17. ケンリントン伯爵との謁見
「君が我が娘パトリシアを嫁にしたいという、命知らずの異世界人か、ふむ、楽にしたまえ」
ギデオン・ケンリントン伯爵は大柄で、赤毛の髭モジャ伯爵であった。
どっしりとした四肢にはみっちりと筋肉がついて、ナイスダディという感じ。
パトリシアと似た蒼い目が柔和に僕を見つめて笑っている。
豪華な刺繍がついたチェニックを身にまといビロードのような光沢のマントを肩にかけ、台の上に座り、豪華な椅子に座っている。
謁見の間らしく、背後には神話をかたどったらしいレリーフが見える。
伯爵の隣にはパトリシア嬢の弟だろうか、ぼんぼんっぽい坊ちゃんが座っている。
「君は名を何という? 直答を許す」
「飛高げんきです」
僕はぺこりと頭を下げた。ど、土下座の方がいいのかな?
一応片膝礼っていうの? 左片膝を上げている感じのポーズをとっているのだが。
オッドちゃんの方をみたら、彼女は片膝礼しながら、ふんぞりかえっていたが、よく考えたらアレはまったく参考にならないと気がついた。
あやめちゃんにいたってはオッドちゃんの横でちょこんと正座……。いや、ぺったりと女の子座りをしていた。
まあ、あやめちゃんはスカート丈短めだからなあ。
「ゲンキか、良い名前だ、よーし、娘との結婚を許そうではないか!」
「父上、ありがたき幸せっ! 私は、私はっ、父上の子でよかったっ」
ちょ、ちょっと待ていっ、ダディ!
長女の結婚をそんな簡単に認めていいのかっ!
「うわっはっは、ゲンキとやら、正直パットには困っておったのだよ、なにせ、このじゃじゃ馬ぶりで、男に興味も持たず朝から晩まで剣術の稽古ばかりでなあ。見合いをさせてみたら、大暴れして、相手を半殺しにするし、もう今代はパットに女伯爵で授爵させ、家督は弟の子供にでも継がせるかなと、諦めていた所だ」
「ち、父上、そのような事は……、我が夫に恥ずかしい」
「これでケンリントンの家も安泰だ、はやく孫を抱かせてくれよ、婿殿。わはははは」
や、やばい。なんだか退路をずんずん塞がれている感じがギョンギョンいたします。
ダーンと音を立てて椅子を倒し、伯爵の隣に座っていた男の子が立ち上がった。
金髪碧眼を絵に描いたようなぼんぼんだ。
金の刺繍のチェニックを着て、その上の黒いチェーンがいっぱい付いたチョッキがカッコイイ。
「ぼ、僕は納得できませんっ! 我が愛するパトリシアお姉様が、かように貧相で下賤な男に嫁がれるなどとっ!」
おお、意外な所から助け船が、がんばれ、もっと言ってやれっ。
ぼんぼんは手袋を脱ぐと、僕に投げつけてきた。
なんか、反射的に避けてしまった。
「避けるなっ!」
「ごめんなさい」
ぼんぼんは中学生ぐらいかな、僕を睨み殺すがごとく睨んでいる。
いや、僕は悪くない。
悪いのは君の姉さんの駄令嬢だよ。
あやめちゃんが、手袋を拾ってぼんぼんに渡した。
「すまない、ではいくぞ、避けるなよ」
「ああ、うん」
ぼんぼんはオーバーハンドで僕に手袋を投げつけた。
手袋は僕の胸に当たって、ぽそりと音をたてて落ちた。
「ケンリントン伯爵家長男、ケイン・ケンリントンが、姉の婚約解消を求めて、ヒダカ・ゲンキに決闘を申し込むっ!」
「馬鹿な、ケイン! お前は私の幸せを阻もうというのかっ!」
「いいえ、お姉様、お姉様は間違っておられる、このような貧相な男と結婚しても、必ずお姉様は幸せになぞなれないっ!」
「父上、なんとか言ってください! ゲンキは搭乗型ゴーレムの操縦者ですっ、決闘などできませんっ!」
「ふむ、ケインの言う事にも一理あるな、決闘も受けられない漢をケンリントン家に入れるわけにはいかんな。ゲンキよ、我が前に力を示す事ができるか?」
ふむ。これは。
「お受けしましょう、伯爵!」
「ゲンキ殿!」
「安心してください、僕の可愛いパトリシア。勝ちます、必ず勝って、あなたとの愛を伯爵に示してみせましょう」
「ゲンキ殿、いえ、我が君……」
ほうっと、頬を薔薇のように染めて、うっとりとパトリシアは微笑んだ。
パトリシア嬢は可愛いねえ。
可愛いが……。
しかし。
僕は負ける。
決闘に負ける。
負けて負けて負け続けてやるっ。
命をかけて決闘に負けて、この縁談をご破算にしてやるのだっ。
うっわーはーはっはっはっ!
にやりと笑って、あやめちゃんを見ると、彼女も悪い笑顔で、サムズアップ。
いえーーーい。
「では、決闘は真剣でいいか? ゲンキ」
「木剣!」
「くく、死ぬのが怖いか、なんという情けない奴なんだお前は」
「死ぬのは怖い。木剣」
「はーはっはっは、決闘するまでもないな。この臆病者めっ!」
「ケイン、ちがうのだ。わが愛する夫は、ケインを死なせるのが怖いと、こう言ってるのだ」
「な、なんだってっ! 何という高慢な奴、ゆるさないぞっ!」
「いや、まあ、とりあえず木剣で」
「今日はもう遅い、明日、日が昇ってからにしなさい」
「はい、お父様。絶対負けないからな、下民めっ!」
絶対負けてやるからな、ぼんぼんっ。
「もうよろしいかしら、お腹がすいたわ」
「ああ、悪かったね、晩餐会に……」
伯爵がオッドちゃんを見て固まった。
あ、なんか超不吉な予感がする。
「お、お前は、不可触の大魔女! オッドではないかっ!!」
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彼女の人生の過酷さに、涙を隠せないげんきたち。
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なろう連載:オッドちゃん(略
次回 第18話
不可触の理由