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聖環  作者: 北寄 貝


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145/146

再考

語り:ダリウス・エルネスト

 監視塔の中は、静かだった。

 外では風が鳴っている。石壁をなぞるように吹き抜けるそれが、低く唸るように響いていた。

 俺は口を開いた。

「……あまり期待はしていない。」

 セラがこちらを見た。

「奇遇ね。私もよ。」

 短い言葉だったが、完全に同意しているのが分かった。

 ヨークの作戦は理解できる。アルヴェイン家の人間を最小限の手勢で監視塔へ誘い出し、その道中で奇襲して捕らえる。

 主導権を握るための手としては、筋は通っている。

 だが。

「前提が多すぎる。」

 俺は言った。

「来る人数、来る人間、経路、タイミング……全部が外にある。

 その上で、ヨークがどう動くかも分からない。

 これで当てにするのは危うい。」

 セラは小さく息を吐いた。

「ミレイユを連れていった理由も分かるわ。

 私達に戦う気がないという話に信憑性を持たせて、相手の兵数を減らす。

 悪くはない。

 でも、ミレイユには酷な役目よね。」

「同感だ。」

 最初から、うまくいくとは思っていなかった。

 それでも受け入れたのは、他に手がなかったからだ。

 ここで大軍に囲まれるのは避けたいし、セラの目的は戦うことではない。

 レオンが意固地になれば、話はそれで終わる。

「だから一度は乗った。」

「ええ。でも……」

 セラは俺をまっすぐ見た。

「やっぱり、うまくいく気がしない。」

 俺はわずかに口元を緩めた。

「珍しく意見が合うな。」

「いつも合ってるわよ。」

 即答だった。

 俺は軽く肩をすくめる。

「問題は、“一つに賭けている”ことだ。

 ヨークの案は、奇襲が成立する前提で組まれている。

 崩れた瞬間、打ち手がない。」

 セラはゆっくりと頷いた。

「一本道ね。」

「ああ。だから変える。」

 俺は言った。

「作戦の根本は維持する。

 戦いの場はここではない。

 奇襲する。それは変えない。」

 セラは黙って聞いている。

「だが、その上で選択肢を持たせる。

 奇襲が成立するならそのまま叩く。

 成立しないなら、別の形で主導を握る。」

「……分岐させるのね。」

「そうだ。現場の状況に合わせて、打ち手を変える。」

 俺は視線を床へ落とした。

 そこにあるのは、ヨークが見つけた魔法具だ。

「その軸になるのが、これだ。」

 セラもそれを見た。

「ええ。」

 静かに言う。

「結局、そこに戻るのね。」

「最初から、そこが肝だ。」

 俺は答えた。

「ヨークの案でも同じだ。

 奇襲が成立するかどうかは別として、この魔法具をどう使うかで結果が変わる。」

 セラは腕を組み、少しだけ考え込む。

「……つまり」

 視線を上げる。

「奇襲が成功するなら、そのまま押さえる。

 失敗するなら、この魔法具を使って主導権を奪い返す。」

「そういうことだ。」

 短く返す。

「相手がどう出ても、こちらが後手に回らない形にする。」

 セラは目を細めた。

「贅沢な話ね。」

「そうでもない。」

 俺は首を振る。

「不確定を減らすだけだ。

 何も持たずに待つのと、“使える札”を持って待つのでは意味が違う。」

 しばらく、沈黙が落ちた。

 外の風が強くなり、塔の中に低い音が響く。

 やがて、セラが口を開いた。

「……いいわ。」

 迷いはなかった。

「その方が、まだましね。」

 俺は頷く。

「ヨークがどう動くかは分からない。

 だが、それに依存しない形にする。」

「ええ。」

 セラも同意する。

 その目は、もう揺れていなかった。

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