表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
召喚されてみたものの  作者: 紫堂 涼
心の距離
25/44

第18話 困惑

 バルドルの言葉に、深呼吸すると───意を決して、身に纏っていた光珠を解き放つ。

 ふわりと光が小さな塊に分かれたのと同時に……背後で小さく枝を踏む音が聞こえる。

「…………」

 翠がゆっくりと振り返ると、そこには何度か目にしたジークハルトの姿が映った───。



 無言のまま、お互いに相手の姿を見詰める。

(……これは、けっこうクルわね)

 今までは互いの間に必ず何かを介していた。泉や光珠……けれど、こうして直に向き合うと、初めてバルドルと出逢った時と同じ様に、自然と惹かれる感覚が沸き起こる。そっと抱き締め、貴方は独りでは無いのだと、私が傍にいるのだと伝えたい衝動。

 自分の意思では儘ならないその感情こそが、自分が竜珠と呼ばれる所以(ゆえん)だと理解する。


 ジークハルトもまたそうなのか、鋭かった眼光が次第に柔らかなものに変わってゆく。愛おしそうに目を細め、翠に手を伸ばし……告げる。

「我が名はジークハルト、我が竜珠よ、貴女も名告(なの)ってはくれないか」



 熱を帯びた声、翠ただ一人を見詰める瞳。僅かに擦れた声は低く、心地良い。

 伸ばされた手は男性らしく筋ばっていて、指先は剣を扱うせいか、僅かに節くれ立っていた。

 均整のとれた体躯はよく鍛えられ引き締まっていて、その顔は滴るような色気を放っていた……。


 そんなジークハルトの、焦がれ、熱に浮かされたような声音に翠は───




(ない、これはない)

 無情にもそう思う。

 惹かれる感覚はある、けれどそれはこうも情熱的なものではない。

 と、いうか……まず出逢ったその瞬間、プロポーズとは如何(いかが)なものだろう。バルドルと婚姻してしまったのは、翠に知識が無かったからだ。解った上で、相手の性格も何もかも知らないというのに───結婚しろと?


 そもそも、バルドルと婚姻を交わすのとは訳が違う。

 人同士で結婚しておいて、何事も無く済ませる訳にもいかないだろう。

 惹かれ、大切に思う気持ちは翠にもあるが───どうにも互いの間には大きな温度差があるようだ。バルドルと契約を交わした以上、翠に選択肢など無いのかもしれないが……すぐに受け入れられる話ではない。

 翠にしても、漸く人と接触を持とうと決めた事で精一杯なのだ。そこへこんな重い感情を受け入れる余裕は流石に無い。



「スイと申します。───ジーク」

「…………」

 真名で名乗らず、呼ぼうとしない翠に、ジークハルトの表情が険しさを帯びる。

「違う、翠。(まこと)の名を───」

「物事には順序があるとは思いませんか?ジーク」

 真名で呼ぶつもりは無いのだと、はっきりと意思を示す翠に、和やかだった空間が一気に張り詰める。ジークハルトが伸ばしていた手を下ろし、何事か口に乗せようとした瞬間───その場の空気を壊すように、駆け込んできた人物を見て、翠が目を見開く。



「ガイさん!?何でここに……」

「……スイ……」

 驚きに目を見張る翠に、ガイが一瞬苦しそうに目を伏せるが、すぐに居住まいを正し、跪く。

「───長き時、お待ち申し上げて居りました、竜珠の姫」

 地に膝を付くその姿と、その言葉に翠は一瞬言葉を失う。戸惑ったように視線を泳がせる翠に、ジークハルトが険しい表情のまま答える。



「その者は、我が臣下。そして───翠、貴女の居場所を伝えし者」




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ