表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
×  作者: kojima
2/15

2.ブラザー&シスター

「朝寝坊さん、おはよう」


11時頃に目を覚ました麻由子はパジャマのまま別荘の中をウロついているところを母親は笑って見つめた。


「夏休みが始まったばっかりだからいいじゃん」


コップに牛乳を注ぎながら麻由子は愚痴をこぼす。


「それより昨日は楽しんだみたいね。朝方にある男の子から電話があったのよ」メモをチラつかせる母親に麻由子は牛乳を飲みながら目を向けた。


「荒川大樹君からメッセージ。ええっと、今日の夕方時間があったら連絡して、だって。急にモテ期が来ちゃった?」


からかう母親に麻由子は照れくさそうに笑うもすぐにメモを奪う。ケータイの番号の書かれた紙を見つめ、麻由子は胸を弾ませた。





その日の午後、大樹との待ち合わせ場所へ急いで向かうとそこは車が何台か通る大通りに出た。


だがやはりひと気のない町に麻由子は安心する。


まだ日が沈みそうにない通りを見つめていると、スケボーに乗りながら大樹がこちらに向かってくるのが見えた。


「お待たせ!」


ストリートな格好の大樹は昨日と雰囲気が異なっているも、笑顔はそのままだった。


「これから栗栖兄妹も合流するんだけど、その前に2人でロマンチックなディナーしちゃおう!まぁ、ファミレスしかないんだけど」


「すごくロマンチックだと思う」


皮肉を込める麻由子だったが大樹は笑っていた。


手を繋ぎながらファミレスへ向かう途中、2人の影が伸びていくことに気がつき麻由子は青春を身を持って感じていた。


古びたファミレスはアメリカンな風格で、メニューもハンバーガーかポテトしか置いてないような店だった。だが、麻由子はそれで満足していた。


「それで今日は何の集まりなの?」


バニラシェイクを飲みながら麻由子は尋ねる。


「何って特にないけど、誘っちゃ悪かった?」


「悪かったら電話しないから」


「それもそうだ」ポテトをつまむ大樹を見て自然と笑みがこぼれる。


「そう言えばいつまでここにいる予定?」


ふと大樹に尋ねられ麻由子は固まった。


「夏休みいっぱいかな」


口ごもりながら答える麻由子に大樹の表情も変わる。


「そうだったんだ。思っていたより短いんだね」


大樹の言葉に麻由子は胸が痛むようだったが、笑顔で返す。すると店が急に騒がしくなった。全身真っ黒だが何故かハイファッションな兄妹に目が留まる。


「こんな埃臭い店を選ぶあたりが大樹のセンスっぽいよね」


リナの声に大樹は慌てて店の人に笑顔を向ける。


「味のある店ってことだよ!」と応える大樹に麻由子は笑っていると、彼女の隣にレイが座った。


「昨日はあまり話せなかったけど、こういう顔してたんだ」


「どんな顔?」首を傾げる麻由子にレイは不敵な笑う。


「可愛らしい顔」


レイのハーフな顔に思わず頰が熱くなり麻由子はシェイクを啜る様子に大樹は頰を膨らませた。


「レイには彼女がいるだろ?あまり麻由子にしつこくしたらチクるからな!」


「何か機嫌悪いな」とレイは麻由子に笑いかけると、周りが和むようだった。


「今夜、旧森山公園で昨日のメンバーとピクニックしながら映画を観るんだ」と大樹は告げたを


「ピクニックしながら映画?」


疑問が募る麻由子は想像が付かない様子で首を傾げる。


「まぁ行けばわかるって!ただ日が沈まないとできない行事なんだ」そう答える大樹に麻由子はさらに首を傾げた。


「それにしてもどんな集まりなの?」


「この町って小さいだろ?だから大人は大人同士で、子どもは子ども同士で楽しむのがこの町の習わしなんだ」


ハンバーガーを頬張りながらレイは答えた。


「じゃ昨日の集まりはこの町の子どもたちの集まりだったの?」


「ほぼね」


ダルそうに頬杖を付くリナは眠そうに目を閉ざしていた。


「何か訳ありな感じなの?」


「訳ありっていうか、まぁどこもそうだと思うけどウマの合う奴らで集まるだろ?こっちはこっちで楽しむってわけさ」


「なんか難しいな」


ここの人間でない劣等感が生じた瞬間だったと麻由子は今でも思い出す。


3人は昔から仲が良いのだ、と見せつけられたようなものだったからだ。


「麻由子もこっちに越してくればいいのに」


笑う大樹に麻由子は少し苛立った。


「簡単に言ってくれちゃって」


肩を竦める麻由子に大樹は気がついていたが、それをリナが阻む。


「夫婦喧嘩は他所でしてよね。ってことで移動しよ」


タバコを咥えるリナはファミレスを後にするとレイも笑みを浮かべて後を追った。






気まずい空気の中レイはジープを運転し、ミラー越しで麻由子と大樹の様子を伺っていた。


顔も合わせず無言のままの2人にレイはため息を零す。


その助手席にはアイフォンの画面を見つめながらタバコを吸うリナの姿があった。


-昨日は楽しかった-


エドワードからのメールを削除し車窓から外を見つめる。日が沈みかけた空は紫を帯びており、夕方と夜のコントラストが美しいものだとリナですら感じていた。


「麻由子の弟も呼べばよかったね」


するとレイが気まずい空気を破りそう告げると大樹が笑う。


「いや、まだ傷が癒えてないだろうから呼ばなくて正解だったよ」


「どういう事だ?」


レイも麻由子も理解しておらず首を傾げる。


「昨日の夜、翼の被害に遭ったんだよ」


「そんな言い方ない」麻由子は苛立った様子で突っ込む中、レイの顔つきが一瞬だけ変わった。


「それなら今日は気まずいだろうな」


レイは続ける。


「翼が今夜の主催者なんだ。あいつ大樹と違ってセンスがあるからさ」


「この兄妹は毒舌で有名なんだ。むしろ毒しかない」


ハハハと無表情で笑って見せる大樹に思わず麻由子は笑った。その様子に大樹も安堵の笑みを零す。


しばらくして車は森の中で停車するとそこら中にネイビーのストライプなテントが広まっていた。


そして木々に大きな白いシーツが装飾されており、そこに映像を映すのだろう。


「今回の映画はイギリス貴族とアメリカ人がイタリアで出逢いロマンスを過ごす映画にしました」


翼が進行すると森は賑やかになる。


「もう映画のネタバレかよ!」


青年たちの笑い声に翼も満足そうに笑っていた。


夕日が完全に沈んだ森の中は豆電球で装飾されロマンチックな雰囲気になる。


仲間たちと横になりながらポップコーンを頬張り映画を観る。今までにないイベントに麻由子はずっとこんな生活を送りたいと思うようになっていた。


英国紳士とアメリカ人の観光客がキスを交わすシーンを見つめながらリナは複雑そうに唇を噛み締めた。


そしてアイフォンが震え画面に目を向け、そして笑みを浮かべると電話を持ちテントを離れた。


「どうしたの?」


『やっと電話に出てくれたんだ』


「まぁね…。自分でも驚いてる」


リナの答えにエドワードの笑い声が電話越しから聞こえる。


『今から会えないか?』


「今?」


『明日の朝、イギリスに経つ。その前にもう一度君の顔を見たいんだ』


「それは急だね…。でも進展しない恋愛をするほど私はバカじゃない。私はそこらの女とは違うから」


『知ってる。だから君がいいんだ』


落ち着いたエドワードの声音にリナは目を伏せた。


「ならどう違うの?」


『伝統を大事にして自然をこよなく愛する。そして何より賢い女だ』エドワードの答えにリナは笑いながらテントで盛り上がっている友人たちを見つめた。


『今夜の21時駅で待ってる』







映画はクライマックスを迎えようとしていた。


雨の降る中、英国紳士が彼女の元へと走っていたものの雨でタイヤを滑らせた車に撥ねられてしまった。


そのシーンをレイはポップコーンを頬張りながら見つめているとその手を翼が握る。


思わず驚くレイは目を見開かせ彼を見つめると翼は意味深な笑みを向けていた。


しかし、レイはその手を振り払い彼女の肩に手を置き映画に目を向けると、翼は息を飲み思わずテントを後にした。




意識を失っていた英国紳士の元へアメリカ人女性が口付けをして映画が終わると誰もがブーイングする。


「なんか後味の悪い映画だったな」


大樹も口を揃えて言っていたが麻由子は気まずそうにレイに目を向けていた。


「どうした?」視線に気がついたレイはハンサムな笑みを浮かべていたが、麻由子は2人きりになれる場所へレイを連れて行った。


「翼と何かあった?」


神妙な面持ちで尋ねる麻由子にレイは目を細めながら笑うも、どこか落ち着きのない様子に麻由子は薄々気がついていた。


「私、さっきの様子を見てたら2人には何か深い関係があるのかなって思って」


「何もないさ。あいつが勝手に俺に惚れ込んでんだ」


苛立った声に麻由子は眉をひそませ彼を睨む。


「そうだとしても、そんな言い方ないよ」


顔を背け麻由子はレイの前から姿を消すと、レイは頭を抱えながら木に寄りかかった。



時計の針は22時を指しており、上映会は終わり麻由子と大樹はジープに乗り込んだ。しかし、ジープは気まずい空気を包み込んでおり、大樹は敏感に感じ取っていた。


「なんか妙な上映会になったよな。主催の翼とリナがいなくなってるのに気がついた?」


大樹の問いに2人は答えなかった。






はぁ、はぁ、と息を切らしながら旧軽井沢の駅まで駆けたリナだったが、電車が目の前をよぎる。


間に合わなかったと腕時計を確認し疲れた様子でベンチに腰を下ろした瞬間、反対側のホームで同じようにベンチに腰を下ろしているエドワードの顔が目に入った。


そして目が合うとエドワードは優しく微笑む。


改札で落ち合うとリナは目を細めた。


「約束時間に1時間も遅刻したのに」


「待つのは苦じゃない」


「私は待てない」


そう答えるリナにエドワードは理解しているかのように頷いた。


「大学の卒業試験期間だけだ」


「卒業試験期間?」


「一生の別れだと思ったのか?」


面白がるエドワードにリナはどっと疲れたように地面に腰を下ろした。


「笑えない。どんだけ走ったと思った?」


リナの言葉にエドワードは満足そうに笑い彼女と同じように地面に腰を下ろした。


「それなら今夜はスイートルームで休もう」


ルームキーをチラつかせるエドワードにリナは呆れながらも笑った。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ