㉓ 明日檜姉妹…ふたたび!!
「チッ……、アナタも来たのですか…約束が違いますが?」
風月は堂々とした態度で答えを返す。
「お互い様だろ?お前のことは調べはついている。あの後な、テメーのことが気になった。左備…信徒に堕ちた元男巫…。ったく…とんでもねえ離反者がこんな近くにいたとはな。」
風月………!!
味方に憑いている時の安心感が凄い…。
おれは今、水月ねーちゃんに優しく抱きしめられている。
けれど左備…いや、コレールにも水月ねーちゃんは一切の警戒を怠っていない。
これが、本物の巫女…。本当の実力者…。
「ふ〜ん…お前も風使いか。気が合うなコンプレックス。」
【フッ…名をヒュークと云う。…貴様もその細い幽体で、あのレベルの風を操るとは。それに中々の幽気だ…。】
「……“明日檜風月”だ。偉く上品なコンプレックスだこと。」
流石は守護霊ってやつか。
こんなコンプレックス相手でも全くの引けを取らない。
この場は風月に任せることにした。
「水月!!そっちは大丈夫なのか!?」
「うん!茅蒔くんも致命的なケガはしてないみたい!」
「相変わらず、ガキのくせにタフなやつだ。なら私らは私らで楽しむか…。」
風月は少し気怠そうに、だが好戦的な瞳でヒュークを見つめる。
ヒュークもそれに応えるように体勢を整えた。
【面白い女よ…。ワタシが飽きるまで、この殺し合い、付き合ってもらうぞ…?】
「しつこい野郎は嫌いだぞ?遠慮なく行かせてもらう。」
少しの間が発生した後、
ふたりの姿が一瞬で消える───
数秒後、気づけば衝突音が鳴り響いた。
目を凝らして、戦闘を観察する。
風月は腰にいつも帯刀していた、腕一本程の小さい刀で応戦する。
すかさずヒュークも鋭い爪を武器に応対する。
やっと、ふたりの姿をまともに確認したのは、鍔迫り合いの時だった。
────ギギギギギギ……
「ふ〜ん…お前、中々速いな…やっぱ鳥は目も良いってか…!」
【フン…貴様こそ…、中々の腕力だな…!?】
す、…すげえ…!!
やっぱり風月は凄いんだ…、おれあんな守護霊クラスの人間と命のやり取りをしてたんだな…。
改めてよく生きてたなあおれ…。
そんな場違いな感動をしている時──
「──おい…。オマエ、アレの妹の明日檜水月といったか─?呑気だね?それとも僕のことを嘗めているのかな…?」
コレールは薄笑いしながら、水月ねーちゃんにそう問いかけた。
「その大事に抱えてるガキを渡せ?丸腰の無防備な女をどうこうするつもりはない。…趣味じゃないしね。」
「嫌です。」
「ハッ……生意気だね…巫女風情が…」
即答……!!
いや…!嬉しいけど…!
てか!ガキ相手に姑息な能力使っといて「自分は悪趣味じゃないです」だと〜〜…??
このコレールってやつ…やっぱ大嫌いだ!!
おれに立ち向かえる力があったら…水月ねーちゃんを守れるのに…!
ここは逃げるしかないか…?!
「水月ねーちゃん…!その…お姫様抱っこも良いんだけど…動きにくいでしょ?おれ…立てるからさ?」
「あら…?ふふふ、もしかして恥ずかしかった?茅蒔くん。なら…んしょ…、こっちにするね!」
そう言うと水月ねーちゃんは軽々とおれを、
『たかい たかい』の体勢に持ち上げた後、背中に装着させられた。
うん、『おんぶ』ですね。これ…
結局、これも恥ずかしいんだけど!!
というか、やっぱり“眺め”が良いなあ…!
おれも水月ねーちゃんくらい大きくなれるんだろうか。
それまで、生きれるんだろうか…。
「これなら、わたしも自由に動けるね!」
「まぁ…水月ねーちゃんが良いならいいか…!」
水月ねーちゃんとワイワイやっていた
その時だった──
「『雷撃』」
───ボゴォオオオ…!!
コレールがまるで雷のような形状の幽気を不意打ちで撃ち込んできた。
おれは、判断と目が追いつかず、ただただ水月ねーちゃんの背中で守られてしまった…。
油断だった…。ステレオ能力…2個持ち…。
硝煙が立ち込める…水月ねーちゃんを見たくない。
もしかしたら…想像もできない姿に…
このクソメガネ……マジで…コイツだけは…
「巫女さんよぉ…簡単に信じちゃ駄目ですよ。人の言葉を。ソレは自業自得の罰です…フフフ。」
憎い声が聴こえてくる…
おれの殺意を刺激する…
同時に硝煙が晴れる。
その時───
水月ねーちゃんは、想像もできない姿になっていた。
「……ふぅ〜う…。茅蒔くん!大丈夫?」
「いや、…だいじょぶだけど…水月ねーちゃん……?…なに…それ……」
「コレ…?コレはね──」
コレールは、またまた細い目をかっぴらく。
おれも、同じ様に水月のソレに驚いた。
「───『両手に両手剣』──これがわたしの、ステレオ能力…」
水月ねーちゃんの両手には───
おれよりも、大きな大きな剣が
ニ本、その両手に有った────。
「さっきの言葉、勿論信じていませんよ?それと…丸腰、無防備──今でも、そう言えますか?」
「ぐっ………こんな…、幼稚な…能力…!!あ、あり得ない……!!!その馬鹿みたいな剣を……ふたつも立体化したのか…!!?」
か、…か…か、…………
「カッコいい〜〜〜ーーーーー!!!!!!!水月ねーちゃん…!!!!!カッコよすぎる………!!!!!『両手に両手剣』って名前なの!?あと!どっから!!!どっから剣出したの!?!?!!!」
「ふふふ……茅蒔くんったら…そんなに興奮したら、身体に響いちゃいますよ?ふふ…。」
「すげえ……すげえ……!!おれ、水月ねーちゃん死んだかと思っちゃった……。ごめんなさい!!!凄すぎて……カッコよくて…情緒が…!!」
水月ねーちゃんは軽々しく、その大剣を両手に一本ずつ持ち、立ち凄んでいる。
も、もうこの戦い…おれいらなくなっちゃった!?
「チッ……!バケモノが……。!オォイ!!ヒューク!!まだその女を殺せねェのか!!!」
【……!!もう暫し、お待ちを…コレール様…!!】
ふたりは、まだ戦っていた。
風月は、まだまだ余裕そうだ…。
しかし、ヒュークってやつは結構疲れが見えてきている。
こんな一方的に実力の差があるのか…。
少し、違和感を抱いた風月が問いかける。
「…お前…“弱いな”?こんなもんじゃないはずだ、私には分かる。どうやら、お前を構成してる固定観念に謎があるな…。」
【フン……見当違いだな…巫女よ…】
「ハッ……どーだか…。」
コイツが弱いだってぇ!?
風月…マジで言ってる?
……でも、確かにおかしいんだよ…
コレールがコイツよりも強いから…従ってるのか…?
なにか、弱味を握られているから…?
「この信徒に逆らえない何かが、お前を縛っている筈だ。……だろ?」
【言っていろ…。】
痺れを切らしたのか、コレールは冷めた口調でヒュークに応えた。
「……よし、ヒューク。手助けしてやる。」
【…し、しかし…!!ワタシはまだ戦えます…!】
「黙れ?ガキはおろか…女にすらも勝てないんだぞ?クズが……誰がお前を生かしてると思っている…?」
【………。申し訳…ありません…。】
コレールはブツブツとなにかを唱え始めた…。
何をする気……───
────ピシャアアアアアアアア…!!!
その瞬間──、僅かに空がチカッと光った。
そのすぐ後───凄まじい衝撃音が鳴る…
まるで落雷、その轟音に身体が硬直してしまった…。
さっきの…あの“雷”だ…。
気付けば、ヒュークの身体はその立体化した雷に貫かれていた。
風月は咄嗟に素早く回避していた…。
ヒュークの貫かれた部分はドロドロに溶けている…!!とてつもない威力と熱だ…!!
状況を整理しろ……どうなってる!?
ヤバい!!…ヤバすぎる…!!
「お、…おい!!ヒューク…!!!」
おれは、まだおまえを…『理解』してない!!
駄目だ…!!死ぬな!!!
【ハァ……ハァ……お許しを……】
「馬鹿っ!!茅蒔!!来るなッッ!!」
おれは風月の忠告を無視して、すぐにヒュークの元に走った。
コレールのニタニタした様な笑顔。
そして、もがき苦しむヒューク。
さっきまでの、威厳はまるで無い。
…コイツは、許さない。
「おい、メガネ。こいつ…仲間じゃねーのかよ?」
「──はい?『躾』…ですよ。今のところソイツが僕にくれたメリットは何も無い。あなた方、巫女ふたりも来る始末です。主として、少し調教しなければ……」
コイツはキライだ
「お前…のために……こいつも、来てくれたんじゃないのかよ…?」
「まあ…僕への“点数稼ぎ”なのでしょう…フフフ…。単純な思考で、使い易くて…そこは感謝ですねぇ。」
コイツだけには…
「コイツだけには…」
「フフフフフ…どうしました?若いですねえ…?そこの屑に…同情してくださるのですか?」
「負けたくない!!!!!」
「……!!茅蒔くん!?待って…!!」
このメガネをぶっ飛ばす…!!!
おれは、水月ねーちゃんに貰った幽気を、思いっきり…足に込めて地面を蹴り飛ばした。
この威力…スピードなら…、
コイツぐらいなら殴り飛ばせるはずだ……!!!
「うおおおおおおお!!!!!!」
………!!
なんだ…急に足が…重く…
「フフフ……かかりましたね…。君なら飛んできてくれると信じていましたよ…。」
「!!???───しまった……まさか…、またアレか…!?」
いつの間にか、見覚えのある陣に入ってしまっていた。
迂闊だった……。
コイツに、出し抜かれた…?
いや、…おれの注意が…疎かになったからだ…。
「──『馘首・慈悔相』─…。こちらは…仲良しバージョンになりますがねぇ…?グフフフ……!!」
「ぐっ……クソッッ…またこれかよ…!!」
くそ…あと、少しであの顔面に一発入れれたのに…!!
にしても、なんだ……オカシイぞ…。
“剣が攻撃してこない”……。
そうか…世界休めの存在力か!!ちょっとだけ頭は痛くて足も重いけど…
うん……自由には動ける…!!!
でも、アイツが言ってた気持ち悪い響きの“仲良しバージョン”……まさか…
一緒にヒュークも陣に入ってる…!!
コイツも対象なのか…!?
【ぐっ………お…オオオオオ!!!!】
「お、おい…!!!待って!タイムタイム!!」
ヒュークは、おれに殺意を抱いて攻撃してきた。
しかし、勿論スピードは全くない。
さっきまでの威圧…存在感……、
生きてる力を…あんまり…感じない…。
感じなくなった…。
攻撃もただ、腕を振り回しているだけだ。
痛々しすぎて…見ていられない…
【オオオオオオオオオオ!!!!】
「オイ…!!待てって!!…そんな身体で、動いたら死んじゃうぞ…!??」
ヒュークの身体からは血がドバドバ流れている。
致命的なダメージだ。
身体に突き刺さった雷の幽気がバチバチと音を立てて血を蒸発させている…。
「チッ……やはり、君には効果が薄いようですね…。僕の幽気を怠慢させるとは……!ならば、そこの馬鹿鳥に頑張ってもらうしかありませんね。」
「……頑張る?」
「あなたとの“心中”ですよ…!!『慈悔相』は、ふたりでハメると殺し合う設定なのです……。まあ、君はただ逃げるしかありませんが…人質くらいにはなるでしょう。楽しませてください…。グフフフ……」
なるほど…屑だ。
要するに、ヒュークに全ての責任を押し付けるってわけだ。
というか、そもそもこの檻みたいな陣。
さっきみたいにグチャグチャに…世界休めの力でどうにかすれば……
ヒューク…!おまえも…支配から解放してやるならな!!!
「おやおやぁ?いいんですか?茅蒔君。そこの馬鹿鳥を見てみなさい…。さっきより苦しそうじゃありませんか?」
「……はっ?」
そこには、さっきよりも疲弊したヒュークがいた。
睨み殺すかのような鋭い目付きも、天を仰ぎ白目を剥いて肩で息をしている…。
も、もう限界が近い…
「この陣はね…そこの屑の幽気で、賄っているのですよ…。つまりね、この陣はソイツの生命線のようなモノ。まさか…優しい茅蒔くんは…ソレを壊すような真似は…できませんよねぇ…?」
「コ……コレールッッッッ!!!!!」
【バァ……ハッ…ハァ…コ……コレール…ざ…ま…】
「ヒューク……お前…動くなって!!」
千切れそうな胴体を引きずってでも“設定”に忠実に行動しようとするヒューク。
身体に風穴を空けている雷がヒュークを丸ごと焼き切る勢いだ。
悍ましい光景だ…。
待ってろよ…お前は、おれが助けるからな…
アイツから…引き剥がしてやるからな……!!




