20. 夜這い、それは淫靡な罠
お腹いっぱい食べて、その後お風呂を頂いた。
ケンリントン城の一階にある浴場はとても大きい、プールぐらいあるよ。
洗い場は行水場式で、お湯が天井からとととと降ってくる。
浴槽は十メートルぐらい。
そんなサイズのお風呂が男女別にある。
ケンリントン城は地方貴族のお城にしては超豪華だなあ。
浴室は男女別なのでラッキーすけべイベントは起こらなかった。
ちえっ。
伯爵の家族三人には大きすぎないか? と思ったら、ケンリントン城の従業員全員が時間を変えて入るためなのだという。
福利厚生施設の一つなのね。
ほかほかになって浴場をでて、脱衣所で寝間着に着がえ、控えていた若い執事さんに今日着ていた服の洗濯を頼む。
ふかふかの絨毯を敷きつめた廊下を、僕に割りあてられた寝室に向かう。
廊下は魔法的な、なんか灯りが点っていて、はんなりと明るい。
「あ、げんき殿、その、寝間着姿も、素敵です、ね」
「あ、パトリシア……」
ぶっと、吹き出しそうになった。
なんだーっ! そのうっすらと紫色のスケスケのネグリジェはっ!
パトリシア貴様ーっ! お色気攻撃なのかーっ!
けしからん、けしからん!!
巨大オパーイは本物だったようだっ!
謎機能でB地区は見えない、魔法か! 魔法なのかっ!
オパーイ、オパーイ!
腹筋がうっすら見えるお腹!!
わっしょいわっしょい、紐パン紐パン!!
すげえすげえと、僕がガン見していると、パトリシア嬢は、ポッと顔を赤らめた。
「わが君、その、女性の体を、そんなに、じっと見ては、いけませんよ……」
「あ、あ、ごめん、パトリシアがあんまり綺麗だったんで、目が引きつけられてしまったよ、ははは」
「もう、ゲンキ殿ったら、でも、すこし嬉しいです」
ととと、と、あんまり色っぽくないクリーム色の厚い生地のネグリジェを着たオッドちゃんがパトリシアの体の前に立ちふさがった。
ど、どけようっ!
「ゲンキのエロ小僧。パトリシアもはしたないわ」
「うわー、げんきくんの、はっちゃけぶりに、わたしは、どん引きなんだよ」
あやめちゃんも来た。
桃色のふわっとして、肩がかるく、ふくらんだ厚い生地のパジャマが可愛い。
可愛いけど、どけようっ!
スケスケは、スケスケは、正義なんだよっ!!
「前屈みにならないのっ、エロ餓鬼ねっ!」
「げんきく~ん」
「ゲンキ殿っ! 大丈夫ですか、どこか具合が」
主に、僕の暴れん坊な部分が特に具合が悪いよっ!
変な歩き方になるぐらい、大変な事になってるよっ!!
おっとボンボンが家政婦みたいに廊下の角から睨んでいる。
ダディが来る前に退散退散。
「じゃ、みんなお休み」
「おやすみなさい、ゲンキ殿」
「おやすみ、良く寝るのよ」
「おやすみなさいなんだよ」
まったくもう、とつぶやいて、僕は寝室へ向かった。
僕に割り当てられた寝室は、大体十二畳ぐらいかな、大きめの部屋に豪華な調度、ガラスドア窓の向こうは、ロミオに声を掛けたくなるような、ちょっとしたテラス。
そして、ベットはお姫さまが寝るような、えんじ色のどっしりした天蓋付きベット。
ふおおお、村の宿のベットとは大違いだ。生地もいい物を使っていますね。良い仕事です。
ふかふかの羽毛の枕、厚手のベットカバーの下には薄手のシーツ。
毛布とか布団じゃないのね。完全西洋式ベットだ。
シーツに体を滑り込ませる。敷シーツは木綿のようだ。
虫もいないようだし、快適快適。さすがお城。
ふう、と一息吐いて、リラックスする。
おう、なんかとろとろする。
タンクで夜行しなくてよかったなあ。
でも、こんな良い所に泊まると明日からは辛そうだなあ。
あー、今頃、おかあさん心配してるだろうなあ。
妹は泣いていないだろうか。
早く帰りたいなあ。
帰還するときは、出発時刻に帰れるのだろうか。
ドラゴンの残骸とかあるのかなあ。
報道陣に捕まりそうだなあ。
帰って、あやめちゃんと映画に行くのかなあ。前売り券はオッドちゃんの四次元ポケットに入れたズボンの中だっけ。
シネマコンプレックスはドラゴンが出た所にわりと近いから営業中止になってたりするとやだなあ。
あやめちゃんと一緒にアニメ映画を見に行こうとして、アニメみたいな目にあってるのは、実際へんな話だよなあ。
コンコン、とガラスドア窓あたりで音がした。
……。
パトリシア嬢とかが夜這いに来たのではあるまいな。
さすがにあのスケスケネグリジェ姿でせまられたら、断る自信はないぞ。
間違いを犯したら、パトリシアルート確定だ、お城で幸せな生活を強いられてしまう。
ふうと、一息ため息をついて、僕はベットから出て、窓に向かった。
「来ちゃった」
意外! 窓の外で、てへぺろと微笑んでいるのは、メルヘンポエムホモのバーグさんだった。
僕はマッハの速度で窓を閉め、掛け金をガチャリと掛けた。
「ゲ、ゲンキ君、それは酷いよ、僕だ、バーグだよ」
「うるさいっ、帰れっ!!」
「たしかに迷惑かもしれない、非常識かもしれない、だけど、僕はもう、自分の気持ちに我慢ができないんだ」
僕は、バーグさんの顔面に鉄拳を叩き込みたい気持ちを我慢できそうもないよ。
もう、やめやめ、僕はベットに潜り込んだ。おやすみっ。
ガチャンと音がして、ガラスドアが開いた。
「え、鍵は!」
「ふふ、初歩的な鍵開けの魔法さ、ゲンキくん」
「なんだっ、吸血鬼って、呼ばれなきゃ人の家に入れないんじゃないのかっ!」
「ははは、僕は吸血鬼のニューウェーブなのさ、そんな古くさい因習には縛られない、日光も恐れない、ニンニクも丸かじり、流れる水も僕を阻めない、招待を受けずとも人の家に忍び込む、そんな自由な吸血鬼それが、バーグ・ミッシェルトンという男なのさ」
あー、お前は自由だよ、自由すぎてもう、フリーダムってフリガナが付くぐらい自由だ。
あと、臭そうなのでニンニクの丸かじりはやめろっ。
「お願いだ、怯えないでくれ、ゲンキくん、そして僕の話を聞いてほしい」
「ききたくない」
「ああ、何という冷たい言葉なんだ。だが大丈夫、僕の本当の気持ちを知れば、冷たい厳しい心は春の根雪のように溶けて消えるはずだ。どうかお願いだ」
「黙れ、帰れ」
「僕は君が望むなら、魔王軍四天王の地位を捨てる事も恐れない。どうか僕に血をわけてほしい、そして僕の眷属として、永遠に僕の側にいて欲しいのだ、僕は君を愛してしまったのだ、優しい君よ、愛しい、僕のげんき君」
「まっぴらごめんだっ」
目をうるうるさせながら、メルヘンポエムバンパイヤは僕に近づいてくる。
こいつは吸血鬼の弱点をほとんど無くしたかわりに、とんでもない別の弱点が出来ている。
超絶に頭が悪い、というか、惚れっぽいというか、自由の呪いというか。
ああ、これはパトリシア嬢と同類だ。同じ生物だ。
なんなのだ、この異世界の住人たちは、ちょろいんの呪いが全世界規模で掛かっているのか。
これが、この世界の特質ならば、なんとも残念としか言いようがあるまいっ!
もしや、このパンゲリア世界全土にはびこる、ちょろいんの呪いを解くために、僕はオッドちゃんに召喚されたのではあるまいな!
そんなのは、嫌すぎるっ!!
「馬鹿な事をと、君は否定するかもしれない。僕と君は敵味方に分かれているからね。だけど、僕が君に命を救われて、君に抱いた心のときめきは、種族を越え、男女の性差を超え、敵味方を越えた、多次元世界の真実なんだと、僕は思う」
「うるせー、ホモ、出て行けっ!」
「これは愛なのだ、君と別れて、僕は基地に帰り、自室で泣いた。なんという悲劇的な出会いなのかと、世界を呪った。そして立ち上がった。僕の頑張りでこの世界に穴を開けよう、僕の恋を阻む物は全て討ち果たそうと、だから、ゲンキ、僕といっしょに永遠の愛に旅立とう」
「フリーダムに世界を永遠にうろちょろする存在なんか、オッドちゃん一人で沢山だっ!」
「……。いや、オッド様とは、ほら、ちょっと何か違う感じの放浪なんだ。なんというか、こう角度的な感じで」
バーグさんはなんだかロクロをこねるような手つきで力説しはじめた。
ITベンチャー創業者か、あんたはっ!
「そこまでだっ! 我が君から離れろっ、呪われた吸血鬼めっ!!」
ドカン、大きな音がして、ベットの下から、大剣を抜いたスケスケネグリジェのパトリシアが飛び出してきた。
ベットの下から……。
「く、おてんば令嬢だとっ!!」
「大丈夫ですか、ゲンキ殿っ!!」
ベットの下をみると、なんだか四角い穴が黒々と口をあけていて、銀色の梯子が見える。
暗殺用の抜け穴かな。
なんだか僕はケンリントン城の暗部を見たようで、ぞくりと背筋に冷たい物が走った。
「い、いえこの穴は、その、我が君の安全を昼夜を問わず見つめる為のものでして、べ、べつに、その夜伽を無理矢理せまって、あわよくば既成事実を作り、来年の今頃にはこの手で二人の愛の結晶を抱こうとか、そういう意味のぬけ穴では無いのです。本当です。神に誓って誤解ですよ、我が君!!」
「卑劣な、なんという薄汚れた女なのだっ! ゲンキ君はこういう人、嫌いですよね-。でしょー」
バーグさんがなんか先生に言いつける子供口調になっていて、呆れて見ていると、ぱらぱらと上から埃が落ちてきた。
「話は聞かせてもらったわっ!」
天井の羽目板を一枚ずらして、世界一やっかいな魔導師が顔をだしていた、ので、僕は近くにあった、長い棒を手に取り、羽目板を閉めた。
あとでメイドさんに聞いて見たところ、この棒は魔法の灯りの調整用の物とのこと。
先端にU字型の金具がついていて、灯りの根元のラッチを回す物らしい。
「な、ちょっ、閉めないで、閉めないでっ、てばっ!!」
「もう、僕はおなかいっぱいですので、オッドちゃんは普通に自分の寝室にお帰りください」
その願いもむなしく、駄目人間の最上級の方が、ひらりと飛び降りてきた。
クリーム色のネグリジェが埃で真っ黒だ。
「魔王軍の四天王の一人がゲンキの寝込みを襲い、拉致監禁して、私への人質にしようというのね、わかってるわ」
「ちがいます」
「ちがうのだ」
「そういう話ではありません」
三人で一斉につっこんだ。
部屋のドアがカチャリと開き、眠そうな目をしたあやめちゃんが、僕たちの方を見まわした。
彼女は、うんうんとうなずいてドアをそっと閉めた。
鍵掛けるの忘れていたかな。
日本には部屋ごとの施錠の習慣がないからね。
「く、栄光の大魔導師オッド様と、おてんば令嬢に立ち塞がれてはしかたがない、今日の所は出直すとしましょう。だが、ゲンキくん、僕の心は、永遠に君の物だ、さらばっ!」
「まてっ! 背徳の男色吸血鬼め、逃がさんぞっ!」
「なんだかわからないけど、逃がさないわっ!」
バーグさんはテラスに出て、バンパイヤウイングで逃げ去っていった。
僕はメイドさんに、釘とトンカチを出して貰って抜け穴の扉を塞ごうとしたが、部屋側から掛ける鍵がある、ということでちゃんと施錠してもらった。
暗殺に使うぬけ穴ですか、とメイドさんに聞いたら、目をそらし、そんなことはありませんよと棒読みで答えられた。
パトリシア嬢が残念そうに穴を見つめて涙目になっていた。
オッドちゃんがまた天井に上りそうになっていたので、普通にドアから帰ってもらった。
パトリシア嬢が物欲しそうな顔でぐずぐずしていたので、メイドさんに頼んで追っ払ってもらった。
メイドさん強い。
という感じで、メイドさんに再びベットメイクしてもらったベットで疲れきった僕は眠りについた。
やれやれだぜ。
【次回予告】
決闘、それは己の力で相手の意見を組み伏せる暴力的な儀式。
漢の意地を、令嬢と伯爵に見せるため、決闘に臨んだ、げんきなのだが……。
なろう連載:オッドちゃん(略
次回 第21話
御曹司ケインとの決闘




