表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
聖環  作者: 北寄 貝


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

138/143

帰郷 - 2

語り:ミレイユ・カロ

 血気にはやるセラを見て、ダリウスは深くため息をついた。

 それから、ふいに辺りを見回す。

「……あれはなんだ?」

 ダリウスが西の丘を指さした。

 丘の上に、細い影のようなものが立っている。

 その先端に、小さな旗のようなものが揺れていた。

 私は目を細めて見た。

「あれは……たぶん、西の監視塔だと思います。」

 丘はなだらかな草地で、木もまばらにしか生えていない。

 その頂に、石造りの塔がぽつんと立っている。

 塔は高くはないが、周囲を見渡すには十分な高さだった。

「塔?」

 ダリウスが聞き返す。

「リンドン方面から来る敵を警戒するための塔よ」

 セラがぶっきらぼうに答えた。

 視線はずっとカンタベリオンの城壁に向いたままだった。

 今にも走り出しそうな気配すらある。

「……あの塔には何人くらいいる?」

 ダリウスが続けて聞いた。

 セラは少し考えた。

「十人くらいかしら。」

 ダリウスは腕を組んだ。

 しばらく黙って丘を見つめていたが、やがて言った。

「……あの塔を落とそう。」

 私とセラは、同時にダリウスを見た。

「え?」

「何ですって?」

 思わず声が出る。

 ダリウスは平然としていた。

「このままのこのこカンタベリオンに行ったところで、城壁から矢の雨を浴びるだけだ。」

 淡々と続ける。

「いかに聖環があっても、ハリネズミになるのが関の山だ。

 無駄死にしに行くようなものだろう。」

 それから丘の塔を指した。

「なら、向こうから出てくるように仕向ければいい。」

 セラの眉がぴくりと動いた。

「そんな回りくどいことをする必要はないわ。」

 吐き捨てるように言う。

「矢の雨が何だっていうのよ。」

 聞く耳を持たない様子だった。

 そのときだった。

「頭を冷やせ。」

 ダリウスの声が、いつになく強かった。

 セラがびくっと肩を震わせた。

「カンタベリオンで犬死するために、ここまで旅をしてきたのか?」

 低い声だったが、怒気がこもっていた。

 セラは唇を強く噛んだ。

 何も言わない。

 ダリウスは続けた。

「監視塔を取り、兵を逃がす。」

「逃がす?」

 私が聞き返す。

「セラがそこにいると、城に報告させる。」

 ダリウスは丘を見ながら言った。

「そうすれば領主――君の父親か、少なくとも兄は出張ってくるはずだ。

 そこで状況に合わせて動く。

 それが目的を達する一番確実な方法だ。」

 私は思わず聞いた。

「領主……レオン様かエドマンド様が、本当に来るのでしょうか?」

 ダリウスは振り返った。

「セラが風の聖環を使いこなしていることは、もう伝わっているはずだ。

 ならば兵をいくら集めても勝てないことくらい、向こうも分かっている。

 となれば、説得という手段を考えるのが普通だ。」

 少し間を置いて続ける。

「そうなれば肉親がその役目を負う。」

 セラが鼻で笑った。

「ずいぶん希望的観測ね。」

 明らかに面白くなさそうだった。

 ダリウスは肩をすくめた。

「生き残る可能性が高い、と言ってくれ。」

 セラはしばらく黙っていた。

 やがて、短く言った。

「……分かったわ。」

 そしてカンタベリオンを見た。

「あなたの言うとおりにする。」


 私たちは丘を下り、草地を横切った。

 カンタベリオンの城壁は遠くに見えたままだった。

 灰色の石壁の上に、塔がいくつも突き出ている。

 その反対側の丘を登る。

 丘の頂に、監視塔が見えてきた。

 石造りの塔だった。

 灰色の石が積み上げられた四角い塔身が、まっすぐ空へ伸びている。

 高さは四階建てほどだろうか。

 壁は厚く、小さな窓がいくつか開いている。

 屋上には旗が立っていた。

 赤地に黒い双頭の鷲。

 フランカ帝国の旗だ。

 塔の周囲には低い柵があり、その前に木の扉がある。

 私たちは丘の林の中に身を潜めた。

 そこから塔をうかがう。

 扉の前に、三人の兵が立っていた。

 槍を肩にかけ、何か話している。

 ダリウスが小声で言った。

「セラ。」

 セラが振り向く。

「ここの兵たちは逃がす。

 カンタベリオンに報告させるためだ。」

 セラは頷いた。

「分かってる。」

 ダリウスは続ける。

「君の“眩暈の風”で動けなくしてくれ。

 殺す必要はない。」

「分かった。」

 セラは静かに林の端まで移動した。

 草陰にしゃがみ、塔を見据える。

 一度こちらを振り返った。

 ダリウスが小さく頷く。

 セラも頷いた。

 そして立ち上がる。

 次の瞬間、塔へ向かって走り出した。

「吹け――私の風!」

 風が巻き起こった。

 丘の草が一斉に揺れる。

 突風が塔の前を吹き抜け、兵たちを巻き込んだ。

「うわっ!」

「何だ――」

 兵たちは体勢を崩し、その場に倒れ込んだ。

 私はダリウスと一緒に走り出した。

 セラの後を追う。

 三人で扉の前にたどり着く。

 兵たちは地面に倒れていた。

 苦しそうにうめいている。

 私はその顔を見て――

 思わず声を上げた。

「あっ」

 見覚えのある顔だった。

 セラとダリウスが振り返る。

「何だ?」

 私は倒れている兵を指さした。

「この方……!」

 ダリウスがその顔を見て、目を見開いた。

「お前……ヨークか?」

 倒れている兵の一人は間違いなく――

 フランカ帝国の首都カテドラ郊外の森で出会った帝国兵。

 ヨークだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ