帰郷 - 3
語り:ミレイユ・カロ
ついさっきまで戦いだったとは思えなかった。
監視塔の前の草地に、私たちは輪になって座っていた。
船酔いのような状態から回復したヨークと、その配下の二人。
塔の中にいた他の兵たち。
そして私たち三人。
皆で顔を突き合わせて話している。
妙な光景だった。
ヨークは頭をかきながら、うんざりしたような顔をした。
「お前らに会うと、ろくなことがないな。」
あきれたような声だった。
セラが小さく頭を下げる。
「……ごめんなさい。」
けれど私は、謝るのも何だか変な話だと思った。
むしろ、さっきまで私たちが襲った側なのだから。
ダリウスがヨークに聞いた。
「それより、何でこんなところにいる?」
ヨークは鼻を鳴らした。
「それはこっちのセリフだ。」
そう言ってから、肩をすくめた。
「まあいい。話すと長いがな。」
――ヨークの話をまとめると、こうだった。
カテドラ近郊の森で、大ムカデ退治の功績を立てたことになり、ヨークは昇進した。
その結果、フランカ帝国軍のカンタベリオン遠征に組み込まれることになったらしい。
カンタベリオンが無条件降伏したときは、正直ほっとしたという。
だが、それも束の間だった。
聞いていなかったリンドン攻めに駆り出されることになったのだ。
ルキウスとは別部隊、別経路で進軍する軍に編入され、リンドン軍と戦闘になった。
もっとも、その戦はほとんど戦いにならなかった。
ルキウスの軍が先行してリンドンに到達していたため、リンドン軍はあっさり撤退したからだ。
ヨーク隊はほとんど戦うことなく、戦を終えることができた。
……その代わり。
カンタベリオンに戻る途中、この監視塔に配属されることになったらしい。
リンドン方面の警戒監視。
つまり、ここで見張りだ。
ヨークはため息をついた。
「出世なんかするんじゃなかった。」
空を見上げながらぼやく。
「何が悲しくて、女房子供を置いてこんなところにいなきゃならんのだ。」
その横で、配下の兵たちがぼそぼそ言った。
「隊長がそれ言うか?」
「出世はしないとダメだろ。」
「そもそも手柄、隊長のじゃないだろ。」
ヨークが振り向いた。
「うるさい!」
兵たちは肩をすくめた。
ダリウスが顔をしかめる。
「軍人としてあるまじき言葉だな。」
げんなりした様子だった。
私は思わず、くすっと笑いそうになった。
ヨークという人は、どうにも憎めない。
ダリウスは続けて、自分たちの旅の経緯を話した。
カテドラ近郊の森で別れてから、ノルドハイム連邦を経由し、アルビオン島へ渡ったこと。
そしてそこから再び大陸に戻り、ここまで来たこと。
ヨークはぽかんとした顔をした。
「正気の沙汰じゃないな。」
驚いているのか、感心しているのか分からない顔だった。
「で――」
ヨークは腕を組んだ。
「何でそんな大変なことを?」
ダリウスは、ちらっとセラを見た。
セラが一歩前に出た。
「私が――」
少しだけ間を置く。
「セラ・アルヴェインだからよ。」
一瞬。
誰も声を出さなかった。
ヨークたちは、目を丸くした。
「……え?」
「今、何て?」
「アルヴェインって……」
ざわざわと声が上がる。
ヨークは口を開けたまま、セラを見つめていた。
「じゃあ俺たちと会ったのは……」
言葉を探すように言う。
「教皇暗殺に失敗した……」
「セラは教皇を殺そうなどしていない。」
ダリウスがきっぱり言った。
ヨークは目を瞬かせた。
それから、セラを見る。
「そうなのかい?」
セラは静かに答えた。
「エリアス・ヴァルメインが、私の命と聖環を奪おうとしているだけです。」
その名前が出た瞬間。
ヨークたちの口が、そろって開いた。
「エリアス……?」
「ヴァルメイン……?」
ヨークは頭を抱えた。
「俺たちの目を回すわ、魔物を操るわ――」
セラを指さす。
「嬢ちゃん、すごい魔法具を持ってるとは思ったが……まさか聖環とはな。」
呆れたように言った。
「嬢ちゃんはアルヴェイン家の娘で、聖環を持ってて、命を狙われて……とんでもないな。」
セラは肩をすくめた。
「たまたまよ。」
その言葉を聞いたとき。
私は、ふと思い出した。
――魔女アルシアも、同じことを言っていた。
ヨークは苦笑した。
「で?」
顎をしゃくる。
「何でアルヴェイン家の娘が、監視塔を落とそうなんて考えたんだい?」
私は思った。
――ようやく、本題に入るのだな、と。




