迷いの森 - 1
語り:ミレイユ・カロ
サムの勧めに従い、私たちはアルビオン島最高の魔女、アルシア・シウに会いに行くことになった。
聖環とは何かを知っていた人間は、これまでに出会った中ではノルドハイムの魔女、ローズだけだった。
ローズから大まかなことは聞いている。
だから、これ以上何を知る必要があるのか、正直なところ私にもダリウスにも想像がつかなかった。
だが、セラにはあるらしい。
ただ、自分の中でもまだ整理しきれていないと言い、何を知りたいのかは教えてくれなかった。
それでも――
セラが魔女に会いたいというのなら、ついていくまでだ。
私たちはリンドンを発った。
目的地は、リンドンから南へ徒歩で二日ほどの距離にある森。
通称、迷いの森。
魔女が人を避けるため、森全体に魔法を施した結果、足を踏み入れた者は出口を見失い、二度と戻れなくなる。
そう噂され、そう呼ばれるようになったらしい。
そのため、私たちはサムが用意した馬車で最寄りの街グリテッドまで向かい、そこから徒歩で森へ入ることにした。
セラは最初、馬車を断った。
「借りを増やしたくないの。」
そう言っていたが、サムが半ば強引に押し切った。
結局、その親切を受け入れた。
馬車のおかげで疲れも溜まらず、私たちは夕暮れ前にグリテッドへ着いた。
石造りの小さな街で一夜を明かす。
翌朝、宿を出ると、空気は冷たく澄んでいた。
森の入口は、思ったよりもあっさりとしている。
柵も門もない。
ただ、木々が密に立ち並び、その奥が暗いだけだ。
セラがポケットから小さなコンパスを取り出した。
銀の針が、かすかに震えながら一定の方向を指している。
「この針の指す方へ進めば、魔女に会えるのよね。」
それはサムから渡されたものだった。
これがなければ、森は本当に出口を閉ざすという。
ダリウスが先頭に立つ。
その後ろにセラ。
最後尾が私。
森に一歩踏み込むと、空気が変わった。
地面は柔らかく、昨夜の露を含んだ落ち葉が靴の下で湿った音を立てる。
背の低いシダが足元を覆い、白樺やオークの幹が灰色の柱のように並ぶ。
遠くで小川のせせらぎがかすかに聞こえ、時折、どこかで枝が折れる音がする。
空は見えるが、木々がその形を歪めている。
光は差すのに、どこか薄暗い。
しばらく進んだときだった。
キィ、キィ――と甲高い鳴き声が響いた。
私は立ち止まる。
セラが首をかしげる。
「迷いにいる獣って、迷わないのかしら。」
「言葉遊びか?」
ダリウスが振り返らずに言う。
「だって、獣だって巣とかあるじゃない。
そこに帰れるのかなって。」
「魔女に会ったら聞いてみてくれ。」
軽口のようなやりとり。
だが鳴き声は、次第に数を増している。
キィ、キィ、キィ。
枝が大きく揺れた。
まるで突風が吹き抜けたかのように、葉がざわめく。
セラが表情を引き締める。
「馬鹿話してる場合じゃなさそうね。」
「ああ。」
ダリウスが弓を構える。
私も周囲を見渡す。
木の枝に、黒い影。
ひとつではない。
あっと思う間もなく、影は枝から枝へと飛び移る。
「あれ!」
私が指さした瞬間、弦が鳴った。
矢が飛ぶ。
影に命中し、ぼとりと地面に落ちた。
ダリウスが慎重に近づく。
「猿……か?」
落ちたそれは、小柄な猿だった。
だが次の瞬間、その体から紫の煙が立ちのぼる。
「またパープルヘイズ……ノルドハイムから追いかけてきたっていうの?」
三度現れた魔物に、セラが忌々しげに吐き捨てる。
背中が冷える。
ということは――
私は周囲を見上げた。
木々の上。
枝の間。
影、影、影。
枝という枝に無数の猿が、こちらを取り囲んでいた。
キィキィと威嚇する声が森を満たす。
枝が揺れ、葉が降り注ぐ。
今にも、一斉に飛びかかってきそうだった。




