多江子
午後8時26分、多江子の携帯が鳴った。
「多江子~。いま何してるの??」
「…あー!みっちゃん?いまテレビ見てるよ!」
多江子はポテチをつまみながら、ソファーの上でテレビ画面に映る一人の男を見ながら大笑いしていた。
テレビの中には、今人気のお笑い芸人、島村がマシンガンのようなトークを放っていた。
「あのさぁ、例の彼のことなんだけど…。」
「…なに~っ?なに??聞こえないっ~!!」
「山下君のことよ。」
多江子はテレビに夢中だった。島村の話が面白くて面白くて仕方が無いのである。
「山下?あぁ、山下君ね。あの男はあんたに向いてないわよ~!」
「…あははは。そうかもしれない。」
多江子はやっぱりテレビに夢中だった。
「最近、お腹の調子が悪いの。」
「どしたの?大丈夫??…あはははは!島ちゃん~!!」
「うん…。」
二人は時間を忘れて話しつづけた。時計は午後10時を指していた。
「あ、そろそろ寝るね。」
「うん!じゃあまたね~!!」
多江子は電話を切ると、ソファーにうずくまって直ぐに寝てしまった。
次の朝、また電話が掛かってきた。
「おはようございます。多江子さん?今日どうします??」
「あーおはよ、山下君。今日ね…、10時から…」
多江子はあることに気がついた。彼女がソファーの下に落としていた、ポテチのくずに蟻が行列を作っていたのだった。
「それで、あ…、蟻が、蟻が、行列を作ってる…。」
「えっ?どしたんですか?何かあったんですか??」
電話の向こうで、山下が戸惑っていた。
「蟻よ、蟻。蟻が行列を作っているのよ!!どこから入ってきたんだろう?」
「えっ?蟻?蟻??えっ??…ありりりり!!」
「あははははははは!!!」
多江子はそれを聞いてまた大笑いした。今日もまた多江子の一日が始まった。