95. 二十七階から二十八階
わっせわっせと階段を上りきると、野営準備中らしい冒険者パーティがいた。
「ありゃ、あんた達は上がって来たのか? フロアボスは?」
「倒しましたよ」
「お、そりゃラッキーだ。ボスが復活する前に通ってビッグフロアで野営するかな」
「おじさん、地図持ってないかな」
「お? なんでだい?」
「縦穴で落ちちゃったんで、地図持ってないんだよ」
「そうかい、だが、只ってわけにはいかねえな」
「いくらぐらい?」
「三金貨で、どうだい」
「高えよ、オヤジ、外だったら、三銀貨で売ってるだろっ」
「バーロー、こういう物はな、必要な時は値上がりするんだぜっ、ひひひ」
僕は無限財布から、金貨を三つだして、おじさんにわたした。
「へへへ、一階、一枚、三金貨だから、あと金貨百二十枚だ」
「それは、なんの冗談かな。お主を叩き切ってから、懐を、さぐっても良いのだぞ」
パットがすごむと、冒険者のおじさんは顔色を変えて手を横にふった。
「ははは、冗談冗談。はい、地図だ」
おじさんは、地図帳を、僕に渡した。
「フロアボスも倒してくれたし、大サービスだ」
地図を見てみると、色々書き込みがあって、使い込んである物だった。
「色々、情報が書いてあるけど、いいの?」
「ああ、もう、俺らは三十階から四十階を狩り場にしてるからよ。市販地図は三十階までしか書いてないから、もういらないんだ。良かったら大事にしてくれよ。俺らの四年間の記録なんだぜ」
「ありがとう、大切にするよ」
「あはは、それが良いや。じゃあな」
六人パーティの冒険者達は、ぞろぞろと階段を降りていった。
ふう、これで地図も手に入った。
あとは上がるだけだな。
ミノさんより強い敵は、もう出てこないだろう。
この階のこっち側には水場は無いのか。
一度、二十八階に降りて、登った所に水場があるらしい。
地図を見ながら進む。
おっとでっかいカマキリが二匹でてきた。
二メートルぐらいあって、鎌をヒュンヒュン振り回している。
ふり下ろして来た鎌の背の部分を押さえて、力の方向をどんどん曲げて行く。
ぐるっと鎌が一回りして、胴体が付いて行かずに転んだ。
カマキリの後頭部にナックルパンチ。
カマキリは死ぬ。
もう一匹も、パットが鎌と打ち合った剣に雷をまとわせて、感電させて殺した。
クルツがナイフで、カマキリの胴を切りさいて、魔石を取り出す。
非常に作業っぽい流れ。
通路をぬって進んで行くと、下向きの階段がある。
どんどん降りて行く。
イヌが群れを成してやってきた。
「アタックドックだよ、動きが素早い!」
五匹も居るな。
わわ、噛んでくるっ。
足を噛みに来た奴を、すり足で避けて、首筋に手を巻き、上から押しつぶすように、首を折るっ。
ぎゃんと一声吠えて、アタックドックは死ぬ。
だんだん解ってきた、骨を折るのは力じゃ無くて、タイミングと角度だね。良い感じに力が入ると、ぽっきんと簡単に折れる。
二体目の噛んで来た奴の鼻面にパンチを入れて、ひるませる。
首を固めてふり回して、三体目の真上に落として、首を折りながら、牽制もする。
すり足で距離を詰めて、あごの下に手を入れて動きを止めると、いつの間にかクルツが短剣で心臓をさして殺している。
あとの二匹は、パットが切ったり、雷撃したりして、死んだ。
四つ足相手の柔道はこんな感じか。
重心が読めれば、なんとかなるな。
ひっくり返すと、そのままでは戦えない生物が多いし。
でも虎とかライオンとかには同じ手は、きかないだろうなあ。
僕と同じぐらいの大きさか、もっと小さいから、首折りを狙えるので、大きくて筋力があると、また違う闘い方をしなければ。
パーティとしては、クルツが僕のサポート、トレ坊がパットのサポートに入ってる感じ。
地図も手に入ったし、このまま二十階まで上がれば、何とかなりそうだね。
さくさくと、地図を見ながら通路を歩く。
冒険者のおじさんから貰った地図には、宝箱確定とか、良い物が出やすいとか、心おどる記述があるんだけど、無視。
数時間前におじさんたちが取って行ってるだろうしね。
ダンジョンの宝箱は、一度取っても、数日すると中身がまた入ってる事が多いらしい。
たいていは、ゴミみたいな物とか、少量のコインだったりするんだけど、結構良い物が出る時もあるらしい。
中堅の冒険者は、そういう宝箱のある所をあさって、お金にかえて生活してるとのこと。
そう考えると、色々な書き込みのある、この地図の値段の三金貨はわりあいと妥当な値段なのかもしれないね。
そうして歩いていると、脇道で、冒険者が五人ほど倒れているのが見えた。
死体だな。半分ダンジョンに喰われかけて、地面に沈んでいる。
クルツが駆け寄って、財布とか、装備とかを探しはじめた。
「やめぬか、クルツ、死者の尊厳を犯してはならぬ」
「いいんだよ、トレバー、死んだ奴は金はいらないし、装備も使えねえから、問題は無いんだよ。こうするのが供養にもなるって師匠は言ってた」
いろいろ探したのだが、たいした物はなかったようだ。
さっきの冒険者さんたちが持っていたんじゃないかと、クルツは推理した。
ちえっ、と舌打ちをしたあと、真面目な顔をして、クルツは死体に向けて合掌した。
つられるようにトレ坊も合掌。
僕もパットも、死者の冥福を祈った。
そのまま通路を歩いて行くと、二十七階に戻る階段があった。
わっせわっせと上がって行く。
のぼり上がった所で一息ついて、あたりを見回す。
あんまり景色は代わらず、暗くて青白い石作りの通路があるだけだ。
地図の二十七階の部分を見てみる。
水場無し、強敵は、ドラゴンパピーが希にでるそうだ。
ドラゴンの子供か、ケイズハウンドとどちらが強いかな。
「いや、ブレスもドラゴンフライ並だから、兄ちゃんたちなら大丈夫だろ」
「あんなもんか」
「大きさも、虎ぐらいだ、ケイズハウンドの方がよっぽど怖いぜ」
虎ぐらいの竜が容易い相手とは思わないけど、なんとかなるかな。
通路を歩いて行くと、壁面が焼け焦げていて、すわ、ドラゴンパピーか、と思ったら、竜の死骸が転がっていて、ダンジョンに喰われかけていた。
さっきの冒険者パーティがドラゴンパピーを倒していたっぽい。
ラッキー。
さらに先に進むと、ゾンビが居た。
なんか、今の冒険者よりも古い感じの格好をして、ウーウー言いながら、こちらへ寄ってくる。
八体と数は多いけど、動きが遅いな。
「ゾンビは首を落とすか、脳を破壊してください」
「それはやだなあ」
とはいえ、そうは言っていられないので、腕を掴み、体勢を崩して、脊髄辺りを殴りつける。がくっと体が崩れるが、まだゾンビは動く、今度は後頭部を殴る。うわ、頭部からデロリンとなんか出てきて臭くてグロイ。
動きは止まったが。
うえええ。
「兄ちゃん、転がせ、切るのは俺とトレバーでやるっ」
「おう、それは助かる」
すり足で動いて、ステンステンとゾンビを転がして行く。転んだゾンビの頭部にクルツとトレ坊が短剣を突き入れる。
ゾンビの動きは止まる。
パットはすぱりすぱりと大剣を綺麗な動きでふり回し、首を落としていく。
そんなに時間も、かからずに、ゾンビを全滅させる事ができた。
「兄ちゃん顔色が悪いぞ、なんだ、びびったのか?」
「グロイのは苦手なんだ」
「本当に勇者は強いのか弱いのかわからぬな」
「そのアンバランスも、我が君の魅力だ」
「なんだよ、パット姉ちゃんは、兄ちゃんに、ほの字かよっ」
「悪いか、クルツめっ」
和やかにパンゲリア人は笑っていやがるが、僕は気持ち悪くて吐きそう。
ゾンビは嫌だなあ。
クルツがゾンビの懐とか装備を漁っている。
「なんか良い物出るのか?」
「ゾンビはなあ、生きていた時代の装備をそのまま再現してるから、財布から、お、あったあった、古金貨、これは高く売れるんだぜ。装備も古いけど、良い物だったりするし」
片手剣と盾をクルツは別に置いた。
「この二つは品物が良いから、売れそうだぜ。兄ちゃん、袋に入れてくれ」
「おう、さすが、盗賊だけあって、鑑定も出来るんだな」
「戦利品を選んでもって帰らないと、大荷物になるし、少ないと儲けが少ない。パーティに盗賊は一人は居ないといけないって理由だよ」
「なるほどなあ」
「うむ、クルツはパーティの役にたって偉いな、余なぞは、お荷物で何の役にもたっておらん。恥ずかしく思う」
「トレバーは、迷宮初めてなんだろ、しょうがねえよ。歳にしては、がんばって戦ってると思うぜ」
「そうかのう」
「ああ、俺も戦闘ではほとんど役に立ってないしよ、気にすんな」
「クルツは意外に戦闘でも、やってると思うけどな」
「な、なんだよ、兄ちゃん、ほめても何にもでねえぜっ」
クルツが赤くなっててれた。
なんか、僕の、頬が、ゆるんで、心が明るくなった。
【次回予告】
治療に戦闘にと八面六臂の活躍をする聖騎士のパットであったが、魔力切れにはかなわない。
げんき一行は、次の水場で野営をすることにする。
なろう連載:オッドちゃん(略
次回 第96話
二十五階で野営