表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
聖環  作者: 北寄 貝


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

87/110

海戦 - 6

語り:ミレイユ・カロ

 最初の接触が起きたのは、私たちの船から二百メートルほど離れた空域だった。

 声は届かない。

 甲板の音も、羽ばたきの音も聞こえない。

 それでも、空の動きだけははっきりと見えていた。

 鵺が、風を蹴って突っ込む。

 褐色の影の一つが、その進路上にあった。

 一瞬、影の形が崩れた。

 翼の動きが揃わなくなり、高度が落ちる。

「……効いたか?」

 ダリウスが、低く言った。

 だが、落ちない。

 代わりに、別の影が動く。

 褐色の翼が、こちらへ向かってくる。

 一直線ではない。

 波打つような、不規則な軌道。

「来るぞ!」

 ダリウスが言うより早く、私は理解していた。

 あれは、私たちを見ている。

 鵺が、急に進路を変えた。

 遠くの戦場から離れ、こちらへ戻ってくる。

 その瞬間だった。

 こちらへ向かっていたハーピーが、進路を変える。

 逃げるのではない。

 横へ、ずらす。

「……引いた?」

 ダリウスが、首をかしげる。

 だが、違う。

 別の方向から、もう一匹が降りてきた。

 今度は、より低く。

 甲板の高さに近い。

「二匹……いや、交代か。」

 鵺が間に合う。

 その影が割り込んだ瞬間、狙っていたハーピーは、また進路を変えた。

 そして――

 別の影が、鵺の背後から落ちてくる。

 急降下。

 鉤爪が、鵺の体に掠ったのが見えた。

 鵺の動きが、一瞬だけ乱れる。

「くっ……」

 セラが小さい悲鳴を漏らす。

 ダリウスの声が、少しだけ強くなる。

「大丈夫か、セラ?」

 鵺は体勢を立て直す。

 だが、また別の褐色の影が、こちらへ向かう。

 同じだ。

 誰かが来る。

 鵺が戻る。

 すると、その個体は引く。

 代わりに、別の個体が、別の角度から来る。

 そして、鵺がそれを邪魔しようとすると、

 必ず、別の影が背後や側面から近づく。

「……おかしい。」

 ダリウスが、ぽつりと言った。

「来てるのに、決めに来ない。」

 また一匹が、甲板すれすれまで近づく。

 クラリスが、思わず一歩下がる。

 鵺が、ほとんど反射的に割り込む。

 その瞬間、別の影が、斜め上から突っ込んだ。

 今度は、はっきりと、鵺の進路が押し戻された。

「毎回だな。」

 ダリウスが、息を吐く。

「鵺が前に出るたび、必ず別のやつが、別の角度で来る。」

 距離が、縮んでいる。

 もう二百メートルもない。

 百五十……百……。

 影の動きが、はっきり分かる。

「……まさかとは思うが」

 ダリウスが、ゆっくりと言葉を選ぶ。

「偶然じゃ、説明つかない。」

 また同じ動き。

 また同じタイミング。

「……役割、分けてるな。」

 私は、ようやく腑に落ちた。

 これは追い込みではない。

 拘束だ。

 狙われているのは、鵺ではない。

 私たちだ。

 鵺は、それを守るために動かされている。

「一匹なら、鵺が勝つ。

 だから、数で縛ってる。」

 空を見上げる。

 金色の翼は、まだ動かない。

 ただ、すべてを見ている。

 この戦いは、測られている。

 どこまで守るか。

 どこまで耐えるか。

 そして――

 どこで、踏み込むか。

 セラは、もう気づいているはずだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ