表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
聖環  作者: 北寄 貝


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

122/129

迷いの森 - 3

語り:ダリウス・エルネスト

 襲ってくる猿を処理するのは、想定よりも楽だった。

 数は多い。だが、質は低い。

 魔物に憑依されていようと、鵺の敵ではない。

 枝から飛びかかった猿の首を、鵺は空中で刎ねる。

 次の瞬間には別の枝へ移り、鉤爪で腹を裂く。

 地面に落ちた猿も、ほとんどがこちらに近づく前に絶える。

 鵺の動きに無駄がない。

 俺は鵺とセラの死角に集中するだけで済んでいた。

 左、後方、上。

 来た個体を引き付けて斬る。

 それで足りる。

 離れたところでは、ウェアウルフが暴風のように動いていた。

 木を蹴り、幹を駆け上がり、枝を踏み台にして宙へ。

 空中で猿の胴を裂き、そのまま別の猿へ跳ぶ。

 牙が閃き、鉤爪が閃く。

 猿が悲鳴を上げる暇もない。

 俺の目も追いつかない。

 死骸から紫の霞が立ち上る。

 だがそれは消えない。

 他の猿へ吸い込まれていく。

 猿の目が濁り、動きが一瞬だけ鋭くなる。

 やがて――

 猿たちが連鎖するように鳴き始めた。


 キィィィィィ――


 そして突然、三人から離れる方向へ一斉に逃げ出した。

 静寂が落ちる。

 周囲には無数の死骸。

 紫の霞が薄く漂う。

 戦場とは違う。

 敵を倒したという感触がない。

 何かが、まだ残っている。

 セラも周囲を見渡し、小さく呟いた。

「……気持ちが悪いわね。」

 嫌悪を隠していない。

 俺も同感だった。

 そのとき、同時に気づく。

「ミレイユは?」

 いない。

「猿を追ったか。」

 俺とセラは、猿が逃げた方向へ走る。

 やがて暗がりに、ぽつんと立つ影が見えた。

 ウェアウルフ。

 俯いている。

「ミレイユ!」

 セラが駆け出そうとする。

「待て。」

 俺は腕を掴む。

「よく見ろ。」

 最初はただの影に見えた。

 だが違う。

 ウェアウルフの周囲に、黒い煙が漂っている。

 死骸から立った紫の霞とは違う、煤のように重い煙。

 あれは――

 シメオンの村で見た。

 グリーブのヤンが魔化の指輪でミノタウロスになったとき。

 頭を抱えてのたうち、黒い煙が体内から滲み出ていた。

 目が濁り、呼吸が荒くなり、

 そして――暴走した。

「……ミノタウロスの時と、同じかしら?」

 セラの声が震える。

 怯えているのではない。

 理解しているのだ。

 もし同じなら、止める方法も同じなのか。

 俺はゆっくり近づく。

 刺激しないように。

 二メートル。

 黒い煙は体から直接漏れているわけではない。

 だが確かに周囲に滞留している。

 ウェアウルフは、ぶつぶつと何か言っている。

 耳を澄ます。

「コロス……ダメ……クウ……ダメ……」

 繰り返している。

 よく見ると、目から涙が落ちていた。

 胸が押しつぶされそうになった。

 暴走しかけている力を、ミレイユが必死に抑えている。

 俺は奥歯を噛む。

 安易に力を使わせた。

 手札として使った。

 その結果がこれか。

「ダリウス?」

 セラが小さく呼ぶ。

 その瞬間。

 ウェアウルフが顔を上げた。

 眼光が鋭くなる。

「下がれ!」

 叫ぶ。

 同時に、ウェアウルフが地を蹴る。

 俺の首元へ牙が迫る。

 反射で身を捻る。

 牙が空を切る。

 地面を転がり、距離を取る。

 心臓が速い。

 剣を握る。

 殺したくない。

 だが――

 わずかな逡巡でも、命取りになるのは分かっているが……。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ