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概念少女の庶民学(コモン・センス)~「概念は知っています」が口癖の箱入り令嬢と、牛丼の食べ方について議論する~  作者: 上山マヤ
一年生編

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16/50

第16話:回転寿司の『ポテト』は、寿司ネタとしてカウントしてもいいのですか?

 雨上がりの夕食時。

 俺たちは人気チェーン店『サムライ寿司』のボックス席に座っていた。


「……カケル。ここは本当に寿司屋ですか? 近未来の管制室コントロールルームではありませんか?」


 アリスが戦慄の眼差しで見つめる先には、横長の巨大な液晶パネルがあった。


「俺も驚いた。しばらく来ないうちに、こんな進化をしてたなんて……」


 かつての回転寿司は、職人が握った皿が物理的に回っていた。

 だが、衛生面の問題や迷惑動画などのトラブルを経て、業界は進化した。

 注文はタブレットで行い、特急レーンで届く……というのが俺の知る最新型だったのだが。


 もう一つ先の時代へと進んでいたようだった。


「見てくださいカケル! マグロが泳いでいます! デジタル空間を!」


 目の前の液晶画面には、川のように流れる3D映像のレーンが表示され、そこにリアルなCGの寿司皿が流れているのだ。


「すげえなこれ。しかもタッチパネルになってて……」


 俺が画面上を流れてきた『マヨコーン軍艦』の画像を指でタッチする。

 すると『注文を受け付けました』という電子音と共に、厨房へのオーダーが飛んだ。


「流れる寿司を指で捕獲キャプチャする……。狩猟本能を刺激するUI設計です。サイバーパンクの世界に迷い込んだようです」


(サイバーパンクは知ってるのな)


「泳いでないのはタブレットからも注文できるみたいだぞ」


 俺たちはとりあえず、お茶(粉末緑茶)を準備し、戦闘態勢に入った。


 ◇ ◇ ◇


「まずは王道を攻めます」


 アリスが注文したのは、こはだ、真鯛、アジなどの正統派だ。

 特急レーンで運ばれてきた寿司を、彼女は優雅に(箸で)食す。


「……悪くありません。ロボットが握ったシャリでしょうが、空気の含み具合が均一です。ネタの解凍技術も高い」

「だろ? でもなアリス、回転寿司の醍醐味はそこじゃない」


 俺はニヤリと笑い、自分の注文品を並べた。

 『ハンバーグ』『ミートボール』『牛カルビ』『天ぷら寿司』。


「……カケル。邪道です。それは寿司ではありません。シャリの上に乗った『おかず』です」

「邪道こそが回転寿司の華なんだよ! 子供舌と言われようが、酢飯と肉の相性は抜群なんだ!」

「認めません。お魚への冒涜です」


 アリスは冷ややかな目で俺のハンバーグ寿司を見ていたが、俺が次に取った皿を見て眉をひそめた。


「……それは?」

「『サーモンチーズ』だ。サーモンの上にチーズを乗せて炙り、マヨネーズをかけた傑作だ」

「信じられません。生魚に乳製品チーズ? その上、加熱(炙り)までするなんて……素材の味を殺す気ですか?」

「騙されたと思って食ってみろ。イタリアンと和の融合フュージョンだぞ」


 俺が無理やり一貫勧めると、アリスは「毒味ですね」と渋々口に運んだ。

 モグモグと咀嚼し、動きが止まる。


「……!」

「どうだ?」

「……計算外です。炙られた脂の香ばしさとチーズのコクが、酢飯の酸味で中和されています。これは寿司ではありませんが……料理として完成度が高い」

「だろ?」

「悔しいですが、採用します」


 アリスは素早くタッチパネルを操作し、サーモンチーズを追加注文した。

 陥落オチるのが早い。


「なら、俺の最強のオススメもいけるか?」


 俺は真打ち登場とばかりに、ある皿を手に取った。

 『味玉軍艦』だ。

 海苔で巻かれた軍艦の上に、半分に切った味付け煮卵が鎮座している。そして、その卵の下にはたっぷりとマヨネーズが隠されているのだ。


「……煮卵? ラーメンの具材では?」

「食べてみろ。マヨネーズと煮卵のハーモニーが、脳髄を直撃するぞ」

「カケル……貴方は重度のマヨネーズ中毒者(マヨラー)ですね」


(マヨラーは知ってるのな)


 アリスは呆れながらも、味玉軍艦を口にした。

 そして、目を見開いた。


「……濃厚リッチ。卵黄のコクとマヨネーズの酸味が、暴力的なまでに舌を蹂躙します。……高カロリーな味がします」

「いけるだろ?」

「背徳の味ですね……。九条院家の食卓では絶対に出ない味です」


 アリスは「もう一皿」と手を伸ばした。どうやらジャンクフードの沼にハマりつつあるようだ。


 ◇ ◇ ◇


 食事が進むにつれ、空き皿が積み重なっていく。


「アリス、皿はここに入れるんだ」


 俺はテーブルの端にある『皿回収ポケット』を指差した。


「ここに皿を5枚入れるごとに、液晶画面で抽選ゲームが始まるんだ。『サムライ・チャンス』っていうんだけどな」

抽選ロトですか? 景品は?」

「割引クーポンとか缶バッジとかだが……今の期間の特賞はこれみたいだな」


 俺は卓上のPOP広告を指差した。

 『今月の目玉! サムライ人形〜フィギュアスケートver〜』


 ちょんまげを結った侍が、煌びやかな衣装を着て、片足でスピンしているシュールすぎるフィギュアだ。


「……何ですか、この前衛芸術アバンギャルドは」

「意味わかんねえよな。毎月変わるんだけど、今月はなぜかスケートらしい」

「……欲しいです」

「へ?」


 アリスが真剣な瞳で、スケート侍を見つめていた。


「この武士道と氷上の舞踏を融合させた矛盾パラドクス。現代アートとして評価に値します。部屋に飾りたいです」

「マジかよ……アリスの感性って、たまにバグるよな」


 というわけで、俺たちの目的は「食事」から「サムライ狩り」へとシフトした。


「あと二枚で五の倍数です! カケル、食べてください!」

「もう限界だよ! アリスが食えよ!」

「私はデザートの大学芋を攻略中です! サイドメニューは皿カウントに含まれないのですか!?」

「サイドメニューとか丼もの、麺類は対象外だ! 寿司を食え寿司を!」


 俺たちは限界の胃袋に鞭打って、皿をスロットに投入し続けた。

 液晶画面で、サムライがトリプルアクセルに挑戦するアニメーションが流れる。

 『失敗!』『失敗!』『失敗!』。


「くっ……回転不足アンダーローテーションです!」

「もう無理だ……吐く……」


 そして、二十五皿目。五回目の挑戦。

 サムライが見事な4回転ジャンプを決め、着氷した。


『大当たり!』


 ゴトン、と頭上の棚からカプセルが転がり落ちてきた。


「やりました! 金メダルです!」


 アリスはカプセルを開け、出てきた『フィギュアスケート侍(金ピカ仕様)』を掲げて歓喜した。

 周りの客が羨ましそうにしていた。

 俺が知らないだけで以外と人気があるのか?


 ◇ ◇ ◇


 店を出た俺たちは、重たい腹を抱えて駅へと向かった。


「……苦しい。兵站ロジスティクスの過剰供給です」

「だから言っただろ……。でもまあ、取れてよかったな」


 アリスは鞄につけたサムライ人形を、愛おしそうに撫でていた。


「はい。カケルとの共闘の証(トロフィー)として、大切にします」

「黒服に見つかって『なんですかそのゴミは』って捨てられないようにしろよ」

「大丈夫です。人間国宝の作品だと偽れば、彼らは納得しますから」


 アリスは悪戯っぽく微笑んだ。

 その笑顔を見て、俺は思った。

 

 高級寿司もいいだろうけど。

 こうやって馬鹿みたいに腹一杯食べて、変な人形で笑い合える回転寿司も、悪くないんじゃないかと。


 まあ、しばらくマヨネーズはいいや。

次回 第17話:SNSのフォロー欄は、その人の性癖を映す鏡ですか?

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