もの凄く綺麗に技がきまり、うまるちゃんは畳に叩きつけられた。

 ……。

 もの凄く痛そうな表情を、うまるちゃんはうかべた。


「……、カインデル鉄拳術って、投げの対処方、無い?」

「無い……。だ、打撃でこいっ!」

「いや、僕、投げの専門武道である、柔道家だから」

「どうして、そんな奴が、聖護拳を持っているんだっ!! 不公平だっ!!」

「そう言われてなあ。打撃はレティア武闘術だけど、師匠はギルマスだし」


 カインデル鉄拳術って、ボクシングみたいな立ち技オンリーなのかねえ。


「しかたがないざますね。今時、投げやグラウンドに対処方が無い武道があるなんて思わなかったざますわ。勇者ゲンキ、あたくしがやるざますわ」

「お手柔らかにしてあげてくださいね」

「立ち技の対処はあるようざますから、死ぬ事はないざましょう」


 うん。

 立ち会って、五秒で、うまるちゃんはマダームにボコボコにされた。


「くく、ちっきしょうっ!!」

「筋は良いざますけれど、覚えた武道が古すぎるざます。マイカル様をお師匠さまにして、しばらく拳闘レスリングの修業を積むといいざます」

「くそうっ! 俺ごときが、格闘王者になろうっていうのは、夢のまた夢なのかっ!!」


 まあ、あの腕前では、ノトスさんがめざめるまでは時間が掛かりそうだね。


「神さま師匠っ! 俺を強くしてくれますかっ!!」

「よかろう、入門を認めようぞ。励めよ」

「ありがとうございますっ!!」


 うまるちゃんはマイカルさまに向かって土下座をした。


「さて、今日の講座はこのあたりで……」

「まてっ! 勇者ゲンキ、立ち技で勝負だっ!! 俺は納得がいかんっ!!」

「えーー?」


 マダームにボコボコにされたでしょうに。

 同じ流派の僕にもボコられるよ。


 ……、あ、そうか。

 レティア流で戦わなければ良いのか。


「うん、じゃあやろう」

「手加減すんじゃないぞっ!」


 木製護拳を僕は魔法袋から出してつけた。


 そして、左手を前に半身で構え、軽く膝を曲げて、リズミカルにステップを踏んだ。


「レティアの動きじゃないざますね」

「ボクシングか、多芸じゃのう、勇者よ」

「自分の力じゃないですけど、徒手で格闘ならば、なんでもできます」


 スキルだからねえ。


 ワンツー、ワンツー。

 うん、漫画とテレビでしかボクシング知らないけど、普通に使えそう。

 スキルすげえ。


「おもしれえ、変な武術め、いくぜっ!!」

「よし、はじめっ!!」


 ビュッビュッとジャブで牽制していく。

 手を開けば、柔道とかにもつなげられるけど、この場合、純ボクシングでいこう。


 うまるちゃんは、独特の猫足立ち、猫背の構えから、正拳突き、中段突きとつなげていく。

 結構速いね。

 僕は、スウェーバックでぬるぬるよける。

 ワンツー、ワンツー。

 うまるちゃんは、腕で払い、二の腕で受ける。

 オッケーオッケー。

 良い感じの打ち合いだ。

 ジャブジャブ、フック、ジャブ、アッパー。

 コンビネーションで、どんどん進む。

 うまるちゃんの表情が苦しそうに歪む。

 彼の連撃をダッキング、スウェーバック 。


「おおお、なんかぬるぬる避けて気持ちわりー」

「へえ、パンチだけの武術か、珍しいね」


 うまるちゃんが腰をかがめ、回し蹴りを打とうとした。

 そこへ、どんどんコンビネーションパンチを繰り出しながら前進。

 蹴りはパーリングで打ち落とす。

 パーリングってのは、パンチで迎撃する防御技ね。

 蹴りのような重い攻撃は弾けないけど、軸はそらせるので、威力を殺せるんだ。

 懐にどんどん入って行って、アッパー、フック、ジャブ、アッパー。

 おっと、アッパーがもろに入った。

 うまるちゃんは、ジャッカルの獣人で、頭が獣化するぐらいのレベルだから、アゴは弱いかなと思ったけど、そのとおりだったようだ。


「うぐあっ!!」


 うまるちゃんは、後ろに派手に吹っ飛んだ。


「ダウンっ! ワン、ツー、スリー!」

「なんで、神さまは数をかぞえてんの?」

「十までに立ち上がらなかったら僕の勝ちなんだ」

「な、なんだとっ! ちきしょうっ!!」


 うまるちゃんは、それを聞いて、ばっと立ち上がった。


「戦えるかの?」

「戦えますっ!!」

「では、ファイッ!」


 うまるちゃんは、隙の多い攻撃はやめて、軽い小技を中心に放ってくる。

 お、いいね。

 うまるちゃんの流派は、ジークンドウみたいな、腕技が多いね。

 押さえて、同時に攻撃みたいな。

 結構ボクシングのパンチにも慣れて来たようで、見よう見まねで、ダッキングしたり、スウェーバックしたりしている。

 面白い。

 こちらも、カインデル鉄拳術の技を覚えてきた。

 ジャブの間に、裏拳気味のそれを合わせたりして、使ってみる。

 タンタンタタタンタタタンタン。

 そんな感じのリズムで、立ち技の打ち合いが続く。

 僕はダッキングし、ブロッキングし、ジャブをうち、フックを放つ。

 やあ、楽しい楽しい。

 ブロックした、腕は痛いし、脇腹に入った拳も痛い。

 でも、なんか楽しい。


 フリッカー気味のジャブ。

 超近接からのショートアッパー。

 肩を使った体当たりをすかす。

 殴り、殴られ、くるくるくるくるステップを踏んで回る回る。

 おお、良いフックが来た。

 というか、フック覚えたんだね。

 スウェーして、クリンチぎみの密着かげんで、脇腹にフック。

 動きが止まった。

 そのまま、パンチの回転数をおとさずに、ジャブジャブ、ショートアッパー。

 ぐっと、力が入って、痛みをこらえたうまるちゃんの頬に思い切りのフック。


 綺麗に入って、うまるちゃんは崩れ落ちた。


 マイカルさまが、テンカウントを唱えて、僕の名を呼び、手を上げた。

 いえーい。

 中庭のみんなが歓声をあげて、手を叩いてくれた。

 ありがとうありがとう。


 たまに、ボクシングパンチは使っていたけど、体系的に使ったのは初めてだった。

 ボクシングも面白いね。


<ふむ、妹の覚醒にはいたらなかったか>


 まあ、試合強度だしね。



【次回予告】

またも、マイカル神の講座をさぼって、治療院に向かうげんきたち。

涙目になる神。

良いのだ、おっさん神より、美少女パン職人を選ぶのは世界の選択だ!


なろう連載:オッドちゃん(略

次回 第255話

セシリアちゃんのパンを食べにいく

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