⑲ ピンチを大ピンチに変える男!?
「へぇ〜…君のその髪型…。そんな機能性があったとはねぇ…。まるで過保護な両腕みたいじゃないか。」
「う…ぐく…クッソ…!!さ…左備…!!騙しやがったなッッ…!!!メガネ野郎…!!」
もう前までの顔つきではない。
そこには罠にハメたと言わんばかりの蛇のような男がひとり、見下すかのように嗤っていた。
「ククク…騙したつもりはないんだけど…。僕は、信徒という者でね…。“コンプレックスに仕える存在”です。───授かった洗礼名は、コレール─。『左備』という名は、数年前に捨てた名なのですよ。」
「は、はぁ…!?…シント…!?…せんれいめい……??」
コンプレックスに仕える…『シント』…だって?
なに、訳わかんねぇこと言ってんだ…!!?
捨てた?コレール?
わっけわかんねえ…!!!ぐっ…
非常に…ツラい、ところだけど…!
ツインテールに束ねたことで、さらに機動性が増したな…この髪…!いいぞ…!
今、必死こいて“右手の剣”を押さえつけてる最中…、目の前にさっきから切っ先がチラチラと威嚇し続けてんだよなぁ…!!
生きてる気がまるでしねえ…。
それどころか段々と、斬りつけようとする力が強くなってないか…?
「振り切ろうったって無駄だからね?僕のステレオ能力────『馘首・慈悔相』は《自裁》を立体化した能力でねぇ?君の“後悔と自責の念”を糧に幽気を増し、対象者を自らの手で死に至らしめる…。コレがどういう事か…、分かるかな…?」
「…ベラベラ…喋りやがって…!ハァ…う…ぎぎ…くそ…ハァ…!!」
「つまり…もうハマってんだよ。君はね…?わざわざ自分で、一生懸命描いた陣で死に追いやられてんだよ。…馬鹿が。でも、まあイイんじゃない?もう要らないでしょう?そんな命。」
くそ…くそ…くそ…くそくそ…。
笑えるほど…ムカつく…腹が立つ…。
何よりも、自分にだ…。簡単過ぎたんだ…。甘ったるい誘惑に負けた…こんな上手くいくはずがなかったんだ。
アイツはわざわざ、能力のネタバラシまでしたってのに…それに心が対抗できない…。
『おれがこんなやつのために、自分で自分の首を絞めた』
という事実に、激しい自己嫌悪に陥る…。
くそ…クソッッ!!
別のことを考えなきゃ…いけないのに…!!
「そういえば何故、僕が君を狙ったのか…気になるだろう?モヤモヤを抱えて死ぬのは辛いだろうからね。教えてあげるよ。」
「ほぉ〜、…聞きたいですな…ソイツは是非とも…」
これはチャンスだ…!
こんなヤツのためとはいえ…聞き上手になってやる…!後悔に集中するな…!!
「冥土の土産とやらだ、教えてあげるよ。僕が仕えている主は、“憤怒”のコンプレックス。…─名を、バズーカ様といってね…。とても儚げで…、美しい聖母のような貴女だ…。それでだ、君の中にいる“ヤツ”が彼女の怒りを買ってしまってね。まあ…お怒りになられた姿も、『惨め』で…『憐れ』で…、愛おしい存在だ…。…おっと、フフフ…失礼。それで…彼女の害になる輩は僕が、始末しようと…。今に至るわけさ?こんなに、早く見つけれたのは幸運だったがね。」
“憤怒”のコンプレックス…
名前…『バズーカ』………。
“バズーカ”…って、ぜってぇヤベえヤツじゃん…。
攻撃的すぎるだろ!!名前!!!
この部下のメガネもメガネだ…!!歪んでやがる…!!コイツと出会ったのも恐らく偶然じゃない…必然だ…!!
何らかの方法で世界休めの封印が解けたのを察知した…?
コイツはかなりそのバズーカってのに心酔してんな…。
世界休め…お前、なにやったんだよ…?
「君がまだ“流霊”で良かった…。思いっ切り、嬲り殺せる。バズーカ様にも見せてあげたかった…。」
「なるほど…、お前のことは、かーなーり…理解してきた…!とっても…良い部下を持って鼻が高いだろうよ…バズーカ様ってのはな…!…ぐう…ハァハァ…。」
「君の様な分際が、バズーカ様を語るんじゃない…。そろそろ、くたばったらどうだい?君はね、望まれちゃあいない存在なんだよ。」
「ぐ…うう…ハァハァ…!…確かにお前の言う通り…もう、限界…か…。」
なんてな…
まだ、『我が身可愛さ』が頑張ってんだ…!本体が諦めてどうする…!!
皮肉なことに、コイツと会話してて新しいワードや、イかれてる話を聞くたんびに…段々と、おれの中の罪悪感が麻痺してきたぞ…!!
右手が…ジワジワ、弱ってるのを感じる…!!
おれの幽気が尽きるのが先か…、
……─コレール、っていったか…?
コイツの儀式が先に終わるか…!!
これは…力の戦いじゃない…!根性が先に尽きたほうが…負ける…。
負けてたまるか…こんなカス野郎に…!!
待ってろ、そのメガネ…叩き割ってやるから…──
────ゴォオオオオオオ……
「なんだ…?この音…。───ッッ!!!…これはッ…“風”の音だ…!!!まさか、まさか……!!!」
この…“風を斬る音”…。間違いない…!!
『鉄風』…!!!
…………風月………!!!
……!!
……?
その風の影は、
何故かおれの目の前に降ってきた…。
────ザッ… ジャリ…
「遅かったじゃないか」
【…誠に、申し訳ない。】
「…は?…は?…な、なんだこの…、
で、でっかい…鳥…人間…は……。」
「紹介しよう。彼は、ヒューク──。“僕に仕える”、コンプレックスだよ。」
【成程──貴様が世界休めの器か…。】
おれの中の、心が砕ける音が聴こえた気がした…。




