表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Short Short  作者: 小林 陽太
27/31

山下

 ここは、とある地方都市に存在する「山下簡易無料相談所」である。今日も、明日も、毎日毎日、山下の元に相談に訪れる者が止まない。

 午後九時、革のブルゾンを着た男性がやってきた。

 「おぃ、おっさん。ちょっと聞いてくれねぇか?」

 「なんだい」

 「さっきさ、電車に乗っててよ、ちょっと腰に手を触れただけで『痴漢!』って言われちゃってさ。そういうつもりは無いんだけどね。あるじゃねぇか、そういうことって」

 「……。ねぇよ」

 「あー!?ここ相談所じゃねぇのかよ。なんだ貴様、その口の利き方は」

 「うるせぇ、この糞ガキが。自分のちんちんでも揉んでろ。誰も文句は言わねぇからよ」

 すると、男は納得したような顔をして帰っていた。次に待っていた、お馴染の女性がやってきた。

 「山ちゃん、久しぶりー」

 山下はその顔を見て、溜息を吐いてから一発ビンタした。

 「何すんのよっ! 」

 「さっさと家に帰れ、この雌猫! 」

 女は泣きながら、家に帰っていった。山下はホッとして、次の人を呼んだ。中年の男性がカウンターに腰を掛ける。

 「もう、クタクタ……。今日も厨房で倒れてしまって……」

 山下は目の前の中年の男性の肩を抱いて、「大丈夫、大丈夫」と何度も背中を両手で叩いた。

 「今日はお疲れでしょうから、お家に帰ったら温かいものでも飲んで、ゆっくり身体を休めてください」

 すると、男性の顔が豹変した。

 「ううう…、てめーに言われたくねぇ。俺だって頑張ってるんだ! 」

 男性は怒って出ていった。山下はまたホッとした。

 「はい、次の人」

 白い百合の花束を持った女性がやってきた。

 「……」

 「あぁ、“そういう”の扱ってないんで」

 すると、女性は何も言わずに帰って行った。と、思ったら入口の所で立ってこちらを見ている。

 「はい、次の人」

 山下は気にせず、次の男性を呼ぶ。茶色いサングラスの男性だった。

 「おい、兄ちゃん。息子の親権、母親と父親どっちが取った方がええか分かるか? 」

 「息子さんが取ったらええと思いますわ」

 すると、男性が胸倉掴んで殴りかかってきた。山下は椅子から転げ落ちて、口元を手の甲で拭ってから、再び椅子に座る。

 「やっぱり、息子さんが取ったらええと思いますわ」 

 男性はカウンターに蹴りを入れて帰って行った。山下がカウンターに開いた穴を見ていると、バイブルを持った清楚な女性がやって来た。

 「……。あなたは神を信じますか?」

 山下はそれを伺って、数秒間天井を見てからこう言った。

 「うーん、それは難しいねぇ。会ったこと無いから分からないですね~」

 すると、女性の目つきが豹変して、手のひらを山下の方に向けて呪文を唱え出した。

 「はい、次の人!」

 呪文が終わったようで、山下がフラフラしていると、次の女性がその清楚な女性と会釈を交わした後に腰を掛ける。

 「山下さん。聞いて下さいよ、上司が支配的な人でやんなっちゃうのよね」

 「そうだね。やんなっちゃうよね」

 「それでね……、○○××で…、△△なの。だから、□□で……」

 山下の目が○×△□に変わって、ぐるぐるぐるぐるしてゆく。

 「うーん、こまっちゃうよね~。でも上司に「いつもありがとうございます」って言っとくといいよ、たぶん」

 しかし、女性は不満気な顔をして帰って行った。

 午前零時、そろそろ今日の店を閉めようと思って、入口のシャッターを下ろそうとやってくると、あの百合の花を持った女性がまだ立っていた。

 「あ、これはこれは」

 「……」

 すると、女性は百合の花を店の前に置いて帰って行った。山下は溜息を吐いて泣いた。

 「山下簡易無料相談所」は、毎日毎日、こんな感じなのである。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ