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1. はじまりはじまり

「ちこくちこく~」


 僕は今とてもあわてている、なぜなら幼なじみであこがれの杜若かきつばたあやめちゃんとのデートに遅れそうだからだ。

 ふんぬーと気合いを入れて待ち合わせの駅前に向かって速度を上げる。ふんぬー。

 ああ、なんだかオシャレをしてきたのにー、シャツに朝ご飯のお醤油のシミがついてるー。ふんぬー。

 せっかく必死になってあやめちゃんに告白して「親しいお友達から、そのあとはデートしだいね」との約束をもらい、天にものぼる気持ちだったのに、初回から遅刻では、遅刻では。ふんぬー。


 ああ、足下を見れば、右が紺色の靴下で左が白の靴下だ、なんて事だおかあさん、同じ靴下でまとめて置いてくれよ。ふんにゅー。

 はあはあ、ぜいはあ、ぜいはあぜいはあ。

 汗だくになってきたが駅前の時計を見ると待ち合わせまであと五分、東口の時計塔の下なのでまだ結構ある。

 ふんがくっく、ふんがっくっく。どえいどえい。

 ハナが、ハナミズが出てきて、ふへいふへい。まにゅあってくれい。


 で、角を曲がって、あ、あれはあやめちゃん、今日もすごく可愛いなあと視認確認したとたんに、なんか頭上で爆発した。

 ガラスが辺り一面に土砂降りのように降りそそぐ。


 どでかい音に僕の腰が抜けて前に転がった。

 目の前に幼女が倒れそうになっていたので回転レシーブ状態で抱え込み、お母さんの元へ手渡し空を見あげると、そこには大きな大きな黒いドラゴン。


 でかい、でかいぞ、黒いドラゴン!

 駅前のデパートの四階ぐらいの高度を、ぶわんぶわんと羽ばたいて飛んで辺りを見回している。

 目がぎょろっとしております。

 大きさは一戸建ての家ぐらいの大きさ。

 うろこが真っ黒で、光りの加減によって紫色っぽくなって、見ほれるぐらいに綺麗きれいであります。

 羽ばたきするたびに、バンツバンツと風が、大風がふいて、ほこりがもうもうと立って、げっほげっほっ。


 ドラゴンはどしんと地上に降り立つと、びゃーーーっと腰の抜けるような音を立てて火を吐いた。

 どわんとデパートの二階が燃え上がり悲鳴が上がり、人々が逃げまどっています。


「なんたること!」


 さーっと人々はしおが引くようにいなくなり、助けた幼女が「おにいちゃんもっ!」とお母さんに言うけど、お母さんはなんだか無表情に目をそらし女の子を脇に抱えて逃げていく。

 地下街へと逃げていった。


 それを見て、まあ、無理からぬこと、女の子だけでもにげるんだと思いつつも、ドラゴンの目の前に僕一人。

 死ぬ、これは死んでしまう。

 ふと気になって振りかえると、あやめちゃんは時計塔の下で、なんか別の方を見ていた。

 うわ、あやめちゃん気がつこうよ、あんた爆発の音を聞いてなかったんすか、とっとと逃げるんですよ、

 と心の中でさけべども、意外に間の悪い所があるあやめちゃんは時計を見上げてそわそわしているようだった。

 逃げろですよ。


 ドラゴンが、どがどんどんと轟音ごうおんを立てて僕の方へ一歩近づく。

 コワイ。

 なんだか大型ダンプカー並にでっかいドラゴンの、らんらんと光る目にすくめられたようになって、僕はあわあわしている。

 コワイ。

 生まれて初めてのデートなんでオトイレはすませてあったから放尿はしなかったのだけど、ふしゅるぷしゃーと意味不明の呼気を放って、ぶるぶると生まれたての子鹿のように震える僕である。

 ドラゴンはゆっくりと息を吸い込むと、ちょっと溜めて、こちらに大きく口をあける。

 ああ、これは火炎放射ブレスの予備動作ですね、わかります、このあと僕は真っ黒こげになり三度熱傷さんどねっしょうで即死するのでありますね。

 ひいいい、コワイ。


 どごうぶるをああああ。という感じの轟音ごうおんがして目の前が真っ赤になり、僕は即座に合掌がっしょうし、南無阿弥陀仏なむあみだぶつをとなえて極楽往生ごくらくおうじょうを仏さまに先行予約したのですが、熱くない。

 気がつくとブルーハワイ色の、なんだか複雑な魔方陣が目の前に展開し、六角形が組み合わさったバリアがドラゴンの火炎放射ブレスを受けとめていたのでした。


「来なさい少年!!」


 振り返ると赤と黒のゴスロリ衣装をまとった、西洋人っぽい十歳くらいの美少女がこちらを手招てまねいております。

 金髪で左右の目の色が赤と緑のオッドアイであります。

 フリルのついたボンネットが風にゆれ、ちょっと気の強そうな目で僕を見ているのであります。

 うっとりと見ほれてしまうぐらい可愛くて綺麗きれいな子なんですが、そんな暇は無いですね。


 女の子は左手を突き出し、なにやらバリアの維持いじをしながら、右手で複雑ないんを切り、なにやら呪文を詠唱えいしょうする。

 少女の背後に後光のように、メロウイエローな色の魔方陣が発生、バババと音を立てて広がった。

 少女は魔方陣の中に手を入れ、何かを引っぱりだし……。なんだか、えーー、とてつもなく大きくて質量のある物を引っぱり出し、引っぱりだし、なんというか、スゴイロボ状の物を引っぱりだし。まだ引っぱりだし、肩が出て、引っ張りだし、頭が出て、だいたい高さ三メートル横に三十メートル幅が十メートルぐらいですか、お台場のガン○ムの倍ぐらいある寝た状態のロボを引っぱり出しましたですよ。

 つか、ロボがあるなら普通に乗って来いでございますですよ。


「少年、これに乗ってっ!!」

「ぼ、僕ですか?」

「そうっ、いそいでっ!」


 それは急ぐべきではありますね、ドラゴンさんが怒って六角バリアをバンバン殴ったり尻尾で叩いたりしてとても不機嫌な声をぐわぐわぎゃわわと上げていらっしゃっておりますので。

 ふと目を上げると、時計塔の下に居たあやめちゃんと目があいまして、あの子はなんだか知りませんが駆けよってくる感じですよ。

 ええ、あやめちゃん、あなた目の前の状況が解ってないんですか。


「あ、げんきくーん、今日晴れてよかったねー!」


 あやめちゃんは本当に間が悪いよね。

 あ、ちなみに僕は飛高ひだかげんき、どこにでもいる普通の高校生なんだ。


挿絵(By みてみん)

オッドちゃん(作:タカスガ画伯)

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