10. セグリア街道を行く
宿をチェックアウトする。
朝ご飯もとてつもなく美味しかった。
ここは隠れた名店にちがいない。
女将さんがまたくるんだよ、と言って、焼きたてパンをいっぱい持たせてくれた。
ありがとう、またくるよ。
これたらだけど。
村を出て、キルコタンクに乗り込む。
村の中には入れないので街道に廻ろうとしたんだけど、村の周りって当然、畑とか牧場になってるわけで、どでかいタンクだと潰しまくりで平地になってしまう。
しかたがないので人型になって慎重に歩いて村の外側を回り込む。
村人が総出で人型のキルコゲールを見上げて目を丸くしていた。
「しかし、オッドちゃん一人の時はこの図体の物をどうやって持ち運んでいたの?」
「主にひきずっていたわ。都市部だと、魔法の収納空間を広げて入れておいたの」
あ、そうか、オッドちゃんは四次元ポケット魔法が使えるから。
「自走してくれると、とても楽だわ」
「わたしたちが、これからどこに行くのか教えてほしいよ」
「セグリア街道を西に行って、大森林の端のメイリンって街で予言者に会うわ」
「メイリンって所で、転移の球は直せるの」
「な、直せる……わよ」
オッドちゃんの目が泳いだ。
これは嘘を付いている目だ。
まあ、でも、街ならば直せる人も居るだろう。
追求と糾弾はメイリンについてからにしよう。
ゴトゴトとキルコタンクは田園風景の中を行く。
のどかな農村景色が続く。
この地方は開拓がすごく進んでいるみたいで、ちかくの山の麓まで畑が広がっている。
天気が良いのでハッチを開いて進む。風が気持ちいい。
ハッチは全開にすると縦に直立するぐらいに開く、でもそんなに開ける必要はないので三十度ぐらい。
タンクモードでも足下の全周モニターが生きているので、死角は意外に少ない。
街道の先、遠くに土煙が上がったと思ったら甲冑を着た男たちが騎馬で三騎、駆けて来るのが見えた。
「げんきくん、所属不明の存在だよ。騎士が三人だって」
「ここらだと、ケンリントン伯爵の騎士かしら」
「一度止まるね」
「とまれー、止まれいっ!!」
止めたっつううの。
「どちらさまかしら」
オッドちゃんが立ち上がり身を乗り出して騎士に問いただした。
「我々はケンリントン騎士団!! 辺境の平和を守る正義の剣である」
「はいはい」
「街道をバケモノのような車が行くと聞き駆けつけた、貴様らはどこの手のものであるかっ! 返答によっては只ではおかぬぞっ!!」
なんだか喧嘩腰の騎士だなあ。
「漂泊の大魔導師、オッドよ。この子たちは私が召還した使役勇者」
「ななな、なんだよ、使役勇者って!」
「しっ、異世界からのお客さんは、そういう呼び方になってるのよ」
あ、騎士さんたちが固まった。
勇者に反応したのかな。
「オッドだとおおおおおおっ!!」
違った。
隊長っぽい騎士が体を左右に揺らしながら、天高く、どこまでも響き渡るがごとき、悲鳴をあげた。
甲冑がガッチャガッチャと甲高く鳴る。
いったいぜんたい、オッドちゃんは何したんですか。
「隊長!」
「隊長!」
「そ、その、あー、えー?」
隊長がものすごい狼狽をはじめた。
深呼吸を三回。
ひゅーー、ぷしゅひゅー、ぷしゅるひゅー。
ごくりと唾をのみこみ、隊長は口をひらいた。
「わ、私は、み、なにも見てないし、名乗りも聞いてない。のだ」
「その方がよろしいならご自由に」
「う、うむ、お互い、それが良いだろう、うむ。良いか皆の者、我らは誤報に振り回された、怪しい車なぞは走っておらぬし、不可触の大魔女なぞは見てもいないし聞いてもいない、い、いいなっ!!」
「「はっ!!」」
「と、砦に帰るぞ、東側の柵の修理もあるしな。あ、いかんいかん、昼過ぎに来客もある、早く帰らねば」
そう言うと隊長は馬頭をめぐらし綺麗に反転、全速力で逃げ去った。
後には土埃だけが残る。
「オッドちゃんって、ボッチなの?」
「違うわよっ、失礼ねっ!!」
なんだかオッドちゃんは事情を知っている人には激烈な反応をされるなあ。
いったい、過去に何をしでかしたんだろうか。
謎は深まるばかりだ。
あ、もう一騎、やってきた、隊長と合流して、なんか言い争ってる。
隊長たちは鉄色の甲冑なんだけど、やってきた一騎の甲冑は遠目に見ても、白銀に輝いていて、とてもカッコイイ。
上位の騎士の人なのかな。馬も白馬だよ。
あ、隊長に蹴りを入れて落馬させた。
白銀騎士は背中の大剣をぬいて、こっちに全速力でやってきた。
深い紫のマントがばたばたとひらめく。
兜からは金色の長い髪がひるがえってる。
甲冑の胸あたりが、ドーンと、ふくらんでおります。
女の人?
女騎士!
くっ殺せ、とか言っちゃうの?
「まてまてまてーい、天下の大悪人、鏖のオッドよっ! ここで会ったが百年目! 白銀の轟風雨のパトリシアが貴様を成敗してくれるっ!!」
あ、なんか、くっ殺せ、確定っぽい。
というか、鏖のオッドって二つ名はなんですか、オッドちゃん。
なんかだんだん、オッドちゃんと呼ぶのではなく、オッドさんと呼ばなければいけないような気がズンズンしてきます。
「む、あれは、ケンリントンのじゃじゃ馬大英雄パトリシアね。困ったわね」
「フタをしめたら良いんじゃないかな」
ピポッ。
モイーーーン。
ピシリ。
タンクのハッチが閉まった。
「貴様ーっ!! 卑怯者っ! でてこーいっ!!」
あ、女騎士さんがキャタピラを、剣でガンガン殴っております。
「えーと、外に声をだすのは、これ?」
「そうそう同時押しをするんだよ」
「ありがとう、(ピッ)いやよ、あなたはめんどさいから」
「なんだと、貴様、騎士としての誇りはないのかあっ!」
「騎士じゃないわよ、大魔導師だし」
「相手をしてあげなくて、いいの?」
「あの子はね、凄く、面倒くさいの、無視が一番よ」
まあ、たしかに凄く面倒くさそうな人だ。
「あ、げんきくん、たいへん!」
「どうしたのあやめちゃん」
「三時の方角に、なんか凄いのが来たみたいよ」
ちなみに三時の方角というのは、目の前を零時として、全周を時計割りにして、三時にあたる方角の事。
平たく言うと右だね。
三時の方角を向くと、確かに、もの凄いのが来ていた。
最初は、それを僕は岩山だと思った、でもズシンズシンと音を立てて動いている。
それは、もの凄くでっかいゴーレムだった。
キルコゲールの人型モードと同じぐらいの大きさだ。
女騎士さんも気がついたのか、巨大ゴーレムを見て口をぽかんとあけた。
「くわっはっはっ、大魔導師オッド様よ、あなた様が底知れない魔導の力でゴーレムを使うというのならば、こちらもゴーレムでお相手しよう。このメガトンゴーレムで、あなた様に目にものを見せてさしあげようっ!!」
巨大ゴーレムの頭の上で、おべんちゃらバンパイヤのバーグさんが、珍妙なポーズを取りながら、僕たちに宣戦布告をした。
これは、バーグさんもまとめて、くっ殺せフラグなのかーーっ。




