表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
聖環  作者: 北寄 貝


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

125/131

迷いの森 - 6

語り:ダリウス・エルネスト

 アルシアはロバを引きながら、振り返りもせずに歩き出した。

「あんたらの長い話とやら、聞こうかね?」

 落ち着いた調子だ。

 だが歩みは一定で、迷いがない。

 セラが口を開いた。

 自分が何者か。

 父のこと。

 聖環を渡されたこと。

 帝国へ渡ったこと。

 殺されかけたこと。

 俺とミレイユと出会い、旅をし、見聞きし、身をもって味わってきた出来事を、順を追って語る。

 森は静かだ。

 ロバの蹄の音だけが、規則正しく地面を打つ。

 やがてセラは声を落とした。

「……あなたの娘、水の魔女、フレヤが腕を斬られて、フランカ帝国軍に連れ去られるのを……私たちは間近で見ていたの。」

 遠慮がちに告げる。

 アルシアは足を止めなかった。

 ただ、大きく息を吐いた。

「リンドンってのは、つくづく罪な街だよ。」

 振り返らず、呟く。

 俺は思い出す。

 フレヤとルキウスのやり取り。

 街を焼かねば出てこない、と言った男。

 “私のリンドン”と呼んだ女。

 セラも同じ記憶に触れたらしい。

「フレヤは、リンドンを“私のリンドン”って呼んでいたわ。

 ルキウスは、街を火の海にでもしなければ出てこないと思っていた、と。」

 アルシアの肩がわずかに揺れた。

「娘の“相方”は、リンドンを愛していた。

 それが凶と出ちまったね。」

 相方。

 フレヤが愛した男。

 水の聖環の、生贄。

「娘の選んだ道とはいえ……助けてやれなかったのは、辛いもんさ。」

 声は静かだ。

 だが、滲むものがある。

 俺は問う。

「リンドンで起きたことは、知っているのか?」

「何が起きたかは知らないよ。」

 即答だった。

「だが、娘に何があったかくらいは分かる。

 婆さんとはいえ、魔女なんでね。」

 誇るでもなく、ただ事実のように言う。

「……では、水の魔女は今どこにいるか分かるのか?」

「知っているさ。」

 あっさり。

「拘束されたまま、海を渡るようだね。」

 胸が重くなる。

「フランカ帝国に連れていかれる、ということか。」

「ルキウス・ヴァルメインの目的は、エリアス・ヴァルメインに“生きた聖環”を渡すことさ。」

 ――生きた聖環?

「そのためには、エリアスが身に着けるまでは、本来の保持者が生きていなきゃならない。

 だから娘は死なずに済んでいるのさ。」

 裏を返せば、保持者が死ねば聖環は力を失う、ということか。

 セラが口を挟む。

「私は……指を切り落とせと言われたわ。」

 アルシアは鼻で息を鳴らした。

「生きた聖環を奪うなら、肉を穿るしかないからね。

 あんたも娘の……酷い連中に目をつけられたもんだよ。」

 森が深まっていく。

 木々の間隔が狭くなり、光が薄くなる。

 風が通らない。

 音が吸われる。

 踏みしめる落ち葉の音さえ、どこか遠い。

 ロバの背で眠るウェアウルフは、微動だにしない。

 俺は横目で見る。

 酩酊しているというが、戻らない。

 酔いが覚めれば、また暴れるのか。

 森の奥へ進むにつれ、空気が重くなる。

 やがて。

 木々の隙間の向こうに、小屋が見えた。

 苔むした屋根。

 煙突から細く立つ煙。

 木々が小屋を囲うように立っている。

 迷いの森の奥に、不思議と溶け込んだ小さな家だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ