248. 肉のお店、メガトンミート
「ふむ、ドワーフ料理の美味い店か、あんたら、ドワーフ料理の何が喰いたいんだ?」
煙草屋のおやっさん八号のドワーフのおやっさんに、ドワーフ料理の美味しい店を訪ねたら、パイプをぼわりと噴かして、そう訪ねられた。
「肉」
「肉よ」
「まあ、肉かな」
「肉なんだよ」
「そうかいそうかい、だったらメイリンのドワーフ料理は駄目だな、どうも線が細すぎる。肉なら世界樹の街の岩窟亭だ」
「そこに行ってきたんだよ、美味しかったからまた肉を食べたいの」
「岩窟亭に行ってきたのか、なかなか目が高いな、だが、メイリンには、あんな肉を出す店はねえ」
「どこもお勧めじゃないの?」
「メイリンのドワーフは冒険者として迷宮に行く奴が多いんだ、料理がうめえのは、そういう暴れん坊ドワーフじゃねえ奴だな」
岩窟亭のとおちゃんは、十分暴れん坊ドワーフっぽかったけどね。
かあちゃんとセットだから良いのかな。
「だが、肉か、このメイリンには、ドワーフの肉料理を越える、肉料理屋がある」
「ほ、ほんとうか、親父!」
「おうともさ、その名も、メガトン・ミートって店だ!」
「メガトン」
「ミート!」
「なんだか凄く力強い響きなんだよ」
「やってんのは、人間の奴なんだけどな、その肉のすばらしさ、美味しさ、高密度さで、メイリン中のドワーフをノックアウトしてきた伝説の店だぜっ」
高密度は売りなのか?
「よし、そのメガトン・ミートに行きましょう!」
「場所はどこなの?」
「連邦口から下周りを北に行って、快楽亭ってキャバレーの裏だ」
その名前のキャバレーもいかがなものかな。
「さあ、行きましょう、我が君!」
「そうだねっ!」
「あれ?」
「ん、どうしたのあやめちゃん」
「エルザさんとリターナーさんは?」
「……」
「……」
まだ、マイカル様と道場かなあ?
「メイリンだと、この四人で動くのが自然になって忘れていたよ」
「ギルドに戻ろうか、げんきくん」
「だるいわ」
「二人を放っておけないよ」
「馬を返さねば良かったですね」
「ゲンキ、おんぶして」
「やだよ」
ぶつぶつ文句を言う、オッドちゃんを追い立てて、僕らは塔路に向けて階段を上り始めた。
まあいいのです、メガトン・ミートの肉を食べる為の運動と思えば、これくらい。
ふうふう。
共和国口から、塔路に向けて、一直線ぐらいで昇る道はあるんだけど、何しろ直登になるので、急角度な階段であるのよ。
わりかしだるい。
わっせわっせと昇って、上廻り横路を横切り、また階段。
そろそろ、あたりは薄暗くなって、ふり返ると、太陽は共和国の樹海の向こうに沈んで、空が赤い。
銀翼のみんなも、そろそろ訓練が終わって、夕食前だろうな。
ご飯の前に、いろいろ喋る時間が楽しかったな。
と、見ていると遠くからドラゴンが飛んでくるのが見えた。
残照にぴかりと銀色に輝いて、どんどん大きくなってきて。
僕らの前に降りて来た。
「よお、ゲンキ」
「ヨオ、ゲンキ」
ジガさんと、銀竜のユギスさんであった。
「うわ、どうしたんですか、ジガさん」
「メイリンに大使を送る途中だぜ」
「こんにちわー、勇者ゲンキ、オッド師」
ジガさんの後ろの竜行服に身を包んだエルフが、挨拶をしてきた。
「こんにちわ」
「共和国政府のメルスダンと言います、よろしくお願いしますね」
「こちらこそ」
「ジガ! ユギスに乗せてっ、行政塔に行くんでしょ、途中のギルドまでで良いから」
「ギルドは行政塔の隣じゃねえか、まあ、いいけどよ。じゃ、またなゲンキ」
ユギスさんが、ぱくりとオッドちゃんの襟首を咥えあげて、空に飛び立った。
うわ、凄い羽ばたきの風!
「あと、何年もジガさんとは会えないと思っていたんだよ」
「意外にすぐ会えたね」
「世界のVIPを運ぶのは、竜騎士が多いですからね。意外に会えそうですね」
オッドちゃんがズルをして、行政塔まで飛んでいってしまった。
僕らはぽくぽくと階段を上がるしかないね。
階段を繋いで、連邦口主道の上の方にまで達したら、足ががくがくになったよ。
よれよれ。
ようやく塔路について、ギルドまで歩く。
ギルドのロビーに入ると、オッドちゃんがちんまりとソファーに座っていて、こちらを見て、ニンマリと笑った。
「あら、遅かったのね、待ちくたびれちゃったわ」
イラッ。
いらだたしい大魔導は放って置いて、中庭に繋がる廊下に入る。
オッドちゃんは僕たちの後についてきた。
中庭はがらんとして、マイカルさまが一人、畳の上に座って、酒をかっくらっていた。
講座は終わったみたいね。
「おう、ゲンキではないか、どうした」
「エルザさんとリターナーさんを知りませんか」
「さてのう、行水場ではないか?」
と、言ってると、行水場の方から、エルザさんと、リターナーさんがやってきた。
行水していたらしい。
「おおゲンキ、帰ったかよ」
「おかえりなさいやし」
「晩ご飯に行きましょうよ」
「おお」
「ちょうど腹も減ったところでやす」
「どこに行くんだ?」
「肉」
「肉よ」
「肉なんだよ」
「肉のお店、メガトン・ミートという所を聞いたので、行こうと思うんです」
「なんだか……、心が揺れるような名前の店だな」
「凄い肉を食わしてもらえそうでやすね」
「わしも連れていけっ!」
「マイカルさまも?」
「武道の修業の後は、肉、それが世界の法則じゃっ! メガトン・ミートという素晴らしい名前の店があると聞けば、黙ってはおれんっ!!」
「あんたメチャクチャ喰いそうだから、奢りたくないわ」
「是非も無い、ギルマスから講義料として、いさかかの金をもらったわい」
「明日の講座でマイカルさまに教えて貰いますから、僕が奢りますよ」
「そうか、わるいのうっ! がははは」
こうして、僕らにマイカルさまを加えた一行は、メガトン・ミートを目指して歩き出し、ロビーでメルクさんに止められた。
「ああ、勇者ゲンキ、いろいろとサインしてもらいたい書類があるんですけど」
「あ、後にしてくれない?」
「メガトンゴーレムの賞金とかも出ましたよ」
「あ、やっと出たんだ、明日の朝に手続きしますよ」
「そうですか、では、ギルドカードの更新だけでもして行きませんか、すぐ終わりますから」
「あ、そうだね」
僕とあやめちゃんは、冒険者カードをメルクさんに渡した。
「また、謎の縁起物の文字が増えてますね。【熱血】と【友情】ってなにかしら?」
「さあ?」
まあ、スキルなんだけどね。
「グース金貨を、一人頭三枚いただけますか? カードの材料にしますので」
「い、意外に高いのね」
「それだけの格のカードなので、金カードを見せるだけで、各国の一流ホテルで泊まれますよ」
「けちくさいわね、大陸を救ったんだから、白金カードを出してもいいのに」
「一部ではそういう意見もあったのですが、グランドマスターが『一気に出世しては面白くあるまい』と鶴の一声で却下いたしまして」
「あの禿げ~」
冒険者ギルドのトップである、グランドマスターは禿げてるのか。
無限財布から、グース金貨を三枚出してメルクさんに渡した、あやめちゃんも三枚出していた。
メルクさんは、古いカードをレジスターぐらいの大きさの機械に入れて、上の皿に金貨を三枚置いた。
ウミョヨミョミーンと珍妙な音がして、新しいカードが出て来た。
おお、金色! スキルやレベルは元のカード通り書いてあるね。
できたてほやほやのカードを手にした。
というか、ちょっと熱い。
「スタンプは移らないのですね」
「ポイントもリセットされましたよ、また、どんどん魔物を倒してポイントを貯めてくださいね」
「これで、我が君とアヤメに並ばれてしまいましたね」
「パットは白金まで、どれくらいなの?」
「まだまだですよ。あと三十万ポイントぐらいですか」
「リターナーさんは白金ですよね」
「へい、ずいぶん時間がかかりやしたよ」
「エルザさんのカードは?」
「銀だ、あたいは冒険者じゃねえからな、魔物を倒さないとポイントが貯まらねえからさ」
「ふふん、私なんか、神銀なのよ、恐れ入りなさいっ」
「はいはい」
あやめちゃんが熱々と言って、新しい金のカードを受け取った。
「では、これまでの報奨金は、明日の朝に処理しましょうね」
「ありがとうございました」
「ありがとうなんだよ」
「おーう、ゲンキ、夕飯につれて行ってくれ」
相変わらず、世界的な竜騎士のジガさんは、幼なじみの高校生みたいな感じで声をかけてくるなあ。
「はい、一緒に行きましょう、ユギスさんは?」
「行政塔の天辺の竜舎で寝てるよ」
「天辺に竜舎あるんですか」
「行政施設のでかい所には、たいてい竜の発着場があって、竜舎もあるぜ」
ジガさんまで加えて、僕らはギルドを出て、一路、メガトン・ミートを目指す。
冒険者ギルドからだと、口なし主道を下りて、連邦口まで出て、そこから北上が早いかな。
日の暮れた、メイリンの街を、みんなでぞろぞろと歩く。
勇者二人に、大魔導に、聖騎士に、竜騎士に、暗殺者に、一流冒険者に、神さまである。
何をする団体か解らぬ。
解らぬが、今日は、肉を食う、その一念に凝り固まった、肉食団体なのだ。
肉、肉、肉!
【次回予告】
ついに伝説のメガトン・ミートに到着した、げんき一行!
怪しげな店のたたずまいにひるむ彼らであったが、肉食の欲望には勝つことが出来ない。
さあ、良く焼けた肉塊を暗い尽くすのだ!!
なろう連載:オッドちゃん(略
次回 第249話
メガトン・ミート、それは肉の暴風雨




