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×  作者: kojima
8/15

8.嵐の前触れ

いずれ人は最期を迎える。


だがその死はいつ訪れるかは誰も知らない。


この平凡な森山町にも悲劇が訪れる。







バチェラーパーティーまでまだあと6時間もあると麻由子は欠伸を零した。


栗栖家のプールに浸かりながらこの楽しさも直に終わってしまう喪失感が襲っていた。


「そういや翼は今夜のパーティーどっちに行くの?」


浮き輪に乗りながらプカプカと浮くリナは真っ白な肌を見せつけるようにバタつかせる。


そんなモデルのようなスタイルを羨ましむように翼は見つめていたが麻由子は首を傾げる。


「どっちのパーティーって?」


「バチェラーパーティーって意味知ってる?」わざとらしいリナの態度に麻由子は気まずそうに頷いた。


「バチェラーパーティーっていうのは独身最後の夜を男女に分かれて楽しむってことだよ」


翼の答えにリナが何故彼に尋ねたのか意味がわかった。


「僕的には女子グループに入りたいけど、これは神聖なパーティーだからあの汚らわしい男子グループに行こうかなって思ってる」


つまらなそうに答える翼にリナは口をぽかんと開け呆れていた。


「あんな馬鹿みたいに酒を飲むグループに行く気?こっち来なよ」


「でもさ1人だけ男が混ざってたらやり難くない?」


「私の方が気まずいから翼が居てくれた方が嬉しいかも」と麻由子が続けると翼は思わず涙ぐんだ。


「わかった…」




それからそれぞれに持ってきたドレスに着替える為にリナの部屋へと向かった。


紫に帯びていく空に明るくさせるためにキャンドルに火を灯す。落ち着く洋楽を流しながら3人は着替えた。


クラシックにまとめられたリナの部屋は意外だった。レトロなフローリングに北欧チックな部屋は真っ白に統一され全身を写し出す鏡はアンティークものだった。


黒のレースドレスに身を包むリナは肌を際立たせる為に真っ赤な口紅を塗っていく。


そんな一方、パンツドレスを身にまとう翼はミディアムな髪をオールバックにしてアイラインを引いていた。


「2人ともカッコよすぎ、私なんかお子ちゃまみたい」


ヒラヒラのワンピースをチラつかせる麻由子にリナは頷いた。


「なんか服貸してあげようか?」


「そんな必要ないって!それとても麻由子らしいし!」


咄嗟にフォローする翼に麻由子は眉を寄せる。


「おネェなら本当のこと言って?お子ちゃまっぽい?」必死な麻由子に翼は渋々頷いた。


「リナに借りた方がいいかも」


「やっぱり…」


俯く麻由子にリナはウォークインクローゼットから1着のドレスを差し出した。


薄いピンクのドレスは少し大人っぽいものだったが麻由子は頬を赤らめる。


「いいの?」


「あげる。私ピンクって嫌いだし」


肩を竦め答えるリナに翼は頬を膨らませ彼女を睨む。


「こら僕が誕生日プレゼントにあげたドレスじゃん!」


「全く趣味じゃないドレスをくれてありがとう」


手を振るリナに翼はムクれていたがそんな2人のコントに麻由子は腹を抱えて笑っていた。


「本当2人見ていると絶えずに笑ってる」


涙を流す麻由子に2人も顔を見合わせ笑った。




翼はトイレに行くと部屋を出て行った部屋はやたら静かだった。


ベッドに横になりながらパールのネックレスを弄ぶリナはどこか寂しげで麻由子は尋ねていいのか渋った。


「そんなジロジロ見ないでよ」


するも笑みを浮かべこちらを見つめるリナに麻由子はドキりとした。


「この家大きいでしょ?無駄にデカすぎだって思わない?」


「私は羨ましいと思うけど…」


「ここに住んでるのは今やレイと私だけ」リナはため息を吐きながら話す様子は初めて本音を話す哀しげな少女の姿だった。


「別に親がいないわけじゃない。自由が好きすぎるだけなんだよ。だから飽きずに海外に飛び回っててさ」


「ご両親って何をしてるの?」


「父は映画監督で母は元ハリウッド女優」


「カッコよすぎ」


目をパチクリとさせる麻由子にリナは得意げに笑っていた。


「でしょ?兄貴は写真家になる為に今勉強しててさ、全く芸術一家すぎるでしょ」


「リナは将来何をするつもりなの?モデルになったりして」


「バカみたいな職業に就く気はないよ。私はもっとまともな人生歩むつもり」


「どんな職業?」


「聞き入りすぎ」


中指を立てる彼女は相変わらずだったが、これほど彼女の話を聞いたのは初めてかもしれないと麻由子は思った。







その頃、田平家では由紀の浮かない顔を心配した夫の姿があった。


「ここん所浮かない顔をしてるな」


「そんな事ない」


「そうか?せっかく別荘に来たっていうのに籠りっきりじゃ詰まらんだろう。今夜はディナーに行くのはどうだ?」


「本当に誘ってる?」笑顔になる由紀に夫はハニカミながらジャケットを羽織った。







トイレから出た翼ひ急いでリナの部屋へ向かおうとした瞬間、レイとすれ違った。


思わず身を逸らし駆け足になる彼の手を握ったレイはハンサムに笑う。


「逃げることもないだろ?」


「別に逃げてなんか…」


「挙動不審だな」


優しげに笑う彼に翼は理解できずにいた。


「なんで今日は優しいの?」


「いつだって優しいさ」


髪をかき上げる素振りは兄妹の癖だと感じ翼の思考は他所にいっていた。


「今夜こっちに来いよ」


誘うレイの眼差しに翼は目を逸らし眉を寄せる。


「もうレイの遊びに付き合う気はないよ」


腕を振り払う翼はとっとと彼の前から姿を消した。フラれると思っていなかったレイは数秒だけ立ち尽くし翼の去った後を見つめていた。







「あぁ、漸く帰ってきた!大きいのでもしてたわけ?」


眉を顰めるリナに翼は頬を膨らませると麻由子は乙女らしい態度に笑う。


「レイがボートハウスまで送ってくれるってさ」


10センチものヒールを履くリナはホッとしたように話していた。しかし翼の表情は浮かない顔であった。



牛革の匂いがキツいジープに大分慣れたと麻由子は思っていた。助手席にはロマンチックなBGMに合わせて歌うリナにレイは笑う。


「相変わらずサム・スミスが好きだよな」


「生き方がカッコイイじゃん」


「歌より生き方が好きなのか?」


兄妹のやり取りに笑っている麻由子の隣で翼は今にも泣き出しそうだったが鼻をすすり窓の外に目を向けた。


すると森から眩い光が見え思わず目を覆った。


「ボートハウスが光り輝いてんな」


レイは苦笑いを浮かべていたが麻由子は目を輝やかせ心を弾ませる。


「ロマンチックすぎる」


手を合わせ拝む麻由子は最高の夏休みだとしみじみ思っていた。


ジープはボートハウス前に停まり3人が降りたところでレイは車を走らせた。


「待ってたよ!」


唯の明るい声にハッとする翼は笑顔を見せ手を振る。


「パーティーもう始まってるね」


「待ちきれなくて」


さぁ、と促されるままボートハウスに入る3人はクラブミュージックに身を任せながら踊り始める。


「最高のパーティーじゃん」


不敵に笑うリナに唯は微笑んだ。








その頃男子のパーティーは森の奥底で火を囲みながら野性的に過ごしていた。


義理の兄となる橋本裕二はしもとゆうじは上半身裸になり雄叫びを上げており、その様子を気に食わなそうに大樹は見つめる。


そんな彼の隣に立つレイは同じように裕二を見つめていると笑い出した。


「姉ちゃん盗られる嫉妬か?」


「そんなんじゃないって」


コーラの瓶を飲み干す大樹は笑っていたがその目は涙がこみ上げ火に照らされていた。


「ほら大樹もやれよ!」


ふと裕二の声に2人は目を向けると樽の上で逆立ちをしながらストローを通してビールを飲み干す野蛮な男たちがこっちに笑みを向けていた。


「ほら俺まだ未成年だからさ!」


コーラ瓶を見せつける大樹に裕二は不服そうに肩を竦める。そんな彼を見てレイは手を挙げた。


「そういうのは外国人の血が流れている俺が」


すると裕二は機嫌を直したように笑った。








女たちは踊り疲れたのか地面に腰を下ろしながら神妙な面持ちになる。


「最近さ、ムラムラが少なくって刺激がないっていうか」愚痴を零す愛梨に麻由子は気まずそうにしていた。


「確かに最近刺激不足かも」


同意するリナはヒールを脱ぎながら立ち上がると湖に目を留めた。


「湖に飛び込むっていうのは刺激的?」


「バッカじゃない?あんな汚い湖に飛び込むなんて汚すぎ」


愛梨は呆れているとリナはふて腐れたように壁に寄りかかる。


「それならここで1番高い所にある看板に落書きするのは?」


「それ最高」


リナと愛梨は悪巧みに共感しハイタッチするが、唯はガキを見つめるような哀れな眼差しを向けた。


「もう少し大人になったら?」


「それより刺激が欲しいなら僕がしてるムラムラを解消する方法を教えるよ」


翼は持ってきたパソコンを立ち上げYouTubeを開くと唯と麻由子は興味津々に覗き込む。


「これ見せたら僕のことを本気で変態って思うかも」


そう言いながらタイプしていく翼は顔が輝いていた。その様子にリナも愛梨も気になったのか、パソコンを覗き込んだ。


するとそこには首を絞められ悶え苦しむ海外の少年たちの動画がチラホラあり、翼は動画を見ながら息を荒げていた。


「何これ悪趣味すぎ」


呆れながら離れるリナと愛梨は悪戯を仕掛けに外へ出て行くと唯も苦笑いを浮かべ友人たちの元へと向かっていった。


「何でわかんないかな…」


首を傾げながら動画に釘付けになる翼の隣で麻由子は股間に手を置き何かを感じ取っていた。


演技とは言えど息を引き取る少年たちの姿に何かやらしさを感じ麻由子は新たな地に足を踏み込んだ気がしていた。そんな麻由子に気がつき翼は笑いながら麻由子の手を取る。


「ここ抜け出して楽しいことしない?」


その誘いに乗ってしまったらもう今までの世界には戻れないと思った麻由子だったが居ても立っても居られなかった。


「行く」


そう答える麻由子の腕を取った翼は笑顔になりボートハウスを抜け出すとある場所へと向かった。


「ここって…」


思わず立ち止まる麻由子だったが翼は強引に引っ張った。


「大丈夫、誰もいないって」


安置所に忍び込むのはこれが人生で初めてのことだった。恐怖心と興味心が葛藤する中、麻由子は翼の腕を取りながら歩いた。


ひんやりとした安置所は薄暗く不気味であったものの翼は余裕そうにどんどんと歩いて行った。


「僕のお気に入り君はこの子」


そう言いながら屍体の入っている箱を出すと、そこには自分たちと年の近い男の子の姿ががあった。


まるで眠っているような穏やかな表情に麻由子は安心したように近寄った。


「彼の死因は?」


裸にされている青年の太ももに触れながら麻由子は尋ねると翼はカルテに手を伸ばす。


「溺死だって、きっとあのボートハウスで死んだんだよ」


「可哀想に」


青年の顔を見つめながら麻由子はため息を零していると翼はもう一つの棚に手を伸ばす。


「そして新入生君もいるのでご紹介します」


すると麻由子の目は思わず惹きつけられた。綺麗に整った青年に麻由子は飛びつく。


「彼の死因は絞殺だって」


首元に痣のある青年に麻由子は彼の頬をなぞって見せると、翼を見つめた。


「いつからここに?」


「ここ最近だよ」


台に座りながら話す翼に麻由子は微笑んだ。






その頃、愛梨とリナは小山の上にある高台に登りながら大きい市長の看板を嘲笑っていた。緑色のヒゲを生やし、赤いメガネをかけたように落書きされた市長の顔は誰が見てもハリーポッターの校長そっくりだった。


缶ビールを飲みながらiPodで音楽をガンガンに鳴らしながら裸足で踊る。


「この悪戯最高!」


叫びまくる少女たちは日頃の鬱憤を晴らしていた。


「はっきり言ってアンタのこと嫌いだったけど、今日は最高に好きだわ」


酔っ払いながら話すリナに愛梨も言い返す。


「私だってそうよ、レイの妹だから優しくしてあげたの」


「何が優しいって?」


「何が言いたいの?」


急に空気が変わり2人の間はピリッとしていた。


「大体言っておくけどね、兄貴はアンタが怖いから付き合ってんの」


「はぁ?こっちも言わせて貰うけど、友達の少ない妹が哀れだと思ってレイはアンタに構うわけ!こっちはデートする時間が減っちゃうの!わかる?」


「それはレイがアンタから逃げるための口実ってことをいつになったらわかるわけ?」


「それならレイの子供を孕めば一生私から逃れられない」


そう話す愛梨にリナはカッとなり思わず頬を殴ると愛梨はすぐに起き上がる。


「くそ!」


思わず勘忍袋が切れた愛梨はリナの髪に掴み掛かるとリナも負けじと襲い掛かった。


すると2人の怒りを露わにするように空が鳴り響き、凍てつくような雨が降り始めた。予想していなかった豪雨に2人の争いは一旦休戦し、手を取り合って高台を降りた。


容赦ない雨に足を滑らせながらも何とか降りようとする2人だったが、土砂崩れが2人を襲った。


土砂崩れに足を取られた愛梨は真っ逆さまに落ちていく姿をリナは目にした瞬間腰が砕けるように抜けその場に座り込んだ。





ーードンっ


と車の衝突事故のような激しい音が安置所の近くに落ちたと思えば安置所は真っ暗となった。


「嘘嘘!」


思わずパニックになる麻由子を落ち着かせようと翼は宥める。


ケータイのライトを照らしながら外へ出ようと試みた2人は手を繋ぎ、麻由子は初めて翼が頼もしく思えた。


「ここの近くに落ちたみたいだね、でももう大丈夫だよ」


優しい翼の声に麻由子は頷いた。






レストランでディナーを楽しんでいた由紀たちだったか、停電が襲う。


一瞬パニックになったレストランだったが、大人たちは冷静さを保ち静かになる。


「停電だ。少しすれば灯りがつくだろう」


そう話す旦那だったが、暗闇の中で席を離れオーナーを探しに行った。


レストランの従業員たちはキャンドルに火を灯すが薄暗く見えると言えば嘘となる。


しばらく経っても夫は帰って来ず、由紀は居ても立ってもいられなくなった。


由紀も席を離れ二階へ手探りで登っていくと一人の男性に腕を掴まれた。


そして強引に口づけされ由紀は目を閉ざした。その男性が夫ではないと気がつきながらも拒むことはできなかった。







森で騒いでいた男たちも急の雨に逃げ惑う中、レイは自分の車に乗り込んだ。


そして妹の身を案じてかアイフォンを手に取り電話する。


「今ボートハウスか?」


繋がった電話に安堵するも電話越しの妹の声は震えていた。


『レイ…マズイことになった…どうしよっ…』


今にも消え入りそうな妹の声にレイは良からぬ何かを感じ取りハンドルを握ろうとしたが、車の前に大樹が立ちはだかる。


「今のレイじゃ運転出来ないでしょ!」


ずぶ濡れになる大樹の顔を見てレイは渋々頷いた。


助手席に移りながらレイは大樹に礼を告げるも大樹はいつものように優しく微笑んだ。


「お互い様だよ。ビールの一気飲みを代わってくれたお礼だって」


そう言いながらハンドルを握る大樹にレイは微笑んだ。


それから車は高台まで向かうと滝に打たれているかのように身を震わせるリナに目が留まる。


思わず駆けつけるレイにリナは泣きじゃくりながら寄りかかった。


「一体何があったんだ?」


心配そうに尋ねるレイにリナは気まずそうに顔を逸らした。


「愛梨と悪ふざけで高台に登ったの、ちょっとお酒も入ってて悪ふざけも度が超えてた」


車の暖房に温まりながら話すリナは冷静さを取り戻していた。


「急に降り始めた雨に愛梨は足を滑らせて…」


そう話すリナは唇を震わせ顔を俯かせた。


「俺たちもここにいたら土砂に埋め尽くされるかも」と話を遮る大樹は高台を指差すとレイは頷く。


「それに姉貴も心配だしボートハウスへ行こう」






ようやく電気を取り戻した森山町だったが、光りは残酷さを照らした。




「何してるんだ!」


夫の声に我に返る由紀は目の前にいる徹に驚いた。そして思わず夫の元へ駆け寄るも夫は妻の腕を振り払った。


「もう懲り懲りだ!お前たちの前から消えてやる!」


怒りに任せた夫は勢いよく店を飛び出した。その光景に思わず涙ぐむ由紀の体を徹が抱きしめた。




唯を乗せた真っ赤なジープは街に戻ると赤いランプが照らされていることに気がつく。


レイは外を伺うとそこにはボルボの車が横転しその姿は跡形もなかった。その近くで泣き崩れる麻由子の母親を見てレイとリナは顔を見合わせた。


「一体何が起きたんです?」


大樹は事故のことを聞こうと近くに立っていた警察官に尋ねるが渋っていた。


「雨にタイヤがスリップしたらしい。しかも飲酒運転だったとか」


警察官の話を聞きながらリナとレイは大樹の隣にたった。すっかり上がった雨だったが全てを洗い流した。


それは望まないものまでもだ。

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