㉖夢の部屋…?
う〜ん…
どこだ?ここ…
なんか…宇宙…みたいな…
おれの周りに漂ってたり、映像みたいに浮かんでいるのは“見たことのある”モノばかりだ。
冷蔵庫…歩道橋…ヨーヨー…、給食袋…自転車…夕焼け…、お月さま…子ネコ…ハンバーガー…、なんか、前世から…知ってるモノばかりだ。
全て“懐かしい”と思える…そんな存在たち。
ふと気づくと、その中でも、特に強い光を放つ真っ白いドアが目の前に現れた。
なぜだか、恐怖心はない。
おれは、なんの警戒もなくそのドアを開けた。
「───やあ…。」
ドーム状の間取りをした狭い部屋の真ん中に、おれと似た緑髪の少年がいた。
メガネをかけ、揺りかごのような古そうな椅子に、ゆらゆら揺れながら座って本を読んでいる。
なぜだか…物凄い見覚えがある…。
おれは寝惚けているのだろうか?
ボヤケた思考を手繰り寄せて思いついた名を口にした。
「───、……世界休め…?」
「正解──。まあ、君も座りなよ。」
部屋の主の正体は“世界休め”だった。
う〜ん…どういうことだ?おれ、また死にかけてるのか?
奇妙な疑問を抱えながらも、おれは従うように世界休めの少し目の前に胡座をかいて座った。
この部屋…壁が全て、本棚で埋め尽くされているなぁ〜…
物凄く圧迫感のある部屋…。ジロジロ眺めていると天井にも、重力に逆らって逆さまに本棚が配置してある。
夢か?ステレオ能力…?とにかく、落ち着かない。
キョロキョロしていると世界休めはおれに話しかけてきた。
「なにソワソワしてるのさ?別に気まずい仲じゃあるまいし。」
「な、なんでまた世界休めが、おれの前に現れるんだろ…って思ってさ?しかもなんかここ、変な部屋だし…」
「───此処は、キミの夢の中だよん。キミの『記憶』を依り代にした“夢の部屋”…とでも言おうかな。」
「んぇ…?夢?やっぱり?てか、記憶って…!?」
どうやら、本当に夢の中らしい。
外でフワフワしてた幻みたいなのは、おれの前世の記憶の一部ってことか…。
う〜ん…今までこんなことなかったんだけどなあ。
夢…、精神世界……。とんでもないところに来ちゃったもんだ…。
ホント、なんでもアリだな…コンプレックスって…
「今回は、たまたま来れたんだと思うよ。キミ、あの戦いの後疲れ過ぎて爆睡してたみたいだしね。」
「……そうだ…!たしか…固霊に成りたくて…!騙されて…ヒュークと戦って…そんで、なぜか仲間になって……。って……世界休め、いつも寝てんのに、そこまで知ってんの?」
「“読んだ”からね。キミのことはキミ以上に知ってるよ〜?」
「…???、よ、読んだ…??」
そう言うと、世界休めは今しがた読んでいた本を膝の上に起き、背のすぐ後ろにある本棚から“分厚い”別の本を取り出した。
そして、背表紙のタイトルを、今まで見たことのないニヤけ面で読みはじめた。
「…あ!この本とか傑作でね?──『水月ねーちゃんのこと。』ハイ、読んでいくね〜〜。」
「………?????は??水月ねーちゃん!??なんだなんだ??その本…!?!?!?」
嫌な予感しかしない……………
おれが立ち上がろうとするのを、世界休めは視線一つの“圧力”で座らせてきた。──ぺたんと…。
世界休めは喉を「んっ…ンンンッ!!」とゴキゲンに鳴らすと、つらつらと…ニヤニヤと…“ソレ”を朗読しはじめた……!!
「《明日檜水月…水月ねーちゃん。とっても背が大きくて、カッコいい…!!そして、それに負けないくらい、優しくて、笑顔がかわいくて、なんか…見ているだけでこっちも、ニコニコしてしまうようなお姉さんだ。》」
「は?は?は?……!??世界休め…!?!?な、な、な……何言って…───」
顔が、沸騰したヤカンのように熱くなる。それは、自分が日記にすら書かなかった、心の一番深い場所に沈めていたはずの「独り言」だった。
世界休めはおれを無視してまだまだ読み続ける。
「《水月ねーちゃんに抱きしめられると…心臓がバクバク鳴って恥ずかしい…。バレてないよね…?おれのこの気持ち…》……うわ〜…確かに、これは…恥ずかちいねぇ〜〜〜〜…。」
「あ、あ、あ、……!!!??せ、せ、せ、世界休めさん……!!??そそそ、それってマサカ……!?!?」
「その マサカだよん。“この本”はね…?キミの今までの経験や、想い出を元に作られた記憶の具現なのだよ。つまり、ココはキミの記憶の図書室ってワケ。ま、“コレ”は読破するのに3日はかかりそうだから、まだ、さわりしか読んでないけどネ…。」
「うわぁあああああ!!!!!全部燃やしてくれぇえええ!!!!頼むから、ずっと寝ててくれよ!世界休めさまぁああああ……!!」
ヤバい……今までのどんな敵よりも、恐ろしい攻撃を喰らっている…!!!!!
しかも…こ、コイツに嘘は通じない……
ホントに、疫病神じゃねーか……性格悪し…
「ま、…冗談はさておき…。キミのその『純粋さ』が、ヒュークの魂を動かしたんだ。汚れてないからこそ、ボクの本棚もこんなに綺麗なんだよ。」
「うわ、褒めてくれんの意外……。てかっ…!!“ボクの本棚”って……私物化してるし!!」
少し大きな声でツッコミを入れたその時だった。
───ガサ……、と、おれの背後から音がした。
振り返ると、本棚の陰にナニカが居る…。
ギョッと目を凝らすと、そこにはなにかの仮装をしたような、小さな可愛らしい子どもが居た。
ココはおれの記憶の空間…なんだよな?
おれは世界休めに、またまた質問した。
「な、なぁ?おれあんな子、記憶に無いぞ!?しかも、なんだろ…ココの住人として動いてないか…!?」
「あ〜、アレ? ホントにわかんない? いつも助けてくれてるのに? 失礼だねぇ〜、チマキくんは…」
「えっ…いつも助けてくれてる…??」
おれは目を細めて、その影をじっと観察する。
カラフルなピエロの子どものような容姿。
手には、おもちゃのような…けれどどこか神秘的な輝きを放つステッキ。
半分冗談、半分本気でおれは答えた。
「まさか……『我が身可愛さ』………?」
その名を口にした瞬間、その子は少し顔を赤らめた。
床に無造作に落ちていた本を魔法のような力で、その顔を隠すように目の前に浮かせてみせた。
「ふ〜ん…なんだ、分かってんじゃん。」
これは驚いた…。
能力がヒトの姿に立体化しておれの精神世界に居る──。
今まで好き勝手に使っていた、能力が、だ。
それが…まさかこんな姿だったとは…!!
なんだろう、途端に感謝と、物凄い申し訳なさがジワジワと湧いて溢れてきた。
「あんな小さいコが、キミがいつも“使ってる”『我が身可愛さ』なんだぜ?あの手に持ってる すてきなステッキの“念力”でキミを操作して防御させたり、避けさせたりしてんだ。健気だねぇ〜…」
その言葉に反応したのか、ピエロの子は「てへっ」と照れるように、だけど自慢げに自分の顔を見せてき
た。
「お、おれ……てっきり自分の反射神経が物凄くパワーアップしてんだと思ってた……。あの子が、おれの腕を引っ張ったり、髪の毛を動かしたりしてくれてたのか……?」
「そうだよ〜?キミがボケ〜っとしてる間も、あの子はキミの命を守るために、必死にこの狭い部屋でステッキを振り回してるワケ。感謝しなよ?」
胸が変な痛み方をしている…。
おれは、おずおずとその小さなピエロに近づこうと一歩踏み出すとパッと本棚の裏に隠れ、ひょこっと反対側から顔を出して、楽しそうにステッキを振った。
「……あはは、なんか、可愛いな。……いつも守ってくれてありがとうな! これからは、おれも頼りきりにならないように頑張らなきゃなぁ…。」
「なら…自動防御の優先度を上回るほどの行動を心掛けないとね〜…ま、なるべくね。」
「“なるべく頑張れ”…だろ?───そういやさ世界休め、能力で思い出したんだけど…『存在力』ってやつ。ステレオ能力とはまた違う、別の力を持ってるよな? あのコレールの能力を解けたのもコレのお陰なんだろ?」
世界休めは常時眠たそうな目を、少し大きく開くと、質問に答え返した。
「…その通り、ボクの怠惰の幽気は少し特殊でね…『1/Fゆらぎ』を高密度圧縮してある特別製なのだよ。」
「…なんだ?そのエフ分のなんとかって?」
「──『1/Fゆらぎ』。川のせせらぎ、木漏れ日、焚き火の炎……人間が本能的に『心地よい』と感じ、緊張を解いてしまう魔法のリズムのことだよ。ボクの存在力にあてられただけで、感情や幽気そのものを強制的にリラックス状態に書き換えれる。ちなみに──その力の名前は『懈』。…どう?ちょっとカワイイでしょ?」
“アイドル”のワードとともに、『我が身可愛さ』はフリフリと、ぎこちなく踊りはじめた。
仲良いんだな…。おまえら。
「“アイドル”って……、なんかキャピキャピした名前だな…。」
でも、コレールがおれに対して使ってきたあの恐ろしい能力ですら、ほぼほぼ無力化できる効果といったら…馬鹿にできないんだよな。
コイツやっぱり、ちゃんと凄いヤツなんだな…。
まあ、“癒し系”の最強版みたいなモノか。
「名前はアレだけど…、コレってほぼ無敵だよな?あ、でも物理的攻撃には効果ないのか?」
「あくまでも、感情や幽気に対してだからね〜。ま、だから『我が身可愛さ』を造ったんだけどネ。ま、…あの信徒のステレオ能力が全くキミに効かなかったのはキミの中のボクの存在力に、あまりにも深く接してきたから…。理屈は分かったかい?」
「ん〜…まあ、なんとなく分かった!要は、おまえ専用の特殊能力みたいなもんだろ?!カッコいいじゃんか〜そういうの!」
「まあ、そう…?かな?カッコいい…?ボクは特になんにもしてないのに、相手が勝手にサボっちゃうんだケドね…?」
なぜか『我が身可愛さ』も少し照れくさそうにクネクネしていた。ほんと仲良いんだな…。
世界休めが、そう ほんのり恥ずかしそうにブツブツ言ったあと──
なんだか、視界がグニャグニャしはじめた。
まるで、警告みたいな…?
「あ〜…どうやら、キミの起床時間のようだね。なら、また近い日にいつか…ね。」
「おれが“起きようとしてる”のか…。ちぇっ、まだまだ、おまえに聞きたいこといっぱいあったんだけどな〜…色々ありすぎて逆に思い出せないけど…」
「ま、気長に待ってるといいよ、ボクは逃げないから。キミの本の更新も暇つぶしにゃ、ちょーどいいしね〜。」
「暇つぶしって……ほんと悪趣味なヤツ…!」
「ハハ、褒めるなよ。照れるだろ。ま、固霊への昇華活動───なるべく、頑張りなよ。」
───『我が身可愛さ』がコクッ──っと、深い礼をした姿を最後に意識が飛んだ。
そして数秒後、聞き慣れた声が聞こえてきた。
「茅蒔くん…?あ〜!…やっと起きたんだね!!ぐっすり寝てたんだよ〜!」
さっきの本の主人公の声でおれは目を覚ました。




