次兄 - 1
語り:ミレイユ・カロ
迷いの森を出てから、二日歩いた。
森を抜けると道は広くなったが、その分だけ疲れがはっきり分かるようになった。
足の裏はじんじんと熱く、肩に掛けた荷物もやけに重い。
丘の坂道を登りきったところで、先を歩いていたダリウスが足を止めた。
私は息を整えながらその横に並ぶ。
視界の先に、町が見えた。
アシュカラー。
北へ向かえばカンタベリオン、西へ向かえばリンドン。
その街道が交わる町だと、セラが教えてくれた。
谷の緩やかな斜面に、木組みの家々が肩を寄せ合うように並んでいる。
町の中央には石造りの大きな教会がそびえ、その塔が周囲の屋根より頭ひとつ抜けていた。
煙突からは煙がいくつも上がっている。
遠くから見る限りでは、普通の町だった。
……けれど。
「旗……」
セラが小さく呟いた。
私は目を細めて町門の上を見た。
風に翻る旗が二つある。
一つは、見覚えのある紋章だった。
白地に黒い獅子。
アルヴェイン家の旗だ。
「よりによって……」
セラが小さく舌打ちした。
そしてもう一つ。
赤地に金の紋章――フランカ帝国。
私は思わずダリウスを見た。
ダリウスは腕を組んだまま町を見下ろしている。
「……落ちたな。」
短く言った。
「落ちた?」
「占領されたってことだ。」
淡々とした声だった。
「帝国軍がリンドンへ向かう途中で落としたんだろう。」
セラが町を見つめる。
「ルキウス……」
その名前は風に流されるように消えた。
丘の上からでも分かる。
町の様子が、どこかおかしい。
市場の広場には人がいるはずなのに、妙に静かだ。
通りを歩く人影もまばらだった。
動きがどこかぎこちない。
町門の脇には兵士が立っていた。
槍を持っている。
そして、帝国の鎧。
私は無意識にフードを少し深くかぶった。
胸の奥がざわつく。
何か嫌な感じがした。
セラも同じだったのか、静かな声で言った。
「……通り抜けましょう。」
町から目を離さないまま。
「顔見知りがいたら面倒だから、長居はしたくないわ。」
ダリウスが頷いた。
「俺もそう思う。」
そして振り返る。
「行くぞ。」
丘の下へと続く街道を、三人で歩き出した。
町の鐘が、遠くで一度鳴った。
それが、どういう意味の鐘なのか。
その時の私には、まだ分からなかった。




