再考
語り:ダリウス・エルネスト
監視塔の中は、静かだった。
外では風が鳴っている。石壁をなぞるように吹き抜けるそれが、低く唸るように響いていた。
俺は口を開いた。
「……あまり期待はしていない。」
セラがこちらを見た。
「奇遇ね。私もよ。」
短い言葉だったが、完全に同意しているのが分かった。
ヨークの作戦は理解できる。アルヴェイン家の人間を最小限の手勢で監視塔へ誘い出し、その道中で奇襲して捕らえる。
主導権を握るための手としては、筋は通っている。
だが。
「前提が多すぎる。」
俺は言った。
「来る人数、来る人間、経路、タイミング……全部が外にある。
その上で、ヨークがどう動くかも分からない。
これで当てにするのは危うい。」
セラは小さく息を吐いた。
「ミレイユを連れていった理由も分かるわ。
私達に戦う気がないという話に信憑性を持たせて、相手の兵数を減らす。
悪くはない。
でも、ミレイユには酷な役目よね。」
「同感だ。」
最初から、うまくいくとは思っていなかった。
それでも受け入れたのは、他に手がなかったからだ。
ここで大軍に囲まれるのは避けたいし、セラの目的は戦うことではない。
レオンが意固地になれば、話はそれで終わる。
「だから一度は乗った。」
「ええ。でも……」
セラは俺をまっすぐ見た。
「やっぱり、うまくいく気がしない。」
俺はわずかに口元を緩めた。
「珍しく意見が合うな。」
「いつも合ってるわよ。」
即答だった。
俺は軽く肩をすくめる。
「問題は、“一つに賭けている”ことだ。
ヨークの案は、奇襲が成立する前提で組まれている。
崩れた瞬間、打ち手がない。」
セラはゆっくりと頷いた。
「一本道ね。」
「ああ。だから変える。」
俺は言った。
「作戦の根本は維持する。
戦いの場はここではない。
奇襲する。それは変えない。」
セラは黙って聞いている。
「だが、その上で選択肢を持たせる。
奇襲が成立するならそのまま叩く。
成立しないなら、別の形で主導を握る。」
「……分岐させるのね。」
「そうだ。現場の状況に合わせて、打ち手を変える。」
俺は視線を床へ落とした。
そこにあるのは、ヨークが見つけた魔法具だ。
「その軸になるのが、これだ。」
セラもそれを見た。
「ええ。」
静かに言う。
「結局、そこに戻るのね。」
「最初から、そこが肝だ。」
俺は答えた。
「ヨークの案でも同じだ。
奇襲が成立するかどうかは別として、この魔法具をどう使うかで結果が変わる。」
セラは腕を組み、少しだけ考え込む。
「……つまり」
視線を上げる。
「奇襲が成功するなら、そのまま押さえる。
失敗するなら、この魔法具を使って主導権を奪い返す。」
「そういうことだ。」
短く返す。
「相手がどう出ても、こちらが後手に回らない形にする。」
セラは目を細めた。
「贅沢な話ね。」
「そうでもない。」
俺は首を振る。
「不確定を減らすだけだ。
何も持たずに待つのと、“使える札”を持って待つのでは意味が違う。」
しばらく、沈黙が落ちた。
外の風が強くなり、塔の中に低い音が響く。
やがて、セラが口を開いた。
「……いいわ。」
迷いはなかった。
「その方が、まだましね。」
俺は頷く。
「ヨークがどう動くかは分からない。
だが、それに依存しない形にする。」
「ええ。」
セラも同意する。
その目は、もう揺れていなかった。




