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21. 御曹司ケインとの決闘

 朝である。

 どたばたした夜中の大騒ぎの割には、すっきりした目覚めでした。

 部屋付きの洗面台で洗面歯磨きを済ませると、メイドさんが洗濯した服を持ってきてくれた。

 ちなみに歯磨はみがききは、ランドの木という、むともしゃもしゃになる木の枝の切れ端に粗塩あらじおを付けて行う。

 結構しょっぱいけど、すっきりするのだった。


 服を着がえて、朝食をとりに食堂へ。

 寝間着は出発までに洗濯してくれるそうだ。いたれりくせり。


 十六畳ぐらいの大きな部屋にテーブルが置かれていて、先に来ていたらしい、あやめちゃんが僕をみて小さく手を振った。

 伯爵一家とオッドちゃんがやってきて、朝食が始まる。

 みんなそろって食べるのね、伯爵家は、なにげにアットホーム。


 気になるメニューは、バターロール系のパンと、ゆで卵、ポタージュスープ、ミニサラダ、厚めのベーコンを焼いたものであった。

 これに、紅茶にハッカをちょっと混ぜたようなお茶が付いた。執事さんがトポポと入れてくれる。

 どれもこれも美味しいなあ。

 パンに付けるバターの味がね、なんか半端はんぱないおいしさなんですよ。

 日本にもって帰って、おかあさんに食べさせたいなあ。

 メイリンの街で、お土産につぼで買おうかな。


 もしゃもしゃ食べていると、ぼんぼんがそわそわ体を動かしてウザイ。


「早く食べるんだ、下民! 今日は良い決闘日和だぞ」

「そんな日和はいやだなあ」


 おちつけ、ぼんぼん。

 あとで立派に負けてやるからさ。


 食べた食べた、さあ、決闘だ。

 外に出ると目を洗われるような良い天気。

 この世界、日差しが強い感じでハリッとしてるなあ。湿度が低いのかな。

 ああ、もう朝から痛いのはやだなあ、良い天気なんだから、あやめちゃんと一緒にどこまでもタンクでドライブしたいよ。

 オッドちゃんは置いていきたいよ。

 お金を使う時だけ出てきて欲しいよ。


「なんか凄く都合つごうの良い事を考えられてるような気がするわ」


 感の良い奴め。


 さて、みんなでケンリントン城の裏手うらての演習場へ。

 ここはいつもはケンリントン騎士団の方々が頑張って練習したりするところらしい。

 演習場には四、五人の甲冑かっちゅう騎士さんがいて、パトリシア嬢に追い出されていた。


「では、これより、パトリシアの結婚を掛けて、我が息子ケインと異世界人ゲンキとの決闘を行う。審判しんぱん不肖ふしょうわれ、ギデオン・ケンリントンがつとめさせてもらう、良いな」

「問題はありません、父上」

「問題ないです」


「我が君……」

 パトリシア嬢が頑張ってとばかりにぎゅっと両手を重ねて祈るポーズをとる。

 かわいいなあ、パトリシア嬢、君の声援に答えたい所だけど、僕は負ける気満々だ。


 ダディから木剣を渡される。

 意外に重くて固いな。日本で売ってる木刀並だ。

 いかんな、痛そうだ。


「ふ、下民げみん、覚悟しろ、僕は五歳から剣を習い、今では剣術の銀腕輪だ」


 そう言って、ぼんぼんは、キランと輝く右手首の銀色の腕輪を見せた。


「銀腕輪ってどれくらい?」

「え、知らんのか、お前。お姉様が白銀プラチナ腕輪だ、その下が金腕輪、その下が銀腕輪だ」

「一番下が銅腕輪かい? 下から二番目じゃないか」

 剣道初級ってところかな。

「一番下は鉄腕輪だっ! 下から三番目だっ!」

「我が君っ! ケインはとしの割には使えます、お気を付けてっ!」


 ぼんぼんの癖に真面目に剣術やってたんだなあ。

 雰囲気的にインドアな感じの子だったが、尊敬する姉を目指して努力したんだろうな。

 ふっ、そういう奴は嫌いじゃ無い。

 だが、僕に勝ち目はない。


 僕の、負けだっ!!


「まいりました!」

「こらっ」


 ダディに頭をどつかれた。


「い、痛い」

「何というか、婿むこ殿はお茶目が過ぎるな。神聖な決闘なのだから遊んではいかん。深刻しんこくな怪我か、相応の実力を出し合っての降参以外、わしは勝負の終わりをみとめないぞ」

「ゲンキ殿、余裕見せすぎです……」


 しょうが無いなあ。

 とりあえず、ぼんぼんと訓練場の真ん中でお互い剣を構えて対峙たいじした。


「ぷっ、なんだあれ、あれが姫様の思い人なのか?」

「構えもできておらんな、なげかわしい」

「へっぴり腰だなあ」

「素人だな」


 外野の騎士さん達が、うるさいなっ。


「ふざけやがって、そんな腕で、お姉様との婚姻こんいんのぞむとはっ」


 ぼんぼんは目を怒らせて、大木剣を振り上げて、僕に襲いかかってきた。


「死ねえええっ!!」


 大木剣が空を切り裂き、ビュッといい音を立てて、ふり下ろされた。


「うひょはんっ!!」


 意味不明の言葉が口から勝手に出てしまい、僕はエビのように体をねさせて後ろに逃げた。

 大木剣の間合いの五倍ぐらいの距離に逃げた。


「ぷっ、ああいうエビ、川で見たぜ」

「ぷ、ぷぷう。や、やめろ、姫様が俺らをにらんでる」

「いや、だけどさ、いるよなああいうエビ、つつくとぴょーんって」

「や、やめろ、耐えられん、プーッ」


 僕の挙動きょどうが、騎士さんたちに大受けである。手を叩いてゲラゲラ笑ってる。

 パトリシア嬢は後で殺すという目で、騎士さんたちを見ている。


 ほがらかな笑顔につつまれた演習場だが、その真ん中で僕は脂汗あぶらあせをかきまくっていた。

 や、やべえ、思ったよりボンボンの剣は威力がありそう。

 マジに良い感じにボンボンは大木剣をれている。

 頭に当たれば即死しそうなぐらいの勢いがありそう。

 やべえ、やべえ、銀腕輪なめてた。


「恥ずかしく無いのか、匹夫ひっぷめっ!!」


 ぼんぼんがガンガンと大木剣を当てて来る。

 僕は必死に、その斬撃に木剣を当ててしのぐ。

 一発当たるたびに、手がびりびりとしびれる。

 ヤベエ、ヤベエ。

 本気の剣術をやった奴、やべえ。


「逃げの一手かっ! おまえなんか、おまえなんかに、お姉様は渡さないっ!」


 腕か足に一発食らってリタイヤとか思っていたのだが、これはマジ半端はんばない。

 どっかに一撃食らうと、まず普通に骨が折れる。

 骨が折れたら、旅は続けられない。

 そうすると、僕はケンリントン城でパトリシア嬢の看病を受けて一ヶ月か二ヶ月過ごすわけで。

 マジかっ! そんな状態で、この僕が間違いを起こさないはずがないっ!!

 断言しよう、絶対僕は間違いを起こす!

 間違いを起こしたら、もう、僕の旅はこの城で終わりだ。


「闘う意思ぐらい見せたらどうだっ! 卑怯者めっ!!」


 ガンガンガンッ!


 パトリシア嬢は頭が弱そうだが、とても良い人だ。尊敬そんけい出来る女性だ。

 ダディだって漢らしくて、包容力ほうようりょくがあって、父さんって呼べる存在だ。

 僕のお父さんは、幼い頃死んでしまったので、お父さんと呼べる存在が出来るのはとてもあこがれる。

 ぼんぼんだって、姉をこんなに思う良い子なのだから、きっと、すぐにわかり合える。

 負けたって、理想の家庭、理想の家族が待っている。


 引くも幸せ、進むも幸せだ。

 僕はどうしたらっ。


 ガキン、ガガキン!


 ケンリントンの家はお母さんが不在のようだ。

 どうだろう、僕の決闘の怪我がなおったら、なんとかして日本から僕のお母さんと妹をこの世界につれてくるというのは。

 ぼんぼんだって可愛い妹ができたら、悪い気はしないだろうし、妹もぼんぼんになつく気がする。

 もしかしたら、もしかして、ダディとお母さんが良い感じになって、あたらしい家族になれるかもしれない。


 ガッ、ガガガ、ビュッ、ガシッ!


 ああ、もう、負けてしまおう。

 これくらいやれば良いだろう。

 わざと、どこかで大木剣を受けて、骨を折ってしまおう。

 たったそれだけで、僕は楽になれる。


 ビュオン。と、背筋が凍った。


 な、なに、これ、殺気?

 ぼんぼんも、はっとして剣を止めた。


 どこ、どこからっ。


 殺気の先には、オッドちゃんが、すごい怖い目をして立っていた。

 オッドちゃん、目こわ。


 まるで、決闘に負けたら、私が、この手でケンリントン城を更地さらちにするわよ、と言っているかのような目だった。


 オッドちゃんならやりかねない……。

【次回予告】

男子三日会わざれば刮目かつもくして見よ、漢が覚醒かくせいするのは一瞬だ。

げんきは、新たなる力を得て大きく羽ばたく。彼が最後に選んだ本当の勇気とは?


なろう連載:オッドちゃん(略

次回 第22話

その武術の名はジュードー

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