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×  作者: kojima
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6.不都合な事実

あのキャンプを終えてから亮は今までにない感情に心を弾ませていた。姉御肌なリナに憧れを抱き、翼とのアクシデントももう傷が癒えかけていた。




翌日の昼間に栗栖家に集まった麻由子と翼はリビングでポテトチップスを頬張りながらリナを待っていた。


「見てこれ、超ダサい」


文句を垂らしながら2人の前にやってくるリナの格好は原宿に集うロリータのようなファッションだったが、ハーフな彼女には皮肉なほど似合っていると思われる。


「それリナじゃなかったら相当痛いよ」


コーラを飲みながら弁護する翼をリナは睨みつけ、とっととドレスを脱ぎ下着姿でソファーに腰を下ろした。


「大樹の姉貴の頼みだからブライズメイドを引き受けたけど、こんな拷問に遭うなんて誰が思う?」


舌打ちしながら愚痴るリナに麻由子は苦笑していた。


「それより麻由子もバチェラーパーティー参加するよね?」


リナに上着を差し出しながら翼が尋ねると麻由子は気まずそうにコーラを飲み2人に視線を送る。


「大樹くんにも誘われたんだけどね、私お姉さんに会ったことがないのにパーティーなんか行くなんて場違いじゃない?」


「そんな気にすることじゃないでしょ」


肩を竦めながらパーカーを羽織るリナに翼は割り込んだ。


「確かに気まずいよね…、だったら唯さんに今から会いに行こうよ」


「え!?今から!?」


目を丸くさせる麻由子に対しリナはニヤニヤし始める。


「それいい考えじゃん。今ならドレスの試着してるらしいし?」


アイフォンを手に取りFacebookで近況報告を調べるリナに麻由子は首を横に振った。


「2人とも本気?見ず知らずの人間が邪魔しちゃダメだって」


「麻由子少し構え過ぎじゃない?」異常な麻由子の態度に翼でさえ呆れていた。


「そんな考えることないって。唯って呆れるほど八方美人な人だからすぐ打ち解けられるよ」


リナの話し方に少し突っかかる麻由子に対して翼は口を大きく開けて笑った。


「こんなリナにまで優しい人だから安心して」


そう2人に促され麻由子は仕方がなさそうに立ち上がった。



茹だるような夏の暑さだったが3人の少女は自転車に跨り木々をすり抜けていく。その風の心地よさは麻由子を新しい新境地に導いてくれるような気がした。


漸く街並みが見え大きく立派なチャペルが見えてくる。少しレトロ感を感じるチャペルは全てが木材で統一され、白いペンキが剥がれているのが見えた。しかし麻由子はそんなチャペルがロマンチックとさえ思えた。


古びたチャペルだったが、中はクーラーが効いており涼しく入ってきた3人にすぐキンキンに冷えたアイスティーが出てくるとリナはサングラスを掛けたまま受け取った。


赤い絨毯が敷き詰められているチャペルをどんどんと進んでいくと大きな扉が目に入る。その隣にあった小さな緑色の扉をリナは強引に叩く。


「お客さんだよ!」


まるでヤクザのような荒っぽさを感じるも扉はゆっくりと開かれ、そこに立っていたのはウェディングドレス姿の唯であった。


「やっぱり声を聞いて誰だかすぐに分かっちゃった」


人懐っこい笑顔を見て麻由子はすぐに大樹の姉だと分かり会釈をすると唯もすぐに会釈をした。


「さぁ入って」


促される3人はすぐに部屋へ入ると翼はクラシックな作りのソファーにダイブする。


「やっぱ僕もここで結婚式挙げたいな!」


全てのロマンをギュッと詰めたチャペルに翼を虜にさせていた。


「それよりブライズメイドのあのドレス酷すぎ」


アイスティーを飲みながら愚痴るリナに唯は慣れたように返す。


「私だってあんな趣味じゃないけど、あのドレスが似合うのはリナしかいないでしょ?」うまい返しだと麻由子は思っているとふと唯と目が合う。


「初めまして大樹の姉の唯です」


ほっそりとした唯の手が差し出されると麻由子は慌てて受け取りギュッと握った。


「申し遅れました!田平麻由子です」


畏る麻由子に唯は上品に笑っていた。その笑みは自分にない余裕さがあるがどこか儚げに見える。


「大樹から話は聞いてる。滅茶苦茶タイプの女の子が夏休み限定で遊びに来たって」


「そんな事を…」思わず顔を赤らめる麻由子にリナも翼も笑っていた。


「それより大樹はいないの?」


リナの問いに唯は呆れた素振りを見せる。


「姉のドレス姿を見てられないってさっさと逃げたのよ。男って本当頼りにならない。貴女たちどうせ暇でしょ?ドレス選びに付き合ってよ」


「まだ選んでなかったの?」


翼が驚いていると唯は肩を竦ませため息を吐く。


「だって趣味のいい友達なんかいないし、身内は逃げちゃうし」


「じゃあ僕が選んであげる。そういうの大好き」


細っこい脚を組みながら翼は不敵に笑っていた。その隣にリナも腰を下ろし笑みを浮かべていると唯は何着もののドレスを3人に見せた。


「今迷ってる形があってね…」


それから2時間ほど悩んだ4人だったが飽き始めたリナはソファーで寝っ転がっていた。その一方で一生懸命にドレスを選ぶ翼は自分の世界に入っていると、麻由子の隣に唯が立つ。


「貴女も今度のバチェラーパーティー参加するでしょ?」


「私も参加して良いんですか?」


「その方が嬉しい。賑やかになればなるほど楽しいものになるし」


「ありがとうございます!」


頭を下げる麻由子はいつになく幸せそうに笑うと唯は目線を落としドレスに目を向ける。


「それにね、大樹があんなに楽しそうに貴女の話をしていてホッとしているの」


「どうして、ですか?」恐る恐る尋ねる麻由子に唯は笑顔を作りながら顔を見つめた。


「私たちって物心がつく前に母親を亡くしてて父が男手一つで私たちを育ててくれたんだけど、母親ってどんなものか知らずに育ったの。大樹はいつも強がって文句は言わないけど本当は寂しがりやなのよね。だから私が結婚するって言った時のあの子の顔を見ると…」


思わず口を閉じる唯の唇は震えていた。


「私、大樹くんから何も聞かされていなかった…」少し寂しさを覚えた麻由子に唯は目を細ませた。


「あの子っていっつもそうなの。心を開いた子にしか話さない」


「リナや翼は知ってるんですか?」


「そりゃ幼い頃からの仲だもん。あの2人が大樹の心のバランスを取っていたと思う」


唯の言葉を聞きながら麻由子は2人を見つめた。意外な口ぶりに麻由子はぼーっとしていると唯は笑い出す。


「意外とでも思ってるでしょ?」


「いいえ!そんな事…」


「いいのよ、私でさえそう思ってるもん。リナの気だるい性格と翼の破天荒な性格から思いつかないでしょ?あの2人に挟まれた大樹がまともに見えちゃう」


不思議と笑う唯に麻由子も吹き出し笑った。


「そこに貴女が現れて大樹もきっと幸せだと思う」


「でも私夏休みが終わっちゃったら東京に帰らないといけないんです…」唯の言葉が嬉しく感じられるも麻由子はふと現実に返ってしまう。そんな麻由子に唯は目を丸くさせた。


「何も聞いてないの?」


「え?」明からさまに驚く唯に麻由子は釣られて驚く。


「大樹は東京の大学に行く予定だよ?」


「何も聞かされてない…」


「全くあの子ったら」呆れる唯に麻由子は苦笑いを浮かべた。


「おやおや、これは皆さん勢揃いで」するとここの神父であろう外国人が流暢な日本語で声を掛けてくると唯はとっさにお辞儀をした。


「すみません、長らくここを使わせて貰っちゃって」


「いいですよ。だけどここは一応神の家でもあるんですからもう少し気を引き締めて貰っても構いません」


寝っ転がっているリナの腕をパチンと叩く神父は優しく笑っていた。


「何かおやつでも持ってきましょうか?」


神父の問いに翼は首を横に振る。


「あともう少しでドレス選びが終わりそうなので」


「そりゃあ良かった」と神父は笑いながら部屋を出て行く。


「神父さんってあんなにラフな感じるなんですね」


驚いている麻由子に翼は3着のドレスをラックに掛けながら頷いた。


「皆あのリチャード神父の世話になってるし、第2の父親みたいな存在だよ」


「世話って?」


「ここは幼稚園としても使われていてね、皆あの神父さんにお世話になっているの」


唯が答えるとリナが付け足す。


「そして何よりも私たちの弱みも握ってるってわけ」


「リナほど懺悔する人いないからね」翼の嘲笑った声にリナはムッとしていたがすぐに肩を竦める。


「それより早くドレス選んじゃおうよ」


すっかり飽きているリナは3着のドレスに眼を向けた。


どれも上品な作りのドレスだったがリナは1着のドレスを手に取った。レース調で統一されたドレスはこのチャペルのようだった。


「私これが唯に合ってると思う」


「僕もそう思ってた」


2人の同意に唯は納得したように頷いていた。






それからチャペルを出た3人は街のカフェでお茶をしていた。


「唯さんいい人だったでしょ?」


アイスクリームを頬張りながら翼は尋ねる。


テラス席だったが、日が沈みかけたそこは風が通り抜け気持ちがいいものだった。


「2人の言った通りだった。今日会ってなかったら後悔してたかも」


チーズケーキを突きながら麻由子は笑っていた。そんな時、強い風が吹きリナの長い髪を弄び面倒臭そうに髪をかき上げたリナはふと視線が止まる。


「ねぇ、あれって麻由子のママじゃない?」


指をさす彼女の先には確かに由紀の姿があった。


「ってことは隣に立ってるのがパパさん?渋くてカッコいいね」羨ましがる翼に麻由子の手が震え始める。


「あれパパじゃない…」


「でも手を結んで…」そう言いかける翼の足を蹴るリナの目はいつになく真剣で、隣に座る麻由子に目を向けた。


「心配要らないって、懐かしい友達にでも会ったんでしょ?」


「でも結婚してるんだよ?街中で夫でもない男と手を結ぶなんて」


そう言いながら麻由子はケータイを手に取ると2人の写真を撮った。


「その写真何に使う気なの?」


翼は恐る恐る尋ねるも麻由子は答えなかった。それよりも怒りが吹き上げそうでそれを鎮めるためにケーキを頬張った。


そんな友人の姿を見ながらリナと翼は気まずそうに顔を見合わせていた。





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