24. 父親の気持ち
【応援】の検証実験でみんなで遊んでいたら、昼頃となってしまった。
ちなみに僕の【徒手格闘】は発動条件とかは特になく、普通に柔道が常時上手くなる技能のようだった。
これはお得。
お昼なので、みんなで、お城に引っ込んで、ランチを頂くことになった。
朝ご飯を食べた、ダイニングでみんなでお食事である。
失敬騎士隊はお城の食堂で食べるそうだ。
気になるランチのメニューは、川エビを使ったトマトソースのパスタとポテトっぽいサラダ、これにバゲットのガーリックトーストが付く。
非常に美味しい。
遠くから「俺はエビ小僧を食べてやるぜー、ぎゃはは」とか下品な声が聞こえてきたが、失敬騎士どものメニューも同じようだ。
おのれい、奴らには、何時かぎゅうという目にあわせなければなるまい。
「それでは、父上、結婚式は何時にいたしましょう」
「そうだな、何時でも良いぞ、婿殿に希望はあるか」
「いや、その、あのですね……」
「ゲンキは私と魔王の討伐の旅の途中なのよ、結婚式とかしている暇はないわ」
ナイス、オッドちゃん。
と、オッドちゃんを見ると、彼女は、なんだか、一個貸しだからね、という感じのドヤ顔で僕を見ていた。
それはそれで、なんかむかつく。
「そ、それは困るなオッド、結婚式とはいえ、内々(うちうち)の物だ、一ヶ月もあれば大丈夫だぞ」
「一ヶ月も長逗留(ながとうりゅう(してられないわよっ!」
「オッドとアヤメが先に旅を続けて、結婚式後に私たち夫婦が合流するというのはどうだろうか、なっ」
「だめよ、ゲンキはタンクの運転手だから、ぬけられると困るわ」
「くっ、貴様っ」
「なによ、やるのっ、ワガママばっかり言ってると、城がこなごなになるわよっ」
パトリシア嬢が背中の大剣の柄に手をのばすと、オッドちゃんも席を立ってファイティングポーズを取った。
やはり、お城のコナゴナフラグがオッドちゃんの中で立っていたようだ。あぶないあぶない。
「まあ、まちなさい、二人とも。それならば、魔王を首尾良く討ちはたし、みんなが討伐の旅から帰ってきてから、パトリシアとゲンキの結婚式を催そうではないか」
ナイスダディ、僕はとっととメイリンの街で、転移の球を直して日本に帰るよ。
いくらパトリシア嬢でも日本までは追ってこれまい。
僕の身は安泰だ!
「そ、それでも良いですけど……。では、我が君の旅に、私も同行するっ!」
「ついて来ないでっ、あんたの乗るところなんか無いわよっ」
「ラ、ライサンダーが頑張る」
愛馬ライサンダーが過労死してしまうぞ。
お昼ご飯をすませると、ダディが僕に手招きをした。
「ゲンキ、それとアヤメ、ちょっと来てくれ」
「はい、伯爵さま」
「何かご用ですか」
僕とあやめちゃんが伯爵の後について廊下を歩くと、当然のようにパトリシア嬢が後ろをついてくる。
「パットは呼んでいないぞ、帰りなさい」
「いえ、夫の行くところ、妻は必ずついて行くものです」
「異世界のお客さんについて、内々の話だ、遠慮しなさい」
パトリシア嬢は、ぷうっとふくれっ面で、離れていった。
「まったく、パットは、いつまでも子供で困るよ、さあ入りたまえ」
そう言うと伯爵は執務室へと僕らを招き入れた。
そして大きな本棚をずらした。
スライド本棚? と思っていると、ずらした部分から隠し扉が現れ、伯爵はそれに鍵を掛けて、そのうえに絨毯をかぶせた。
「これで盗み聞きはできない」
「抜け穴……。暗殺用ですか?」
「ははは、ここは城なんでね、もしもの時の脱出用さ、暗殺だなんてとんでもない」
「客室のぬけ穴もそうですか?」
「……。うむ、あ、あれも脱出用だとも。実際に暗殺に使われたのは、この城が出来てから百年間で、たったの二回だけだよ」
二回暗殺があったら十分だよっ!!
どんだけ風雲急をつげる戦国時代だったら、百年に二回も客室で暗殺があるんだよっ!
「まずは儂からの贈り物だ。二人とも立ってくれるかな」
そう言うと、伯爵は戸棚からお財布のような物を出して、僕らのベルトに一つずつ付けてくれた。
「無限財布だ。と言っても中は手提げ鞄程度の容量だがな。中には金貨を二十枚、銀貨を二十枚入れてある。好きに使うとよい」
「でも、僕たちは、お金はオッドちゃんに出してもらってるので、その」
「いつまでもオッドめに、お金を使わせていても良く無いだろう、自分の好きな物を、それで買いなさい」
と言われても、二十二万ケルって日本円にして二十二万円を越えるっぽい金額だよ。
あげるって言われても困るな。
というか、無限財布自体、凄く高価な物じゃないのか、魔法の品物だし。
「伯爵様に、お金を貰ういわれがありませんので、すこし心苦しいですよ」
「これは、君たちが、パトリシアと別れるまで、仲良くしてもらうためのお礼だ。ゲンキが本当に好きなのはアヤメなのだろう」
うお、ダディ、気がついていましたか。
「ゲンキには感謝をしているのだ、パットがあんな柔らかい、女の子らしい表情を見せるのは初めての事だ。儂は、ずっと、パットは剣一筋のじゃじゃ馬のままで一生を過ごし、孫の顔はケインが嫁をもらうまでは見れないのだろうなあと、あきらめていた所だったのだ」
「そうだったんですか」
「できれば、このまま君たちの旅にパットを連れて行って欲しい、そして、なるべく長い間、初恋の夢を見させてほしいんだ。恋っていい物だなあと思う事ができるならば、この先、パットにも素敵な相手が見つかるだろう、冒険者ゲンキと冒険者アヤメに対する、儂からの正式な依頼だ、お願いできないだろうか」
ああ、そういう事か、だったら嫌も応もない、パトリシア嬢は、もう僕たちの友達なんだから。
「わかりました、その依頼、お受けさせていただきます」
「わたしも、問題無いと思います、伯爵様の依頼をありがたく受けさせてもらいます」
「おお、ありがとう、ありがとう」
あやめちゃんと顔を見つめ合い、柔らかくお互い笑った。
伯爵の娘を思う愛情が、ふんわりと心に暖かい。
「さて、なにか褒美で欲しい物は無いか、儂に出来る事ならば何でもいいぞ」
「いえ、僕の方は十分ですので……」
「あの私は、お古でいいので、初歩の魔法の勉強道具が欲しいのですけど」
「おお、旅行中にオッドちゃんに習うのかい、あやめちゃん」
「そうなの、少なくとも殺虫魔法だけでも覚えたいんだよ」
「良かろう、パトリシアが使っていた物が有るはずだ、用意させよう、ゲンキは本当に良いのか?」
あー、無いわけではないけど、どうしようかな。
ちらっとあやめちゃんを見ると、にこっと笑ってサムズアップしてくれた。
「あの、もし良かったらで良いんですけど、お父さんって一度、呼んで良いですか?」
「おお、そんな事か、良いとも」
「すいません、僕のお父さんは幼い頃に死んでしまったので、その、どんなものかなあって」
伯爵はにっこり笑って僕の前で手を広げた。
「おとうさん……」
がっしりとした伯爵の手が、僕を抱きしめてくれた。
ああ、なんだか、顔も覚えて無いんだけど、おとうさんってこんな感じだったような気がする。
少し目頭が熱くなって、鼻がきーんとする。
「ゲンキ、お前のパンゲリアでの家はここだ、いつだって帰ってきていいんだぞ。パットと結婚しなくても、もう、お前は俺の息子だ。魔王を倒したら、お前はニホンに帰るのかもしれない、でも、いつだってケンリントンの地はお前を歓迎するぞ、だから、泣かなくてもいい」
「はい」
なんだかみっともないことに、涙がぽろぽろこぼれてきた。
うわー、はずかしい。
ダディはいつまでも僕の頭をやさしくなでてくれた。
【次回予告】
出会いがあれば別れもある、領都で得たものは果てしなく大きい。
心の故郷が出来たげんきは、万感の思いを込め、城に人に別れを告げる。
なろう連載:オッドちゃん(略
次回 第25話
さらばだ、ケンリントン城




