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聖環  作者: 北寄 貝


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敵味方 - 4

語り:ミレイユ・カロ

 セラの目がこちらを向いた、その瞬間だった。

 接見の間の扉が乱暴に開かれる。

「領主様!」

 鎧姿の兵が飛び込んできた。顔色は青ざめ、息を切らしている。

「何事だ!」

 隊長が怒鳴る。

「市街地で暴動が起きています!」

 大声が梁に反響した。

 その場の誰もが、びくりとする。

「暴動だと?」

 サムの声が鋭くなる。

「軍と民衆が争っております! 略奪も発生しています!」

 接見の間の空気が一瞬で張りつめた。

 サムの手が肘掛けを強く握る。指の関節が白くなる。

「なんだと……」

 わなわなと震えている。

「急ぎ鎮圧に向かいます。」

 隊長が一歩進み出る。

 だがサムは報告の兵を睨んだ。

「なぜそんな混乱が起きている?」

 兵は目を伏せる。

「それは……」

「時間の無駄だ。早く話せ。」

 叱責が飛ぶ。

 兵は唇を噛み、覚悟を決めたように言った。

「我が軍の兵が……助けを求めた民衆を、感情任せに刺殺したのが発端のようです。」

 橋の上の光景が脳裏に蘇る。

 槍の穂先。

 倒れた男。

 怒号。

「なんと馬鹿な……」

 サムが低く呻く。

「民衆も火災でかなり気が立っていたようで……撤退戦で疲弊していた兵が、後先を考えずに手を出した模様です。」

 隊長がすぐに口を挟む。

「では、その兵を処罰して民の怒りを収めるしかない。捕らえてこい。」

 兵は、さらに言いづらそうに目を伏せた。

「その者は……民衆に殴り殺されたようです。」

 沈黙。

 隊長も言葉を失う。

 私はダリウス、セラと顔を見合わせる。

 眩暈の風で、無理やり争いは止めた。

 だが、燃え上がった怒りまでは消せなかったらしい。

「争いは拡大しております。」

 兵は続ける。

「火事場泥棒が横行し、ロブソン川以北の無事だった地区でも店が襲われています。

 さらに、暴れる民衆に同調する兵まで現れはじめ……収拾のつかぬ様相です。」

 治安が崩れかけている。

 サムはゆっくりとセラを見た。

「君が言っていた兵と民の争いとは、このことか?」

「そうです。」

 セラは動じない。

 兵がさらに言葉を重ねる。

「民衆は、グリーブス家は出ていけ、魔女を引き渡せ、と声を張り上げています。」

 サムの肩が落ちる。

「なんと……」

 隊長が怒気を含んだ声で叫んだ。

「やはり! リンドンを混乱に陥れたのはこの魔女ではないか!」

 剣が抜かれる。

 金属音が、骨に響くようだった。

 背中の槍がわずかに動く。

 私は思わず目を閉じかけた。

 何もかもが、絡まり合っている。

 戦争。

 火災。

 兵の過失。

 民の怒り。

 魔女の噂。

 もはや、誰が何を始めたのかも分からない。

 敵も味方も、ぐずぐずに溶けているようだった。

 私は、ため息が出そうになっていた。

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