13. あつまれっ! 残念美少女ハーレム
「わ、わたしの婿になるとな、なんと、広大なケンリントン伯爵領がもれなくついてくるんだぞ。未来永劫にわたって衣食住の心配はいらないと保証しよう。領地経営なんかは私がやれるから、なんだったらずっと遊んでくらしてくれてもかまわない。もちろん手伝ってくれるととてもうれしいのだが、やはり二人の子孫のために領地はなるべく大きいほうが良いしな。ど、どうだろうか」
いったいぜんたい、このおてんば令嬢はなにを言ってやがるのでございましょうか。もぐもぐ。
「何をいってるの、パトリシア、頭がおかしいんじゃ無いかしら、ゲンキが好きなのはね、この、私なのよ!」
もぐもぐ。
「わ、私なのよっ!」
いったい、なに言ってるんですか、この駄ちびっ子大魔導は。
あんまりびっくりしたので、二度言われるまで内心ツッコミも忘れてしまったよ。
「もう、何を言ってるんですかあ、あたし、杜若あやめは、げんきくんに告白されて、デート中だったんだよ」
あやめちゃんがドヤ顔で胸を張った。もぐもぐ。
うん、そうだね、現在も絶賛泊まりがけのデートの途中だ。
「昨日の夜、ゲンキとは仮のおつきあいで、本物のデートじゃないんだよだよ、とか言ってたじゃない」
「い、言ってたけど、それはその、恥ずかしかったからなんだよっ、その。アレだし。というかー、オッドちゃんこそ、昨日初めて会ったくせに-、げんきくんが自分の事好きだなんてー、なんの根拠があるのー」
なんかあやめちゃん口調が変になってるよ。もぐもぐ。クラスでの猫かぶりモードのマドンナしゃべりだ。
だよもんしゃべりに戻そうよ。もぐもぐ。
「目よ、昨日ゲンキの部屋に入ったら、今にも襲うばかりの野獣の目をしていたわ、あれは私の体に欲情していた証拠よ!」
そんな目してねーよ、なにぬかしてやがるのだ、この堕大魔導は。ぶっ殺すぞ。
っても、口に出すとぶっ殺されるのは僕なんで黙ってるけどね。もぐもぐ。
「なんかげんき君が、『そんな目してねーよ、なにぬかしてやがるのだ、この堕大魔導は。ぶっ殺すぞ』という目をしてるんだよ。長いつきあいだからそれくらい解るんだよ」
「なっ! ゲンキが私に対してそんな失礼な事を考えるわけがないわっ! 悪質なでっちあげよ!」
「ハハ ソンナコト カンガエテナイヨー、ヤダナア、オッドサン」
「な、なんで、すごい棒読みなのかしら」
「いや、そんな事はどうでもいいんだ、皆の衆。別にゲンキ殿が好きな女性がいても、私は一向に構わない。私を正妻にしてくれるならば、妾が何人いようと、それは、漢の甲斐性というべきもので、気になぞしないぞ」
しらんがな。もぐもぐ。
「私は男性にもてないのだ、この通り男勝りの美少女聖騎士だからな。私自身も男などには何の興味もなかった。だが、しかし、今日、ゴーレムのパンチを身を挺して、かばってくれたゲンキ殿の姿をみて、胸の奥にあるなにかが、ドキュンとはじけたのだ、漢の器の大きさを初めて知ったのだ。是非ともこの漢をわが夫にすべきだと、ささやいたのだ、私の魂が!」
……。
サンドイッチ完食。
あー、美味しかった。
「もう、パトリシアも、あやめもわかってないのね、いいわ、そう言うのなら、直接ゲンキに聞けばいいのよ、誰が一番好きなのかを!!」
オッドさん、私以外を指名したら、首をもいで殺す、と言わんばかりの殺気を放つのをやめてください。
そういうのは最低です。
「僕が好きなのは、あやめちゃんです」
僕が一言言い放つと、オッドちゃんは目を見開き、その後涙目になった。
パトリシア嬢は、険しい顔をして、あやめちゃんを睨む。
あやめちゃんは、ふんにゃらあ、というかんじに顔をほころばせて花のように微笑んだ。
「だって、まだ泊まりがけのデート中だから。オッドちゃんもパトリシアさんも割り込んで来た略奪愛の人だから。僕はさっさと日本に帰って、あやめちゃんとのデートを再開したいんだ」
「ま、まるで私が、ニホンから、むりやりゲンキたちを連れ出したみたいな事を言わないで!」
むりやり連れ出してないみたいな言いぐさだよ、オッドちゃん。
パトリシア嬢は、もうがまんができん、と言うように、片手を振り上げ、振り下ろし、振り上げ、振り下ろした。
「別にゲンキとアヤメが、逢い引き中でも、私は一向にかまわんっ!! これは恋愛の話では無い、婚姻の話なんだっ!!」
「まだ高校生なので未成年なので、結婚はいたしかねます」
「なにいっ! パンゲリアでは十歳から結婚できるぞっ! げんき殿は十歳以下という事はあるまいっ! 納得できんっ!」
「アヤメになんの弱みを握られているの、ゲンキが私の事を好きじゃ無いなんて、考えられないわ。脅迫ね、脅迫されてるのね」
この人たちは、あれだ、人の話を聞けない病の人たちだ。
ふと気がつくと、敷物の上をあやめちゃんが高速で膝行してきて、僕の隣に座った。
ち、近いよ、あやめちゃん。
そして、僕の胸に手を回して、がっしりと抱きついてきたーっ!
やわい、やわらかい、あやめちゃんの体、フンワリと花のような良い匂いがして、あやめちゃんのつつましやかな胸の膨らみが僕の腕に当たって。うわうわうわ、どうしよう。
「ウェヒヒヒヒ」
オタっぽい、その笑い声で、あやめちゃん株は僕の中で大暴落。
空前のバブル崩壊だ。
なんだかなあ、もう。
あやめちゃんが抱きついたのを見て、オッドちゃんはなんだか女豹のような鋭い目をするし、パトリシア嬢は唇を噛みしめて震えながら涙目だ。
「私も抱きつく! これは邪な気持ちでは無い、未来の伯爵領を守るためなのだ!」
「ゲンキは、私の気持ちを理解できるわよね、もちろんっ」
オッドちゃんとパトリシア嬢も、キシャーと声を上げて、野獣のような素早い動きで僕に抱きついてくる。
「離れて、これは私のげんきくんなんだよーっ!!」
あやめちゃん、蜘蛛の糸が切れて地獄におちますよ。
三人の美少女に、もみくちゃにされて、もうどうしていいやら。
あーもうオッドちゃんのアバラがこすれて痛い! あんた胸なんか無いからっ!
パトリシア嬢に至っては、金属甲冑の胸当てがガンガン当たって全然嬉しくもなんともない、ただの鈍器だっ!!
やめてー! こんな残念ハーレムは嫌だよ!
【宣伝】
街道に巣くう悪漢どもの高笑い、非道な奴らをこらしめるのは、この僕だ。
この世に悪の栄えたためし無し、げんきの正義が炸裂するっ!
なろう連載:オッドちゃん(略
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初めての山賊退治