敵味方 - 6
語り:ミレイユ・カロ
サムと再び顔を合わせたのは、夜もだいぶ更けてからだった。
夕食を済ませ、今日はもう話はないだろうとセラと小声で話していたところへ、兵がやってきて、食堂へ来るようにと告げられた。
石の廊下は冷え、燭台の火が長い影を落としている。
案内された食堂は、接見の間よりも温かみのある空間だった。
長い樫のテーブルが中央に据えられ、壁には狩猟を描いた古いタペストリー。
炉にはまだ赤い熾火が残り、肉と香草の匂いがほのかに漂っている。
銀の燭台がいくつも並び、蝋燭の火が揺れるたび、天井の梁に影が揺らめいた。
サムはすでに席に着き、ワインの杯を手にしていた。
「来たか。」
促され、私たちは向かい合うように腰を下ろす。
木椅子がわずかに軋んだ。
サムはまずダリウスの方を見た。
「まずは君の進言に礼を言おう。
民は食糧を得て、いくぶん落ち着いた。
市中を回って、何をすべきかも見えてきた。」
杯の中で赤い液体が揺れる。
「痛み入ります。」
ダリウスは静かに答えた。
サムは杯を置き、ゆっくりとセラへ視線を移す。
「さて。君はレオンとは関係ないと言ったな。
どういうことか、聞かせてもらおう。」
炉の火がぱちりと弾ける。
セラは首元に手をやり、外套の下から聖環を取り出した。
淡い光が、食堂の影をわずかに押し返す。
「これを得た時から、すべてがおかしくなりました。」
サムの目が鋭くなる。
「……淡く光っているな。
それは、まさか――聖環か?」
「そうです。でも私は、ただ母の形見として父から渡されただけでした。」
サムは長く息を吐いた。
「竜巻を起こし、軍民問わず病臥させる魔女がいると報告は受けていた。
どんな魔法具を使ったのかと思えば……まさか聖環とは。」
落ち着かぬ様子で杯に手を伸ばす。
「サムグリおじさまは、聖環をご存じで?」
「もちろんだ。
水の魔女、フレヤとは長い付き合いでな。
いろいろと教えられた。」
私は、フレヤがルキウスに敗れた瞬間を思い出す。
あの鋭い眼差し。崩れ落ちる姿。
「だが、風の聖環がカンタベリオンにあったとは知らなかった。」
サムは眉を寄せる。
セラは静かに続けた。
「私は、ここを攻めに来たルキウス・ヴァルメインの息子エリアスと結婚するために帝国へ渡りました。」
私は思わず指先に力が入る。
「けれど、聖環を奪うために殺されそうになりました。
だから逃げたのです。
ここまで、必死に。」
燭台の火が揺れる。
「父が何を考えているのか、私には分かりません。」
サムが低く問う。
「レオンは、君ごと聖環を帝国へ差し出すつもりだったと?」
「分からないことだらけなのです」
セラの声はかすかに震えていた。
「だから私の旅の目的は、真実を知ることなのです。」
サムは顎に手をやる。
「だが、聖環が使えるということは――君がよく知る誰かが、生贄になったということだろう?」
食堂の空気が一瞬止まる。
「誰かは分かっています。」
セラはまっすぐ前を見た。
「けれど、なぜかは分かりません。」
サムは小さく首を振る。
「にわかには信じがたい話だな。」
「私は聖環についてほとんど何も知りません。
だから水の魔女と話したかったのですが……」
言葉の端が、わずかに落ちる。
私は気づく。
あの時、旅の目的を「水の魔女」と言ったのは、嘘ではなかったのだ。
サムが重く言う。
「それこそ、聖環ごとさらわれてしまった。」
炉の火が、また小さく弾ける。
沈黙が食堂を満たす。
やがてサムは杯を置き、決意したように言った。
「わかった。君に、聖環に詳しいであろう魔女を紹介しよう。」
セラが目を見開く。
「え……それは、どなたですか?」
サムはゆっくりと言った。
「アルビオン島最高の魔女と呼ばれた者だ。」
火の揺らめきが、サムの顔を赤く照らす。
「フレヤの母だ」
セラの唇がわずかに震える。
「アルビオン島最高の魔女……」
その名は、夜の静寂の中で、重く沈んだ。




