19. ケンリントン城の晩餐会
「さあ、みんな、気分を変えて、晩餐会に行こうではないか」
ぱん、と伯爵が手を打って、沈んだ場を打ち払うように、そう言った。
「あら、私は不可触ではなかったのかしら」
「本人を前に逸話を語っていたら、一方的にお前が悪いわけでは無いような気もしてきてな、特別にお目こぼしという奴だ、国際的には秘密だぞ」
そう言って伯爵はウインクして、立てた人差し指を唇にあてた。
やあ、やっぱりダディは話せるなあ。
ぞろぞろと僕たちはお城の中を歩き、晩餐会会場へと向かった。
晩餐会会場は小さめのホールで、それはそれは豪華。
白の漆喰に金色のはめ込み枠、キラキラと光るシャンデリアに謎魔法の光が明るく輝く。
まあ、なんて事でしょう、夜のケンリントン平原を見渡せるテラスには、透明度の高いガラスがはまって明かりを反射し、夢の中の豪邸のようです。
部屋の真ん中には半円状の大きなテーブルが置かれ、その上には、もう湯気を立てた山海の贅を尽くした料理が並びます。
部屋の奥には、五人の着飾った楽団が、弦楽器、打楽器、ピアノの前でスタンバイ済み、何時でも音楽を奏でる準備はできてます。
などと、ビフォア済みのナレーションのマネが出てしまうような豪華さだった。
席次はー、えーと、オッドちゃんが上座? 僕はえーと。
などと迷っていたら、紳士な感じの執事さんが、僕をエスコートしてくれた、すんません。
席次は、楽団の前の席に伯爵、その次にパトリシア嬢、そのお向かいにぼんぼん、パトリシア嬢のお隣に僕。僕の向かいにあやめちゃん、僕の隣にオッドちゃんが座った。
全員が座ると、伯爵が手を振る、楽団がそれを合図に緩やかな音楽を奏でだす。
「さあ、作法などは気にせず、大いに楽しんでくれたまえ。今日の料理はケンリントン領で産した物ばかりだぞ」
作法を気にせず、と言われましてもね。
皿の上にあったナプキンを胸に差し込む。で、良いんだよね。
うんうんあやめちゃんも同じようにしている。
胸にするのか、膝に置くのか迷うんだよね、ナプキン。
前菜は、鱒科の魚のパテっぽい。
えーと、基本的に外側の食器から使って行けばいいんだよね。と、あやめちゃんを見る。
うん、あやめちゃんも外側のフォークを指している。
ぱくり。
うわっ、すごい美味い。口の中が極楽、西方浄土。
阿弥陀仏も大喜びで踊りそうに美味い。
魚の上品な油が口のなかでほどけてフンワリと蒸した野菜に被さって極上の相性だ。
美味いね、と、あやめちゃんに目で合図。美味いぞーと、目で返される。
オッドちゃんも、パテを、ちんまり切ってパクパク食べている。
人生的には基本的に駄目で、非常識なオッドちゃんだけど、作法とか仕草には品があるなあ。
「マナーは素晴らしいですね。正直、ほっといたしました、ゲンキ殿」
パトリシア嬢が小声で言ってくる。
貴様、僕はパンゲリアよりも文明が発展している世界から来たんだぞ。
た、たぶん、より発展してる世界から。
ぼんぼんが、あやめちゃんに何か話しかけて、談笑している。
笑顔を向けるな、ぼんぼん、その子は僕んだぞ。
パテの皿が下げられて、かわりに置かれたのはエビとトマトっぽい物のサラダだった。
ちょっとへたの部分がトマトと違うけど、トマト、だよね。あと葉物。
ああ、酸味の利いたドレッシングが喉に清涼な風を呼ぶようで、これは美味い。
ハスカップっぽい味の香草が入ってるのかな。
川エビっぽいエビも日本で食べるエビの味と、ひと味違って面白い。ちょっとトロッとした感じ。
しかし、コースの順番が完全にフランス式だね。
執事さん、メイドさんが金属器にスープを入れてもってきて僕の前のスープ皿に入れてくれる。
ど、どうもです。
入れられたスープは透明度の高い、赤い赤いコンソメ、良い匂い。
あやめちゃんがコンソメを見て、くっという顔をした。
まあ、また料理Umeeのネタを潰されたので悲しがっているのだろう。
透明度の高い具のないコンソメはフランスの宮廷料理で開発されていて、良く料理ネタで使われるからなあ。
スープスプーンを取り、音を立てないよう気をくばりつつ一口すくい口に入れる。
ほわああ。
野菜の味がみっしりと赤く深いスープにしみ出していて、これはトレビアン。
この異世界の野菜とか肉とかの素材は、日本よりも何倍も美味しい感じがする。
これを異世界から持ってきた料理技術で調理すると、もの凄く品質の高い味の物になるのだなあ。
料理スキルを持ってる異世界人にとっては夢のように、やり甲斐のある世界なんだろうなあ。
きっと、カレーも、蕎麦も、寿司もありそう。
「お父様、ゲンキ殿との婚姻を是非お許し願いたく。オッドとは手を切らせますので」
「ふーむ」
駄令嬢、ご飯時に重い話をするんじゃありませんっ。
「僕は、このような下賤な者を兄と呼びたくありません」
「ふーむ」
スープの次は魚料理。
おお、なんだかギラギラして綺麗な銀色の魚だなあ。
オーブンで焼いた大きな魚に、異世界トマトと異世界オリーブが散らされてあって、色合いも綺麗。
良い匂いのソースが掛かって美味そうです。
執事さんが、各皿に取り分けて下さる。おお白身なんだね。
フォークで少し取って口に運ぶと、ほろりととろける白身、口にはふんわりバターの豊潤な香り。
美味い、超美味い。
わあ、これは凄いうま味の魚だ、似てるのは鯛かなあ、もうちょっとこってり感あるなあ、鱈をレベルアップさせたような。すげえ白身魚味。
あー、後口が凄い良い、この料理。
バターの重みが、香草の匂いですっきり消えた。すげえ。
美味い美味い。
ぱくぱく。
「良かろう、オッドの手の者とは言え、手を切れば条約的には問題無かろう。ケインとの決闘での勝利を条件に婚姻を認めよう」
「ありがとうございます、父上!」
「くっ、必ず明日の決闘で、下郎めに目に物を見せてやりますっ、あんなやつをケンリントン家に入れるなど言語道断です」
必ず、明日の決闘で、ぼんぼんに負けてやるっ!
おっと、パトリシア嬢がこっち見てる。
「あ、うん、僕はがんばるよ、パトリシア」
「そう、ですか。ゲンキ殿、それは嬉しいです」
ほっこり花のようにパトリシア嬢は笑い、頬を赤らめる。
ぽんぼんは忌々(いまいま)しげに僕を睨む。
なんとか、怪我が少ないように、ぼんぼんに怪我をさせないように、明日は負けたいね。
パンが出て、肉料理が出て、デザートが出て、全部、超美味かった。
晩餐会は終わった。
【次回予告】
驚天動地の超展開に、さすがのげんきも舌を巻く。
かの猛攻を避けることが出来るのか、がんばれげんき! 明日はどっちだ。
なろう連載:オッドちゃん(略
次回 第20話
夜這い、それは淫靡な罠




