㉕ 腹心・ヒューク!
「ヒューク……」
目を開ける。
さっきの閃光がまだチカチカしていて、視界がボケる。
やっと、目が慣れてきた。
そこには、戦士が大きな両翼で空を覆うかのような風景があった。
「な……バカな……!? なぜ『雷撃』が効いていない……! それは神にも等しい“憤怒”の力……バズーカ様から授かった絶対の……っ!」
コレールの裏返った荒々しい声が聞こえてくる。
おれの視野に現れたヒュークは、その全身に赤白い稲妻を纏わせながらも、微塵も揺らいでいない。
さっきまでの、瀕死で錯乱していたヒュークの面影は微塵もなかった。
【気がついたか、茅蒔よ。】
「おまえ……あの、雷から守ってくれたのか…?」
【───そうだ。】
──身体中に黄金の幽気を纏わせている。
怪我した部分が、その幽気でゆっくりと治癒・再構成されている。
それどころか、研ぎ澄まされたヒュークの幽気は、借り物の雷すらも己の翼の一部として取り込んでいた。
そうか、“成功”したのか…!『忠誠』の対象を、移すことに…!
おれは、気になっていたこと───
ヒュークが“どちら”に憑いたのかを聞いた。
「ヒューク、おまえ…どっちに…憑いたんだ?あの一瞬で判断したんだよね?」
【簡単な話……。───お主だ、茅蒔殿。】
「あぁ〜〜…おれか!!そっかそっか…。…………、────へ…?」
【それでは……“返すぞ”…!!!拾ってもらった礼だ…!!!】
その瞬間───
おれの身体はヒュークの幽気で包まれた。
たくさんの切傷、疲労、息苦しさが、ゆっくりと癒されていくのが分かる…!!
まるで、生命力をドンッッ、とダイレクトに渡された気分だ。
『忠誠心』を取り戻したから、ヒュークの幽気が元に戻ってんのか…?…いや、前よりも増えた!?
………というか…!!
「お、おい……ヒューク!?“お主”…って、まさか…おれを『忠誠』の対象にしたのか!!??ケガ治ってんのは嬉しいけどさ…!?大丈夫なのか!?」
【お主以外、誰がいよう。ワタシが決めたのだ。お陰で息を吹き返したぞ、礼を言う。】
「おれで…良かったの…?あっちの巫女さん、ふたりのほうが強いよ…?まじでいいの…?」
【茅蒔殿、クドいぞ。お主の純粋さと献身の心に、ワタシは文句の付けようのない程の忠義を抱けたのだ。】
まじか、お、おれに…憑いたのか!?
このヒュークが…!?あのヒュークが!?
というか、コンプレックス味方にしちゃった!?
あ〜…まあ、おれもコンプレックスみたいなもんか…!?
「ヒュークゥウ……!!!貴様……!!主を裏切った罪……バズーカ様が許さんぞ…!!!!!!」
【コレール。お主の信仰は、所詮は“恐怖”という名の隷属に過ぎん。……だが、我が新しき主、茅蒔殿が示したのは『献身』という名の絆よ。】
ヒュークは、自分の胸に突き刺さっていた雷撃の残滓を、素手で引き抜く。
【──貴様のゴミだ。……返してやろう…!!】
「や、やめろ……! や、、やめろぉおおお!! 私はバズーカ様の……ぎあぁああああああ!!!」
ヒュークが投げ返した雷撃は、コレール自身の傲慢さを焼く業火となり、彼を文字通り「一撃」で沈黙させる。
バズーカの力を笠に着ていた男の、あまりに惨めな自滅だった。
【茅蒔殿。これで晴れて───ワタシはお主の、“腹心”だ。受け入れてくれるか…?】
「“腹心”……腹心…!!すんごい…カッコいい響きじゃんか!!!うん!ヒューク!おまえをおれの腹心にする!!!」
【誠に感謝する──。…お主に拾われたこの魂、今この時より、お主の影として捧げよう───。】
大鷲の頭と翼を持つ人間型のコンプレックス──
“忠誠心”のヒュークは、今、正式におれの腹心と成った…!!
さっきまでの張り詰めた緊張感が嘘のように解けた。さっきまで、命のやり取りを、おまえとしてたはずなんだけどな!
ヒュークは、もう治っているおれを『お姫様だっこ』して、水月ねーちゃんと風月の元まで運んでくれた。
っていや、いいって!!また抱きかかえなくて!!
足は動けるから!!立てるから!!そう言ってもヒュークは「まだ陣の中…油断はできん」と言って、警戒している。
まあ、正直、安心するけどさ?ホントに『忠誠心』の化身なんだなぁと、その姿を見てしみじみ思った。
気を失っているコレールの近くを通り過ぎる時、ヒュークは静かに言った。
【安心しろ、茅蒔殿。この男はまだ、生かしてある。】
「ん!そうなの?…そんな器用な感じの威力じゃなかった気がすんだけど…。大地えぐれてますけど…。」
【あのバズーカから借りていた『雷撃』だが、あくまでも、こやつが扱う『雷撃』──。幽気量も破壊力も訳ない。それを、そのまま返しただけのこと。】
「なるほどな〜…いくら最強の能力を借りても、使い手程度の火力しか出ないってことね。」
コレールは、そのまま起き上がることはなかった。
おれはヒュークに抱きかかえられたまま、ふたりの前に連れて行かれた。
風月がほんの少し、顔に冷や汗を垂らしながら呟いた。
「……信じられん…。コンプレックスを…従えた…。…茅蒔…おまえ、やはり只者じゃねーな…。それに従うオマエもオマエだけどな…。」
「茅蒔くん…!!!!良かった…良かった……生きた心地がしなかった…良かった…。」
「ふたりとも…ゴメン。迷惑ばっかかけて。」
「ホントに……良かった…!!うう……」
風月は少しヒュークに警戒する仕草を見せる。
水月ねーちゃんはその横で、力が抜けたのか泣き崩れてししまった。
ヒュークは気を遣ってくれたのか、おれを抱っこから降ろしてくれた。
水月ねーちゃんは直ぐに、おれを抱きしめてくれた。
「水月ねーちゃん…ごめんね。…結局、固霊になれなくて騙されちゃったけど、また会えてよかった!」
「わたしも…もっとちゃんとしてれば…ごめんね…!辛かったね…。」
今日は、いっぱい抱きしめられる日だ。
…ホントに、生きてて良かった。
そんな想いを、胸に詰め込んでいると、ヒュークが不思議そうに語りかけてきた。
【…お主、なぜ泣いている?茅蒔殿はこの通り、生きている。なぜだ?…悲しいのか?】
「あ〜…えと、ヒューク?もしかして、うれし涙とか知らない…??」
【??…なんだそれは?そのような症状か?】
オイオイ…ヒュークさんよ。やっぱりコンプレックスとやらは、自分の固定観念 以外の感情には疎いのか?
まあ一応、部下…なんだし?教えてあげるのも務め…だよね!!
どっかで聞いたことあるような説明口調でおれはヒュークに語りかけた。
「説明しよう!うれし涙っていうのは〜…!言葉通り、嬉しい時とか感動した時とかに流れてしまう涙のことであ〜る!」
「馬鹿!!!自分で言うな…!ったく…心配ばかりかけやがって…!」
──ボコッ…
風月に頭を小突かれました。確かに泣かせてしまってる自分で言うことじゃありませんね…。
でも、もうちょっと優しくコミュニケーション取ってくれよな〜!!
すんごい、結構!本気で痛い!!むきーー!!!あとからジンジンしてきた…!!!
「痛ってーーー!!!!…くそ〜…なんで『我が身可愛さ』で察知出来なかったんだ〜…?アイテテ…」
【……茅蒔殿、それは…今の行動は『愛情』なんじゃないのか?敵意じゃないから、防御できなかった。…間違っているか?】
…………。風月と目が合う。
「「ゲゲ〜〜〜〜……!!!!!」」
初めてのリアクション シンクロ芸である。とても複雑なコンビネーションだ。
【……。ズレていたか……?申し訳ない。】
「あ、あああ、、『愛情』だと〜〜〜…!!?ヒュークだったな!?さっきの闘いの続きでもやってやろうか…?!あぁ〜!?」
【愛情ではない…なら、『慈愛』とかか…?そういや貴様、“一応”巫女だったな…?口調はかなり粗雑だが…】
「“い・ち・お・う”、つったなオマエ……!?よし来い!!!3枚に下ろして、揚げてやる!!!待てコラーーー!!!」
【茅蒔殿!!やめるように言ってくれぬか!!?忠誠心が…『恐怖心』に、、上書きされそうなのだ!!!!】
さっきまで、目を潤ませていた水月ねーちゃんは、その光景を見るなり「ぷっ…!」と、子どものように笑っていた。
笑えるほどバカバカしくて、微笑ましいモノでも見るかのような瞳だった。
いつもの優しくてかわいい笑顔になっている。それをみておれも、つられて笑ってしまった。
「ふふふ…ヒュークさんも、お姉ちゃんも…もう仲良くなったんだね!」
「ってねーーーよ!!!!!」
「っておらん!!!!!!」
───“忠誠心”のコンプレックス。
ヒューク、おれの腹心になる。




