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聖環  作者: 北寄 貝


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風の目覚め - 2

語り:ダリウス・エルネスト

林の影が揺れた。

次の瞬間、革鎧の男たちが一斉に飛び出した。

陽の届かぬ木々の間から、数多の足音が押し寄せる。

槍、短弓、刃こぼれの剣。

装備は粗末だが、数が圧倒的だった。


「構え!」

声を張ると同時に弓を引く。

最前の一人の喉を射抜き、次の一人の肩を貫いた。

倒れた影を踏み越えて、次の波が押し寄せてくる。


隣で、風を裂く音がした。

セラだ。

腰の位置から腕をしならせるように振り抜き、放たれた石は敵の額に正確に当たった。

音もなく崩れる影。


俺は次の矢を放ち、もう一人を仕留めた。


セラは次の石を掴み、滑るような速さで再び放つ。

今度は頬を裂き、血飛沫が散った。


息を合わせたわけでもないのに、二人の攻撃は奇妙なまでに噛み合っていた。


二人が倒れ、敵の先頭列が一瞬乱れる。


「迎え撃て!」

護衛たちが盾を構え、林から出てきた敵に向かって突撃した。

怒号と金属音が混じり合う。

土煙が上がり、剣のきらめきがちらつく。


だが数が違いすぎた。

護衛たちが必死に防いでいる隙を突き、数人が列を抜けてセラめがけて走ってくる。


「セラ、下がれ!」

叫んだが、彼女は動かない。

スリングを握りしめ、残った石を投げ放つ。

先頭の男の額を撃ち抜く。


倒れた影の後ろから、別の男が剣を構えて迫る。


セラは後退せず、盾を左に構え、右足を半歩引いた。

スリングを地面に落とし、体術の構えに変わる。


もう数歩で刃が届く――

その瞬間、風が吠えた。


竜巻のようなつむじ風が、地面から突き上げるように生まれた。

土と木の葉を巻き上げ、敵も味方も、馬も馬車も、すべてを包み込む。


視界が白く弾け、耳の奥で何かが破れる音がした。

風の唸りが、叫び声も金属音も呑み込む。


そして――


世界がねじれた。


耳の奥が詰まり、地面が浮き上がる感覚。

肺の中の空気が押し出され、何も聞こえなくなる。


気づくと、俺は地面に伏していた。

頬に冷たい土の感触。

耳鳴りだけが残っている。


周囲を見ると、兵も敵も地に伏していた。

呻き声、吐息、嘔吐。

誰も立ち上がれない。


俺自身も体の奥がひっくり返るようなめまいに襲われていた。

船に酔ったときのような、内側からの揺れ。


ただ一人、セラだけが立っていた。


風に髪を揺らし、肩で息をしている。

右手の指輪が淡く光り、光の脈動に合わせて空気がわずかに波打つ。


「……何が起きた……?」

喉が焼けるようで、声にならなかった。


セラは倒れた襲撃者の一人に歩み寄り、低く問うた。

「誰の命令で来たのですか。」


男は答えず、唇を噛んだまま沈黙した。

セラはその場に立ち尽くし、指輪に視線を落とす。


光はまだ、わずかに脈を打っていた。


風は吹いていない。

だが、確かに世界のどこかが“震えて”いた。

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