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How-to世界休め!  作者: 道具屋
流霊奮闘編
13/41

⑬ 養子勧誘作戦について


 “孤独”のコンプレックスを浄化してから、はやくも三日が経った。野宿生活は虫が多いからこりごりだ…。

 おれはその道中、気になっていたことを二人に聞きまくってた。 風月と水月さんは五占巫(ごせんふ)教会という…えーと、役所…?みたいなところから来た巫女さんらしい。前も言ったけどコンプレックス退治、はたまたおれみたいな流霊の導き手を担っているらしい。


 そんでもって、かつて教会の高位にいながらその権威を剥奪されたという隠居占術師・幽眉笛(かすみぶえ)さんの存在のことなど…!セカキューの能力探しのヒントを貰いに現在向かっている途中!

 どうやら、話だけ聞くと物凄いらしいんだよね。なんでも、占術師っていうのは対コンプレックスにおいて重要なポジションだったとか。コンプレックスを形成する感情を“特定”できるスキルを持っているらしい。

 それがどう、戦いに役立つのかは想像しにくいけど、相手の出方や思考が読みやすいってことなのかな。だとしたら、確かに強いし素晴らしい才能だとも思った。ソレのスペシャリストが幽眉笛さんって人らしいんだけど、うーん…なんだか、会うの緊張してきたな…。おれ、今は半分コンプレックスみたいなものだからなぁ。


 話は戻る、流霊の寿命は四十九日。今日でちょうど三日が過ぎ、残された猶予は四十六日…。つまり、占い師さんのとこよりもまず!この目的を完遂しなければならない!!目的というのはおれの存在をこの世に固定させること!!!どーやら、“戸籍”がいるらしくて現在それをおれに与えてくれる人を大募集中というわけです…。

 はぁ…まるで夏休みの宿題を最終日に回してしまったような、あるいは死刑宣告の秒読みを聞いているような、何とも言えない感情がおれの胸をただただ焦らせる。だが、姉妹二人とともにやっとこさ、たどり着いたこの街の活気はそんな不安を一時、忘れさせるほどに眩しかった。


「着いたぞ。道中の街だが、休憩がてら住人にお前の養子の件を尋ねて周るか」

「ほうほう…!ここは今までのとこよりも栄えてるね〜!」

「幽眉笛さんの所まではまだあるけど、茅蒔くんの命が最優先だからね!」


 温泉の湯気、駄菓子屋の甘い匂い。初めて見る文明の景色に目を奪われる。目がキラキラしてしまう。

 アレはなにかな?コレはなにかな?

 フワフワした足取りで、あれよこれよと目移りが止まらない。

 その時、おれの視野が、ぐーんとあがった…!


「は〜い茅蒔く〜ん?あなたの目的は自分の命の確保! はやく優しい霊さんを見つけますよ〜?」

「あ…は〜い! って…!たかっっ!!」


 身長二百センチオーバーを誇る水月さんに軽々と抱きかかえられ、おれは上空から街を見渡す。

 すごいなぁ…これならカブトムシなんて取り放題だ。

 そんな中、風を浴びておれの緑色のツインテールが揺れている。水月さんによって「あざとく、か弱く」徹底的に“改造”されたおれの髪の毛。視野をチラチラ往復するものだから、たまにホンモノの虫と思ってビクッ、となってしまいすごく恥ずかしい時がある。


「茅蒔()()()?ウロチョロすんなよ?」

「“ちゃん”って…分かってるよっ!髪もキマってるし〜…良い子ちゃんにするよ!」

「ふふふ…ホントに似合ってるよ茅蒔くん!その髪型!」


 おれは正直、この“かわいい”ツインテール姿がちょっぴり恥ずかしくて堪らないのだが実際そうも言っていられない。覚悟も決め、養子にもらわれるためなら恥なんて捨ててやるといった感じだ。それに水月さんがおれのために、わざわざしてくれたことだしなにもいいません!


「遊んでんじゃねーぞ。よし、まずはあの裕福そうな爺さんから行くぞ。お前、自分のことは“わたし”って言え。 か弱く見せるんだ、いいな?」

「占い師より先に、詐欺師に会った気がする…」

「つべこべ言うな!後ろをトコトコついてこい」


 風月に半場強制的に養子先を決定させられるツインテールの少年、おれ。とんでもない作戦が始まってしまいそうだ…。その相手は優しさが顔に書いてあるようなほのぼのした雰囲気のおじいさん。

 なぜだかおれは、ものすごい罪悪感に駆られ始めてきた。そんな葛藤も無視して風月はズンズンとおじいさん目掛けて仕掛けていった。

 あー、もうどうなっても知らない…。


「あの、すみません。(わたくし)、五占巫教会から来た明日檜風月と申しますが、少しお話を宜しいでしょうか?」

「んっ? おっ、これは巫女さまですか。いつもお勤めご苦労様です…!」

「身に余るお言葉です。市民の皆様の協力あってのことですので……」


 よ…よそ行き用の顔だ……。

 おれは初めて見る風月の柔らかい作り笑いに、思わず「うわ…」という感情が表情に出てしまう。

 「キッ!」っと風月に睨まれると、わざとらしく風月の後ろでモジモジした。これが、中々難しい。難しいというか、ちょっと抵抗的なアレが…。


「それで、お話というのは?」

「はい。実はこの子、名を茅蒔(ちまき)といいまして。流霊として彷徨い…飢えを自身の悲し涙で凌いでいたところを我々が保護しました。…もし宜しければ、この子を…養子として迎え入れてあげてもらえないでしょうか? …ほら、茅蒔ちゃん。挨拶は?」


 余りにも過酷で残酷すぎるであろう即席の設定に、困惑顔になる当の本人、おれ。それに、保護どころか抹殺しかけてきたなんて口が裂けても言えない。

 そんなシナリオライター様は、見たことのない作り涙を流しながら訴えている。そこまでするか…。で、でもこれも全部、おれのためにやってくれているのだと思うと、なんだか風月に対して感謝…というか尊敬の気持ちまでがヘンに湧いてきた。

 よし──もう訂正はできない。

 おれは勇気を出して、その一歩を、第一声を出した。

 

「は…始めまして、わたし…茅蒔です。 よろしくお願い…します…!」


 おれは、しどろもどろに自己紹介をした。

 ちょっと、モゴモゴしちゃったけど…これもこれでいいのかも?

 そんなことを思っていた。途端────


「要らんッッッ!!!流霊じゃと!?…穢らわしい!疫病神じゃ!さっさと祓わんかッッッ!!!」


「…えっ……」


 一瞬、思考が止まる。

 予想外、いや、これが当たり前なのかもしれない。そうなんだろうけど、そうなんだろうけど…さすがに…ちょっと、きつい…。

 あの日の風月の「抹殺宣言」とはまた違うタイプの拒絶。精神的に、責め立ててくる攻撃。

 おれは、身体も心もこわばって動けなくなってしまった。


「この街の空気を汚しおって!飢えて泣いてた?当たり前じゃっっ!食わす飯などあるかッッッ! …巫女ともあろう清い存在が…こんな病原菌のような……───


 だめだ、心が壊れる。

 おれは、ブルブルと、痙攣に近い現象に陥る。

 その時だ。

 

「──……それ以上喋ると、斬るぞ」

 

 ………!!

 震えてもう、泣き出す一歩手前のおれの前に、愛想笑いの仮面を外した()()()()巫女が現れた。

 即座に抜いたであろう脇差の切っ先が老人の喉元を捉えていた。

 一瞬で。


「な、……なんてことを……!」

「“なんてことを”だと?  …()()()()()()()をしてるんだぜ? 言葉の遣い方には気をつけるんだな」

「……ふうげつ……」


 目の前には“明日檜(あすなろ)風月(ふうげつ)”がいた。

 この一カ月の間、ずうっと聞いてきた荒い言葉、野蛮な行動、高飛車な性格。今の風月は巫女として、世界で一番間違ってるのかもしれない。

 でも、おれの目には…世界で一番かっこいい巫女に見えていた。

 その後、老人は文句を逃げるように吐き散らしながら街の奥へと消えていった。おれはただポカンと風月の後ろ姿に見惚れていた。


「茅蒔くん?気にしなくて大丈夫だからね…? よしよし…怖かったね」

「水月、お前もうちょっとその“圧”を抑えろ。 …相変わらず不器用なやつだな」

「───ごめん。お姉ちゃんが行かなかったら……“手”…出てたかも……」

「水月さん!!?」


 水月さんが、震えるおれの頭を優しく撫でてくれている。

 その右手は女神様のように優しい。しかし、反対の左手は凄まじい力で握りしめられてる。幽気がそこに凝縮して、周りの風景がゆらゆら歪んでいる…。おれはその“景色”に仰天唖然としてしまう。

 けど…だけど、自分には絶対に向けられないであろうこの怒りが、変な話だけど、おれには堪らなく心地がよかった。


「…まぁなんだ、茅蒔。 流霊は昔から蔑みの対象でな。古い馬鹿共の戯言だ、クズ共のためにお前の大事な心を遣うな。 気にすんな、それに…お前には最強の疫病神が憑いてるだろ?」

「ほんと口悪いなぁ〜… 疫病神って…セカキュー…なんかごめん。でも一応、“神”だし…まあいいのかな?」


 いつもの汚い言葉遣いでおれに語りかける風月。しかし、その巫女さんとは思えない無遠慮な言葉がなぜだか、おれを心底安心させる。


「水月さんも風月もありがとう…!おれさ、なんか逆に元気出たっっ!!」

「…おう」


 風月は頭をポリポリしながらぶっきらぼうに一言。しかし髪に隠れた耳の先が少しだけ赤くなっていた。

 これが明日檜風月という巫女なんだと、おれは今日というこの日、思い知った。今まで知らなかったけど、すごくかっこいい一面もあるんだね。


「はぁ〜…よし! この調子でどんどん尋ねて周るか」

「こ、“この調子”って……いつか死者が出るんじゃ……」

「茅蒔くん! 絶対に良い人がいるからね!がんばろう!」

「う、うん……!!」


 もう、どんな酷い言葉をかけられても平気かもしれない。

 二人の存在はこの日、改めて色濃くおれの心に刻み込まれた。


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