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聖環  作者: 北寄 貝


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131/134

次兄 - 1

語り:ミレイユ・カロ

 迷いの森を出てから、二日歩いた。

 森を抜けると道は広くなったが、その分だけ疲れがはっきり分かるようになった。

 足の裏はじんじんと熱く、肩に掛けた荷物もやけに重い。

 丘の坂道を登りきったところで、先を歩いていたダリウスが足を止めた。

 私は息を整えながらその横に並ぶ。

 視界の先に、町が見えた。

 アシュカラー。

 北へ向かえばカンタベリオン、西へ向かえばリンドン。

 その街道が交わる町だと、セラが教えてくれた。

 谷の緩やかな斜面に、木組みの家々が肩を寄せ合うように並んでいる。

 町の中央には石造りの大きな教会がそびえ、その塔が周囲の屋根より頭ひとつ抜けていた。

 煙突からは煙がいくつも上がっている。

 遠くから見る限りでは、普通の町だった。

 ……けれど。

「旗……」

 セラが小さく呟いた。

 私は目を細めて町門の上を見た。

 風に翻る旗が二つある。

 一つは、見覚えのある紋章だった。

 白地に黒い獅子。

 アルヴェイン家の旗だ。

「よりによって……」

 セラが小さく舌打ちした。

 そしてもう一つ。

 赤地に金の紋章――フランカ帝国。

 私は思わずダリウスを見た。

 ダリウスは腕を組んだまま町を見下ろしている。

「……落ちたな。」

 短く言った。

「落ちた?」

「占領されたってことだ。」

 淡々とした声だった。

「帝国軍がリンドンへ向かう途中で落としたんだろう。」

 セラが町を見つめる。

「ルキウス……」

 その名前は風に流されるように消えた。

 丘の上からでも分かる。

 町の様子が、どこかおかしい。

 市場の広場には人がいるはずなのに、妙に静かだ。

 通りを歩く人影もまばらだった。

 動きがどこかぎこちない。

 町門の脇には兵士が立っていた。

 槍を持っている。

 そして、帝国の鎧。

 私は無意識にフードを少し深くかぶった。

 胸の奥がざわつく。

 何か嫌な感じがした。

 セラも同じだったのか、静かな声で言った。

「……通り抜けましょう。」

 町から目を離さないまま。

「顔見知りがいたら面倒だから、長居はしたくないわ。」

 ダリウスが頷いた。

「俺もそう思う。」

 そして振り返る。

「行くぞ。」

 丘の下へと続く街道を、三人で歩き出した。

 町の鐘が、遠くで一度鳴った。

 それが、どういう意味の鐘なのか。

 その時の私には、まだ分からなかった。

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