山下(2)
ここは、ある地方都市に存在する簡易無料相談所である。今日も、明日も毎日毎日、山下の元に相談に訪れる者が止まない。
午後七時、ワイシャツの襟元がはたけた男性が山下の元に訪れた。
「おぃ、山下。また相談があるんだけどよ、アイツどうしたらいいよ?」
「なんだい?」
「一万円貸したのに、あいつ返さねぇんだよ」
「……うん」
「それでよ、○○××、△△で……」
「……」
「でよ、明日とっ捕まえてやろうと思うんだ」
「……」
「……おぃ、聴いてんのかよ?」
山下は目を瞑っていた。
「おぃ、山下!寝てんじゃねぇよっ!!」
「……なんだい?」
「もういい!今日は帰るわ」
男は怒って帰って行った。
「はい、次の人」
お馴染の女性がやってきた。
「山ちゃん、久しぶり~!」
すると、山下は眠ってしまった。女はしばらくして帰って行った。
「……。はい、次の人」
白い薔薇の花束を持った青年がやってきた。
「山下さん。この花、彼女にプレゼントしようと思うのだけども、どうですかね?ちょっと、重いですかね?」
「……。綺麗な薔薇だね」
「えぇ、先日から予約していて、さっき仕事帰りに買ってきたんですよ。でもなぁ、買ってみてから気付いたんですけど、ちょっと薔薇って重いかなって思って」
山下は目を開けたまま花を見ている。
「山下さん、どうですかね?」
「……」
1分後、青年がまた尋ねた。
「山下さん??」
山下は目を空けたまま眠っていた。青年は変な顔をして、そっと帰って行った。山下はしばらくすると瞬きして、次の女性を呼んだ。
「はい、次の人」
女性が席に座ると、顔を真っ赤にしてこんなことを言い始めた。
「山下!気合い入れろ気合い!」
すると山下は席を立ち、無言でガッツポーズをした。
「おまえ、相談所運営何年目だよ。ちっとも相談に乗れてねぇじゃねぇかよ」
「うん」
「うんじゃねぇ。気合い入れろ、気合い! 頑張れ!山下、頑張れ!」
すると山下は腰を少し浮かし、目の前の女性に気付かれないようにすかしっ屁をした。
「……何か臭ぇな。……山下、屁こいただろう?屁はこくな!」
山下はまたガッツポーズをして、席に座り目を瞑る。
こうして今日の相談を終えた。山下は溜息を吐きながら、店のシャッターを下ろし家路に就く。家路の途中で子猫と出会った。その縞々模様の子猫をそっと撫でると、またすかしっ屁をして歩いて行った。
今日は花火大会があり花火を見てきました。