㉔ 頼むぞヒューク
コレールの作り出した呪いの陣の中に、再び引きずり込まれてしまったおれとヒューク。
瀕死状態のヒュークは為す術もなく、おれと共に“強制心中”の罠に掛かってしまった。
その様子を、風月と水月ねーちゃんが歯痒い表情を浮かべながら静観していた。
───静かに、機会を持つように
「水月…私は隙を見て、あの信徒を拘束する。能力が解除されたら……───」
水を差すようにコレールが“提案”する。
「おっと……僕への攻撃は辞めたほうがいい…。バズーカ様の『雷撃』を貸与させていただいているのですからね…。先程見せた、アレですよ。少しでも僕の機嫌を損ねれば、茅蒔くんに発動します。…守護霊クラスの貴方ならば、バズーカ様の名くらいご存知でしょう?」
コレールは淡々とふたりを“脅し”はじめた。
おれはともかく、ふたりも、ヒュークも道連れになってしまう…ソレだけは避けなきゃな…。
かといって、これでふたりを無力化された…。
バズーカ……そんなに凄いやつなのか…?
「……バ、バズーカ…?お姉ちゃん…“バズーカ”ってまさか…」
「………ギラ・ド・バズーカ。“憤怒”のコンプレックス。世界休めと同じ…『六幻』のひとり…だ…!!!」
「ハッ…!“同じ”…?世界休めは、もう『六幻』のひとりではありません。人間に封印されるなど…除外されて当然の存在ですからねぇ。それとも、バズーカ様を…侮辱しているのか…?」
なんだ…?タランチュラ??
ギラってのは、あの雷のことか。
また聞いたことのないワードだなあ〜…。ただでさえ、頭痛いのに…。
世界休めに関係があるのか…。
しかし、今の問題はこっち…!!!
コイツをキレさすとヤバい…、異常だ。
しかし後ろには、支配されておれを狙い続けるボロボロのヒューク…。
どうすんだよ…めちゃくちゃな状況だ…!!
【ヴォ…アア……コレー…ル……さ…ま…】
「……ヒューク…。おまえ…なんだってあんなヤツの言いなりに……!!」
【服従…遵守こそ……、ガハッ……ガハァ…ハァ……、我が…生きる糧……】
そこまでして…従う…のか…?
死にそうなのに……?
…………いや。
『生きたい』のか………。
「茅蒔くん?君の方にも条件だ。君が、少しでも反抗すれば…『雷撃』を即座にあの巫女たちに落とす…!!…どうだい?残り僅かの命でも…スリルが出てきただろう!?そのカスの様な流霊の命でもだ!!」
「……!!救えねぇ野郎だな…!!」
「茅蒔くん……!!!」
水月ねーちゃんが、何かを思い詰めたように言い放つ。
「コレールッ!!わたしに…『雷撃』を向けなさい!!」
「…!?馬鹿ッッ!!挑発するな!!水月!!」
水月ねーちゃんが声を荒げて叫んでいる…。
おれのために…おれなんかのために…。
……でも、もう少しだけおれにやらせてくんないかな…?
ちょっと…わかった気がすんだよな…!
「おれなら、大丈夫……!!」
「……馬鹿!!!なに言ってるの!!??」
【オオオオオ……!!!!!!】
────ブジュアアアア………
ヒュークの鋭利な爪が、おれの心臓の少し上を物凄い力で貫いた。
『我が身可愛さ』が頑張って作った蔓状の髪のお陰で、即死だけは免れた…。
信じてたぞ。
「なあ……ヒューク…。」
【……!!!?貴様……なぜ…防御しない…?なぜ…避けなかった……!?】
「その必要が…無いからだ…。なぜなら……」
────理解したぞ、ヒューク。
……おまえの『心』を…………。
「──『忠誠心』……だろ?おまえの、固定観念……。」
ヒュークは正気の目に戻った。
どうやら、支配を驚きが上回ったようだ。
【………小僧…言い当てよったか……。】
やっぱり。
───忠誠心、か。芯があるような言葉のようで、憑く人間によっては『光』にも『闇』にも染まる。
ある意味、依存に近い…呪いのような感情だ。
ヒュークからは、ところどころの言動や仕草からソレが見えていた。
【…しかし…何故だ?…なぜ……!?その身をわざわざ犠牲にした…!??】
「……この方が…直接、世界休めの幽気を流せる……。おまえを、戻せるかもって…。…強引だけど、やり方は合ってたっぽいな……!!はは…」
【……一歩間違えば、貴様…死んでいたぞ…?】
「おれ、馬鹿だからさ。コレしか…分かんなかった。」
【…………。】
言葉を失うヒュークに、おれは続けて…なるべく頑張って、話し続けた。
「おまえと戦って……そんで、風月の言葉で確信した…。おまえは…かなり『弱体化』してる…!!今日、初めて会ったけどな…!なんか分かる…!理由は、コレールへの…忠誠が薄れていってるから……!!今日がその特別薄くなった日なのか…徐々になのかは…わっかんねーーけど…!!!」
【…………。……。】
もう、下半身に力が入らない。
崩れ落ちそうになったその身を、ヒュークは一切の敵意を見せず大きな身体で受け止めてくれた。
……そのまま、おれはまた話し続けた。
「…助けに来てくれた巫女…ふたりいるだろ?あっちの…白い髪の水月ねーちゃん……。めちゃくちゃ優しいし、大っきくて、カッコいいんだ……。」
水月ねーちゃんの方を見ながらおれはヒュークにそう言った。
ヒュークはただ、おれの顔を覗き込んで聞いている。
最初は鷲のような怖い顔、って思ってたけど…案外カワイイもんだな。
…視界がボヤけてきた…。
「あっちの…さっきおまえが戦ってた黒髪のねーちゃんは…風月っていって……ちょっと怖いけど…頼れる、カッコいい守護霊なんだ……。」
風月の表情は、もう分からないけど
黙っておれの言葉を聞いてくれている。
「なあ…ヒューク…、おまえの『忠誠心』……。あのふたりのどっちか……移し替えろ……。それが出来るかどうか…おれは、わかんねーけど…みんな、死ぬよかマシだ…。そうだろ?」
【………本気…か…?ワタシは敵なんだぞ…!!?】
自分でも、もう何を言ってるかわかんないや。
小さな頭脳フル回転させてコレだ。
みんなだけは…
「……茅蒔…おまえ……」
「…茅蒔くん……!?」
「ごめんふたりとも、おれのワガママ…駄目かな…?勝手すぎたかな……。」
後は、頼むぞヒューク…。
敵にこんなこと頼むの…オカシイな…
でも、おまえは…なんか信じれるんだ。
「茅蒔くん、困るね〜…悪質な勧誘は…。今ので、僕の不快感は絶頂だ…。」
コレールの姿が轟くように黒く、輝き始める。
「────『雷撃』……ッッ!!!さようなら、醜く、穢らわしい、カビの様な存在よ…!!二度と栄えるなよぉおお!!!!」
「ヒューク!!!!!」
【……!!!……良かろう…!!貴様の『心』、理解した…ッッ!!!】
─────ズガォオオオオオ!!!!!
空を張り裂くような轟音が鳴り響いた。




