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聖環  作者: 北寄 貝


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120/128

迷いの森 - 1

語り:ミレイユ・カロ

 サムの勧めに従い、私たちはアルビオン島最高の魔女、アルシア・シウに会いに行くことになった。

 聖環とは何かを知っていた人間は、これまでに出会った中ではノルドハイムの魔女、ローズだけだった。

 ローズから大まかなことは聞いている。

 だから、これ以上何を知る必要があるのか、正直なところ私にもダリウスにも想像がつかなかった。

 だが、セラにはあるらしい。

 ただ、自分の中でもまだ整理しきれていないと言い、何を知りたいのかは教えてくれなかった。

 それでも――

 セラが魔女に会いたいというのなら、ついていくまでだ。

 私たちはリンドンを発った。

 目的地は、リンドンから南へ徒歩で二日ほどの距離にある森。

 通称、迷いの森。

 魔女が人を避けるため、森全体に魔法を施した結果、足を踏み入れた者は出口を見失い、二度と戻れなくなる。

 そう噂され、そう呼ばれるようになったらしい。

 そのため、私たちはサムが用意した馬車で最寄りの街グリテッドまで向かい、そこから徒歩で森へ入ることにした。

 セラは最初、馬車を断った。

「借りを増やしたくないの。」

 そう言っていたが、サムが半ば強引に押し切った。

 結局、その親切を受け入れた。

 馬車のおかげで疲れも溜まらず、私たちは夕暮れ前にグリテッドへ着いた。

 石造りの小さな街で一夜を明かす。


 翌朝、宿を出ると、空気は冷たく澄んでいた。

 森の入口は、思ったよりもあっさりとしている。

 柵も門もない。

 ただ、木々が密に立ち並び、その奥が暗いだけだ。

 セラがポケットから小さなコンパスを取り出した。

 銀の針が、かすかに震えながら一定の方向を指している。

「この針の指す方へ進めば、魔女に会えるのよね。」

 それはサムから渡されたものだった。

 これがなければ、森は本当に出口を閉ざすという。

 ダリウスが先頭に立つ。

 その後ろにセラ。

 最後尾が私。

 森に一歩踏み込むと、空気が変わった。

 地面は柔らかく、昨夜の露を含んだ落ち葉が靴の下で湿った音を立てる。

 背の低いシダが足元を覆い、白樺やオークの幹が灰色の柱のように並ぶ。

 遠くで小川のせせらぎがかすかに聞こえ、時折、どこかで枝が折れる音がする。

 空は見えるが、木々がその形を歪めている。

 光は差すのに、どこか薄暗い。

 しばらく進んだときだった。

 キィ、キィ――と甲高い鳴き声が響いた。

 私は立ち止まる。

 セラが首をかしげる。

「迷いにいる獣って、迷わないのかしら。」

「言葉遊びか?」

 ダリウスが振り返らずに言う。

「だって、獣だって巣とかあるじゃない。

 そこに帰れるのかなって。」

「魔女に会ったら聞いてみてくれ。」

 軽口のようなやりとり。

 だが鳴き声は、次第に数を増している。

 キィ、キィ、キィ。

 枝が大きく揺れた。

 まるで突風が吹き抜けたかのように、葉がざわめく。

 セラが表情を引き締める。

「馬鹿話してる場合じゃなさそうね。」

「ああ。」

 ダリウスが弓を構える。

 私も周囲を見渡す。

 木の枝に、黒い影。

 ひとつではない。

 あっと思う間もなく、影は枝から枝へと飛び移る。

「あれ!」

 私が指さした瞬間、弦が鳴った。

 矢が飛ぶ。

 影に命中し、ぼとりと地面に落ちた。

 ダリウスが慎重に近づく。

「猿……か?」

 落ちたそれは、小柄な猿だった。

 だが次の瞬間、その体から紫の煙が立ちのぼる。

「またパープルヘイズ……ノルドハイムから追いかけてきたっていうの?」

 三度現れた魔物に、セラが忌々しげに吐き捨てる。

 背中が冷える。

 ということは――

 私は周囲を見上げた。

 木々の上。

 枝の間。

 影、影、影。

 枝という枝に無数の猿が、こちらを取り囲んでいた。

 キィキィと威嚇する声が森を満たす。

 枝が揺れ、葉が降り注ぐ。

 今にも、一斉に飛びかかってきそうだった。

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