22. その武術の名はジュードー
まずいまずいまずいまずい。
オッドちゃんはやる、絶対に彼女は無言実行するタイプだ。
僕が魔王討伐に同行しないというならば、その障害を物理で解決する女だ、オッドちゃんという女は。
そうでなければ、オッドさん百の黒伝説なぞは残せないはずなのだ。
やばい、負けられん。
が。
僕が、ぼんぼんに勝てる手段が見当たらない。
剣術をマジで習っている、ぼんぼんに、僕はどうやっても勝てない。
だが、僕が負けたら、ケンリントン城の崩壊だ。
城下町までは手を出さないだろうけど、お城はマジでオッドちゃんにやられそう。
キルコゲールをタンク状態のまんま持ち上げて、ドッカンドッカン殴りつけそう。
お城が平地になったら、隣の貴族とかにも白い目で見られるだろうし。
再建費用とか色々大変になりそう。
それで、王様に難癖をつけられて伯爵位を取り上げられたりしたら、ケンリントン家、一家離散だよ。
あの心優しいケンリントン一族にそんな没落の憂き目を味合わせる訳にはいかない。
やべー、進退窮まった、とはこの事だ。
「ね、ねえ、ケイン君、引き分けにしない?」
「ふ、ふざけるなっ!! 下郎っ!!」
ガッチンガッチン!
口先三寸での説得は、ぼんぼんを激怒させただけでありました。
困った困った。
「げんきく~ん、がんばってだよ~」
ふんにゃりした、あやめちゃんの応援が耳に届いた瞬間、不思議な事が起こった。
え、何これ?
すっと世界がクリアになった。視界が広く深くなる。
あれほど速いと思った、ぼんぼんの大木剣の速度がゆっくりに見える。
なんか、具体的には、回避率と命中率が三十パーセント、上がった感じ。
何で?
一瞬、気が抜けた瞬間を、ぼんぼんに狙われた。
ガーンと音を立てて、僕の木剣が宙に飛ぶ。
やべ、武器を飛ばされ……。
あれ?
とんっ、と、一歩、踏み出した足が、凄く速い。
速く、するっと地面を滑るように、びっくりするぐらいの距離を移動できる。
なんだこれ?
あ、これは昨日、ぼんぼんにアームロック掛けた時と同じ感じ。
するすると、僕はぼんぼんに近づき、大木剣の付け根を持つ彼の手を取った。
「なにっ!!」
水銀が流れるような、するするとした動きで、ぼんぼんの体を崩して、懐に入り込み、腰投げ。
スパーンといい音。
頭を打つといけないので、持ち手を気持ち引いて、上半身が浮くようにする。
気がつくと、僕はぼんぼんを柔道で投げ飛ばしていた。
「な、なんだ、それはっ!!」
「んー、たぶん柔道」
あ、掛かっていた感覚上昇な感じが切れた。
視界が普通に戻る。
あ、でも、柔道は、僕の中に、あるかんじ。
「ケインやれるか?」
「やれます、父上! すこし転んだだけですっ! やりますっ!」
「我が君……」
「な、なんだあれはいったい」
「ケイン様が勝手に転んだような」
「投げ技? え、エビ小僧の動きがさっきとぜんぜん違うぞ、なんだ、あの液体金属のような不思議な動きは!」
「さっきまでのエビ小僧とは思えんっ! いったい何がっ?」
「ゲンキよ、木剣を拾わずとも良いのか」
「僕は素手の方が強いみたいです」
「きっさまー、なめるなーっ!!」
激高して上段から振り下ろしてくる、ぼんぼんの大木剣を見て、僕は、何がどう動いて、どうすべきなのかが解った。
そうか、そうか。
講道館柔道の成立は明治時代、まだ幕末の気風が残り、剣を振り回す漢たちも沢山いた時代だ。
ぼんぼんの大木剣も両手で使う剣、対処の方法は同じなのか。
ぼんぼんの太刀筋を紙一重でかわし、片手を取る。
そのまま、ぼんぼんの体の勢いを使って、前に前に崩していく。
体をひるがえして、懐に飛び込み、そのまま背中にのせて、はね飛ばすように投げる。
バアアン!
演習場の床にぼんぼんが投げつけられた。
床に接する瞬間に、すこし引くようにして勢いを半分ぐらい消した。
怪我はしていないはずだ。
「なんだ、なんだよう、それはっ! おまえ、なんなんだよう!!」
「僕はげんきだ」
「なんだ、その変な武道は、なんだようっ!」
「これは、学校柔道だ、日本の誇る武道さ」
「ちきしょーっ、お前なんかに、お前なんかに負けるもんかっ!! お前になんかお姉様を取られてたまるかっ!! あれは僕のお姉様だあああっ!!」
「愚かな、人は誰かの物などにはなれないんだ」
「なんかげんきくんが、また変なモードに入ってるんだよ」
「ジュードー、すごい武道ね」
「ジュードー、エビ小僧の使う、あれがガッコウジュードー!」
「投げ技特化の武道、まさか、そんな物が!」
「恐ろしい腕前だ、あのエビ小僧!」
おっとっと、なんか変なモードに入っていた。
なんか、柔道が使えるようになってるんですけどー。
ぼんぼんの太刀筋が全部解るんですけど-。
なんで?
僕は普通に授業でしか柔道はやってない。
中学校の頃はチビだったので、なかなか練習でも投げられなかったし、寝技でなんか男同士でくっつくのが嫌で、適当にしかやってない。
ロボの時も、必死で格闘技経験を探して、柔道になっただけで、こんな達人っぽいの境地に達してた訳じゃ無いよ。
なんだこれ?
なんで、僕はこんなに柔道使えるようになってんだろうか。
「くそう、ちきしょう、ちきしょうっ!!」
鬼のような形相で、大木剣を振りかざしてかかってくる、ぼんぼんを、僕は無慈悲に、バッタンバッタン投げる。
奴はもう泣いているのに降参しない。
パトリシア姉ちゃんへの思いがそれだけ強いのだろう。
うむむ、どうしよう。
そうだ、だったら、こうだっ!
出足払いで、ぼんぼんを地面に転ばす。
そのまま、手を絡めて~、寝技じゃいっ。
落としたり、関節折ったりするのは可哀想。
だから。
男子学生の悪夢ともいえる、掛けられたくない寝技ナンバーワンの栄光に輝く、この技。
上四方固めだっ!!
「ぐわっ! な、なな、なんだー、なんだこれーっ!!」
がっちり決まって動けまい、ふははははっ。
上四方固めとは、敵の上体を上から押さえ込む技である。
具体的にいうと、僕の頭がぼんぼんのお腹に乗っている。
僕は両手で、ぼんぼんの服の脇をがっちりと掴んで押さえ込む。
ボンボンの腕は肘と膝を使って、動かなくする。
太ももで、ぼんぼんの頭を押さえる。
という技だ。
当然僕の股間は、ぼんぼんの額あたりに乗っている。
なんだかとてつもなく屈辱的な体勢になるので、授業の乱取りの時などは、「あれはやめておこうぜ」と自主規制ぎみに避けられる技なのである。
「なんか、なんか乗ってるーっ!!」
ふっ、お前の額に乗っているのは、僕のおいなりさんだ。
ぐりぐり。
「あ、あれは法律的にありの技なのか?」
「き、きっつい技をかけるな、エビ小僧」
「地方条例で禁止されそうな技だな。やるなあ、エビ小僧」
上四方固めはがっちり掛かると体の稼働する部分が少なく、抜けだしにくい。
変態っぽい見かけによらず、良い技なのである。
まあ、バーグさんにかける勇気は無いけどね、あいつはとても喜びそうだし。
「まいった、まいったからーっ!! うわあああんっ!!」
ふ、僕は技を外し、ぼんぼんを解放した。
ぼんぼんは演習場の床に倒れて、おいおい泣いていた。
僕は立ち上がり、カッコイイポーズを決める。
「僕の、勝ちだっ!!」
「うむ、天晴れだ、ゲンキ! 我が娘、パトリシアとの結婚の件を差し許すぞ」
「「「あっ!」」」
「主様、ああ、あなたが私の主さまです」
【次回予告】
超太古の魔導文明の謎の一端にふれる、げんき。
カードに隠されたその秘密は、パンゲリア世界の全てを変えてしまうかもしれない禁断の技術だ。
なろう連載:オッドちゃん(略
次回 第23話
冒険者カードの謎




