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聖環  作者: 北寄 貝


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23/62

救助部隊

語り:ミレイユ・カロ

陽がじわりと明るくて、まぶしくて。

私は、地面に片手をついて上体を起こした。

短い時間、意識を落としていたらしい。

パープルヘイズとの戦いでの耳鳴りと眩暈が、まだ頭に残っていた。

気を張っていた糸が切れたせいで、一瞬だけ意識が遠のいたのだ。

耳鳴りがまだ残り、胸の奥がふわふわする。


けれど――

すぐ近くの人影を見て、私の心臓は跳ねた。

「……セラ様!」

セラはすぐそばで横になっていた。

私は慌てて抱き起こす。

そのまつ毛がぴくりと動き、目がうっすら開いた。

「……ミレイユ……おなか……減った……」

泣き笑いになりながら、私はセラの手を握った。

「良かった……気がついたんですね……!」

「まだ……生きてる……? わたし……」

「生きてます! もう……どれほど心配したか……!」


その時――

ガシャリ、と金属音が響いた。

私たちは反射的に振り向いた。

入り江の上に、馬と兵士の影。

四騎。

そのうち一人は、見覚えのある青年――ダリウス隊のウィルだった。

周囲に転がる死体の数を目にした瞬間、ウィルたちの顔が一斉に強張る。

「……ここで……何が……」

あたりには、30人近い人の亡骸と、裂かれた蝙蝠の死骸が散乱している。

それは、外から来た者が絶句して当然の光景だった。

「セラ様! ミレイユ殿!」

ウィルが真っ先に駆け寄る。

重傷を負ったとは思えないほど力強い足取りだ。

「本当に……よかった……!」

その顔に痛みはまったくなかった。

胸がずきりと痛む。

私は無意識に、ウィルの腕に触れていた。

「ウィルさん……本当に……ごめんなさい……

私のせいで……あの時、傷を……!」

「いいえ。ミレイユ殿のせいではありません」

ウィルは柔らかく微笑んだ。

その目が少し、光の奥で熱を帯びていた。

「教会の魔法具が治してくれました。

 骨も傷も、跡形もなく。奇跡です。

 ルーメン教の加護あってこそ……私は再び剣を取れます」

言葉の端々に、妙な熱がある。

「教会は……本当にすばらしいのです」

と言うその声音には、痛みの記憶さえ上書きされたような静かな熱があった。

心から信じ切っている人の語りだ――

いや、それ以上の。


「二人、馬を降りろ。セラ様とミレイユ殿をお乗せする!」

別の兵が動き、二頭の馬を差し出す。

一人は「発見を報告してきます」と街へ駆けていった。


しばらく無言で進む隊列の中、ふと横を見ると――

セラが、兵士から渡されたらしい干し肉をいつの間にか手にして、もそもそと噛んでいた。

「……しょっぱい……でも……おいしい……」

そののんきな声に、張りつめていた胸の力がすこしだけ抜けた。


道中、兵たちはほとんど口を開かなかった。

馬の歩調は崩れず、兵たちの視線は前だけを向いたまま。

まるで私たちの存在を“見ないようにしている”みたいだった。

助けに来てくれたはずなのに。

道に迷っていた少女を保護した、という空気でもない。

誰もこちらに話しかけず、馬の蹄音だけが妙に冷たく響く。

(……なんで、誰も何も言わないの……?

怒っているわけでも、安堵しているわけでもない……

ただ、“任務”として私たちを運んでいるみたい……)

その沈黙が、少しずつ怖さに変わっていった。


街が近づく。

市場の喧騒、焼いた肉の匂い、人々の呼び声――

本来なら安心できるはずの音が、今日はどこか遠くに感じた。


見慣れない道を通り、私たちが連れていかれた先は、大聖堂の正門でも、ヴァルメイン家の屋敷でもなかった。


「……ここ……?」


街外れ。

高い石壁に囲まれた、人気のほとんどない区域。

古い教会施設のような――

だが何に使われているのかわからない建物。

扉の前には、武装した兵がずらりと並んでいる。

私は、胸がきゅうと縮むのを感じた。


(どうして……こんな場所に……?

 まだ終わらないの……?)


安堵より先に、不安の影が静かに広がっていった。


(……これ、本当に“救助”なの……?)

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