海戦 - 5
語り:ミレイユ・カロ
空を旋回する影に、セラも気づいているようだった。
視線が、わずかに上を追っている。
私は、確信に近いものを抱えながら、声を出した。
「あのハーピーは……」
言い切る前に、セラが小さく頷いた。
「ええ。間違いないわね。」
それだけで通じてしまう。
説明は不要だった。
その間にも、人は倒れていく。
こちらの船でも、ダリウス達が制圧した帝国船でも同じだ。
誰かが膝をつき、誰かが甲板に伏し、そのまま動かなくなる。
少しして、私は気づいた。
見える範囲で、立っているのは――
セラ、ダリウス、私、そしてクラリスだけだった。
「大丈夫……?」
クラリスが、倒れた水夫の肩を揺すった。
水夫は、薄く目を開け、苦しそうに顔をしかめる。
「うう……ひでぇ……。
なんだこれ、船酔いが十倍に増えたみてぇだ……」
その言葉に、セラの表情が変わった。
「歌声のせいみたいね。」
彼女は、はっきりと言った。
「皆、歌と一緒に倒れている。」
私は、はっとした。
形こそ違えど、セラの聖環の力と同種の作用ではないかと。
私たちが立っていられる理由には心当たりがある。
だが今は、確かめる余裕がない。
「歌は、セラの聖環の力と似ているように思います。」
セラは一瞬だけ考え、すぐにダリウスを振り返った。
「ダリウス! 一度戻って!」
ダリウスは即座に応じ、こちらへ跳び移ってくる。
四人が、甲板の中央に集まった。
「倒れている皆さんですが、セラの眩暈の風を受けた時と、同じ状態に見えます。」
吐き気、平衡感覚の喪失、意識の沈下。
致死ではないが、戦闘不能にするには十分な症状。
(でも、歌が魔力を帯びているとすると……)
ふと、疑問が浮かぶ。
カテドラの森では、クラリスも一度はに船酔いのようになっていた。
それなのに、今回は平然としている。
何か理由はあるかもしれないが、今は考えるべきではない気がする。
そのとき、甲高い声が響いた。
遠くの船に、褐色の翼が四つ、降下する。
ハーピーたちだ。
甲板に舞い降りたハーピーたちは、まるで遊び場を見つけた子供のように騒ぎ始めた。
「ギャーッ!」
「キャキャッ!」
――笑っている。
確実に、楽しんでいる。
倒れている人間の姿は、こちらからはよく見えない。
だが、翼の影が跳ね、鉤爪が振り下ろされるたび、何が行われているか考える必要もなかった。
間違いない。
人が、殺されている。
「……惨い……」
クラリスが、震える声で呟いた。
その瞬間、セラが一歩前に出た。
右手を高く掲げ、叫ぶ。
「来い! 私の風!」
空気が唸る。
つむじ風とともに、鵺が現れた。
黒い影は甲板を蹴り、宙を駆ける。
暴れ回るハーピーたちへ――
一直線に。




