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⑰ 謎の学者さん!?




 この街に来てから4日経った。

 おれのタイムリミットは残り15日。

 さて、どうなることやら、おれの命。

 この4日間、おれを養子にする計画は200連敗を達した。

 だんだん、挫けそうになってきたぞ…。

 やはり慣れてきたとはいえ、「要りません」って言われるとやっぱり心に来るものがあるんだよな〜。

 たとえ、子どもであろうと“流霊”というだけで、差別的な目で見られてしまう。

 見た目は、ほとんど固霊となんら変わりないってのにさ〜…。

 萎えてくるね。

 でも、顔は嫌々ながらも手を引っ張って「付いてこい」

 って何件も何件も周ってくれる風月が段々と女神様に見えてきた…。

 どういう心境なのだろうか一体。


「200件全滅か…取り敢えず、次はあっちの集落を訪ねてみるか…。」

「まっ…待ってよ〜風月〜…。すげ〜体力だな…。」

「お前に死なれては物凄く困る。それだけだ、早くしろ。」


 風月は、せこせこと次の民家にターゲットを定めていた。

 おれたち3人は、結構、大きな『昔ながら』

 って感じの民家に来た。綺麗な庭だ…池まであるぞ…?

 あの世にもこういう系の家ってあるんだな…。

 よ、よし…!

 201件目か…こっからが正念場だな…!

 取り敢えず、ツインテールをちゃんと整えて…と!

 よし、今日もおれ、カワイイぞ…!!

 イケるイケる!!自信を持て!茅蒔!

 風月は丁寧にドアをノックすると、中から何かが崩れる騒々しい音を立てながら、ひとりの霊が出てきた。


「あ…ははは…。スミマセンね〜、バタバタしてて〜…。ん?見ない顔ですね、…どちらさま?」

「始めまして…(わたくし)、五占巫教会から来た明日檜(あすなろ)風月(ふうげつ)という巫女なのですが。この、“流霊”の子のことについて…。今、御時間宜しいでしょうか?」

「おお〜…珍しいお客様だ。大丈夫ですよ〜…ちょっと散らかってますが…、、。さ!入って入って!あ!そこ、ホコリっぽいから!気をつけて!」

「…有難うございます。では、お邪魔させていただきます。」


 中からはさっきのドタバタのせいか、

 メガネが斜めにズレたちょっと鈍くさそうな若いニーチャンが出てきた。

 髪もチュルチュルしてて目は開いてるか分からないくらい細い。

 ダラ〜っとしたような笑顔。

 まあ、敵意は無いか…。

 さーて、こっからどうなるか…だ!


 んで…相変わらずの…

 ()()()()()()風月の言葉遣い。

 少しだけ心の中で笑いながら、おれたちは家の中にお邪魔した。

 なにやら古そうな少しカビ臭い本が大量に散乱している…。

 まるで知識の墓場だな…。

 それらを巧みに踏まぬよう避けながら、おれらは2階の部屋へと案内された。


「あー、座布団、座布団……。ええと、その辺の広いトコロに適当に腰掛けてください。あ…そこは『呪い』が解けてないからダメだ……こっちで!」

「お気遣いなく…では、失礼します。」

「ちょ~おど、作業が一段落してゆっくりしようとしていたところなんですよ!さてと、換気換気…っと!」


 独特な雰囲気の兄ちゃんだ。家で仕事してんのかな?

 にしても流霊差別の視線を一切向けず、

 それどころか家にまであげてくれる人なんてはじめてだな…。

 ずっとここんところ、張り詰めてた風月の警戒心がわずかに解けるのが伝わってくる…。

 今まで散々だったからなぁ。


「あ〜そうだそうだ、名乗りますね…。僕は左備(さび)といいます。あ、ちなみに独身です!お仕事は〜…まあ、カッコよくいえば学者ですね〜。どう?スゴいでしょう!…あ、失礼…。そして、君は…?」

「始めまして…茅蒔といいます。死んでから1か月とちょい…です。」

「なるほどなるほど…大体の見当はつきました。“流霊”さんですか…。いい目をしてる。…でもね、巫女さん。僕みたいな『過去を食う人間』のところに、こんな『未来を欲しがってる子』を置くのは、酷ってもんですよ。」


 独身かぁ〜〜…。ま、いいけど…。

 うーん、またこのパターンか。

 やっぱ、得体の知れないガキは普通は要らないか…。



「……。茅蒔は…見ての通り、非常に筋の良い子です。…決して、損はさせません。」

「ふ~む…。独り身とはいえなぁ…責任もあるし…。

……おや?茅蒔くん…その…背負ってるモノは…?」


 左備さんは、おれがこの世に来てからずっと持っていた世界休めを封印した護衛用の剣を見て、そう尋ねた。


「あ、このボロボロの剣…?これどうしたの…?やっぱヤバいヤツ?」


 おれは剣を背中から外し、左備さんによく見せるように掲げた。


「ちょっといいかい…?…こ、これは……な、なぜこんな子どもが……」

「その“剣”が…この子よりも、そんなに気になりますか?」


 明らかに目付きが変わる左備さんを尻目に、水月ねーちゃんは

 「オイオイ!なにそんなもんに興味を奪われてんだコラ!?」

 って言いたそうな目をしていた。

 自惚れかもしれないけど、うん、絶対してた。

 確かにちょっと複雑な気分だ…。

 にしても、やっぱホントにヤバい代物だったのか…?


「これは…とても貴重な代物だ…僕はね…歴史や遺物を回収して、意味を再定義する仕事をしてるんです。ま、早い話が『ガラクタの通訳』ですよ…。しかしコレは…その“ガラクタ”の中でも最上級のモノだ…。」

「な、なんなのさ…“その剣”って…。」

「この剣は…貴方達が所属する教会に君臨する、選ばれし五人の巫女…

五占巫(ごせんふ)の内のひとりが愛用していた一振りです…。数千年も前にね…!」

「……!!…話が急に飛んだな…。」

「そ…そこまで分かるのですね…。」


 長々な解説が終わると左備さんは両手で丁寧に剣を返してくれた。

 う〜ん…

 なんか、おれだけ置いてけぼりにされた疎外感だちくしょ〜…。

 みんなあの剣に興味津々になっちゃってまあ、

 かわいそう…おれ。


 というか、五占巫っていうその凄い巫女のひとりって…

 まさか、世界休めが言ってた…

 『とある巫女』のことだよな…。

 このメガネ…なにか、

 トンデモないことを知っている…?

 俺の“中身”気付いてる…?

 やっぱ、ヘラヘラしてても学者か…。

 う〜ん、

 でももう養子どころの空気というか話でも無くなってきたな…


「茅蒔くん。あなたを、ひとりの“霊”として、“お願い”があります。」

「──んえ?」

「この街をずっと西にいけば、灯台のある丘があります。一目で分かるほど立派な灯台です。僕にとってはパワースポットでもあるので…。そして、今日の日が沈む夕刻…、─そこに、茅蒔くん。君が、ひとりで来てほしいのです。私の『ステレオ能力』は、そうでなければ真価を発揮できない…。」

「…ち、茅蒔くんひとりで…ですか…?」

「見送りも駄目なのですか?」


 左備さんは、なにかトンデモないことに気付いた様な重い空気で語り始めた。

 ふたりはおれを、心配してくれている…。

 う、嬉しいけど…でも、ひとりで来いってか…。

 まだ、この人会ったばかりだけど…

 なに言われんだろ…?

 そんで、能力を使える人間ってのは分かった…。

 う〜んなんだろ、過去を知れる系?

 …なんかそんな感じの能力なのかな…?

 ルールがあるみたいだな…、でもおれは、今は自分の命が大事であって…

 その、伝説みたいな巫女さんのことについては、

 正直どうでもいいというか…


「そういう“掟”なのです…。しかし、コレだけは伝えることができます。──茅蒔くんが…!“固霊”に成れる方法でも…あるということです…!!!」

「…なっ!!!ま、マジ…?」

「いち、学者として─いや…男に二言はありません。」

「固霊化の条件にそんな…イレギュラーが…」


 ま、ま、ま…マジか……?

 201件目にして…やっとやっと、希望が見えてきた…!?

 “固霊”ってちゃんと言ったよな…!?

 言ったよな!!人は見かけによらないな…。

 ま、まさかこんなメガネの兄ちゃんが希望になるとは…!!

 風月も知り得ない情報か…さすが学者だ…。


「そうと分かれば、僕も準備をしなければ…。巫女様方…悪いのですが、先ほど僕が言った通り…今日のところは、茅蒔くんの側にはなるべく近付かないようにお願いします。お二人の強力な幽気が、デリケートな流霊の茅蒔くんの幽体に干渉してしまってはいけない…彼を固霊へ昇華させるためです。厳しいルールではあるのですが…。」

「わ、分かりました…。茅蒔くん…いいのかな…?これで…」

「うん…大丈夫…!!おれ…ビッグになって帰ってくるよ!!」

「ふふふ…ホントに良かった…!楽しみに待ってなきゃね…!」



 おれは、左備さんの荷物の準備を軽く手伝ったあと、ふたりと解散した。

 なんか、今日までずっとずっと一緒にいたから、急に引き剥がされたようで少しさみしいな…。

 でも!ナヨナヨしてられない!

 希望が湧いたんだ!

 男茅蒔!ちょっくら行くか…!!



 午後15時───、

 おれは左備さんの家から灯台へ歩いた。

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