幕間 執着 Sideジーク
「───ガイ。信を置ける者を選び出し、竜珠を探し出せ」
扉の前で控えていたガイに、ジークハルトは言い放つ。足早に進みながらも、次々と指示を飛ばして行く。
「容姿に関しては全て不明。なれど異界の者だ、何がしかの違和感はあろう。行動、言動、容姿、服装、仕草……何でも良い。引っ掛かる部分があれば秘密裏に素性を調べよ」
「はっ」
掛けられる言葉を問い返す事も無く、ガイは頷き呼び出すべき者を頭に浮かべながら、探索の手段を練ってゆく。
「……そして、過去が調べられない者があれば報告せよ」
「………」
「どうした?」
いつものように返事を返さないガイを、ジークハルトは振り返る。
「報告……だけで宜しいのですか?」
相変わらずの無表情を貫くガイが、僅かに困惑を声にだけ滲ませた。
「構わぬ。無理やり引き摺って来た所で……何も得る事は出来ぬ」
「御意」
「セルジオも好きに使え。あの男は面倒な事を積み上げる程に嬉々として働くからな」
己の片腕とも言えるセルジオをそんな風に表しながら、ジークハルトは当の本人が居る執務室への扉を開く。
「凄い言われようですね。私はそんな変人ではありません」
扉を開きながらの会話が聞こえていたのか、失礼だと言わんばかりのセルジオに、ジークハルトは低く笑う。
「暇を与えれば詰まらぬ顔をして出て行っては、厄介な問題を抱えて帰ってくるような男は変人で構わん」
この所見られなかった、軽口を叩くジークハルトに、セルジオはその柔和な顔に笑みを乗せる。
「竜珠の姫の所在が判明した……わけでは無いようですね」
しかしその笑みも、ジークハルトへの問いかけの最中に次第に曇ってゆく。居場所が判ったのかと問いかけた瞬間の苦々しい表情を見れば言わずとも答えはわかる。
「ガイを使う。探索の範囲は城より人の足で行ける範囲」
「そうですね……ですが、あのお方がその翼で姫を運んでしまえば探索の範囲は途方も無く広くなりますが」
漆黒の竜の、竜癒の間をも覆いつくすほど巨大な翼を思い返しセルジオが告げる。
「それは無い」
「……と、言いますと?」
「我が半身は、関与しない。手助けはせずとも邪魔もしないと言質を取った」
「何と……!あの方が傍観に徹すると言われるのですか!?」
信じられない、そうセルジオの瞳は雄弁に語っていた。
「あまりも我が姿が情けなかったのだろうよ。同情半分……といったところか」
溜息を吐くジークハルトに、セルジオは苦笑する。
「ですが、良かったじゃありませんか、一番の懸念は……あの方が執着心故に竜珠の姫を隠される事でしたから」
セルジオが言う言葉は大げさでも何もない。
民の間では御伽噺のように語られている、竜王と竜珠、そして竜の仲睦まじい一揃いの姿。それは、そんな可愛らしいものではなかった。
竜王と竜。同じ魂を一つで分けているのだ。勿論───愛する者も、同じである。
相手がヒトであれば、竜も諦めがつくのだろう。竜とヒト、互いの意思を図る事も出来ないのだから……。
だが、相手が竜珠となれば状況は一変する。
言の葉を交わし、その心に触れ、伴侶となる。それでは竜も諦める事など出来よう筈がない。
歴代の竜王の中でも、竜珠を伴侶にした者は流布しているほど多くはない。だが、その少数に該当したものは例外なく、半身たる竜と激しい争奪戦を繰り広げる。
互いに妬心を抱きながらも、恋敵は己の半身故に消すことなど出来はしない。
しかも想いが深まれば深まるほど、相手も同じだけの気持ちを抱くのだから始末に負えない。
どちらか一方が想いを手放すことなど無いため、竜王と竜───彼らの争奪戦に終わりなどないのだ。
伴侶として竜珠を求めぬ竜王は幸せだ。竜が名を得た後は、折に触れ見えることができれば事足りる。互いの半身と伴侶の奪い合いなどせずとも良いのだから。
だが、永遠の妬心に縛られるものの、竜珠を伴侶とした竜王はそれ以上に幸せだ。
───魂からの結びつき。その喜びは言葉に出来ぬものなのだから───