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聖環  作者: 北寄 貝


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116/124

敵味方 - 3

語り:ミレイユ・カロ

 城は小高い丘の上に築かれていた。

 白灰色の石を積み上げた円塔がひとつ、その周囲を囲むように厚い城壁が巡らされている。

 堀は浅いが、門前には跳ね橋があり、鉄で補強された門扉が半ばまで閉じられていた。

 規模は大きくない。

 だが、無骨で、実用本位の城だ。

 城壁の上には弓兵が立ち、こちらを見下ろしている。

 旗竿には、あの深紅の旗――黒獅子が銀の塔を踏み据える紋章が、風に揺れていた。

 私たちは内門をくぐり、石畳の中庭を横切る。

 焼け跡の匂いとは違う、乾いた石の冷気が漂っていた。

 やがて案内されたのは、接見の間だった。

 天井は高くはないが梁は太く、壁には簡素なタペストリーが掛けられている。

 豪奢というよりは、領主の実務の場といった雰囲気だ。

 奥に置かれた椅子に、細面の中年男が腰を下ろしていた。

 騎兵の隊長が進み出る。

「サム様。魔女とその一味を連れてまいりました。」

 私たちはその男の前に並ばされる。

 背後に立つ兵の気配。槍の穂先がこちらへ向けられているのが分かる。

 サムと呼ばれた男は、肘掛けに体を預け、どこか倦んだような目つきでセラを眺めた。

「リンドンの民を酷い目にあわせた魔女というのは、お前か?」

 声は低いが、抑揚がない。

 セラはまっすぐ見返す。

「争いを止めただけです。」

 堂々と。

 サムは片眉をわずかに上げる。

「名は何と申す。」

「セラ・アルヴェインです。」

 その瞬間だった。

 サムの目が見開かれ、腰がわずかに浮く。

「セラ・アルヴェインだと?」

 空気が変わった。

 セラはにっこりと笑った。

「お久しぶりです、サムグリおじさま。」

 背後で隊長が怒鳴る。

「貴様! リンドン領主、サム・グリーブス様に向かってなんと無礼な!」

 腰の剣に手がかかる。

「よいよい。」

 サムが手を上げた。

「お前は引っ込んでおれ。」

 隊長は渋々一歩退く。

 サムはセラを見つめ、ふっと目を細めた。

「しばらく見ないうちに、ずいぶん大きくなったな。」

 その声音は、完全に親戚の叔父のそれだった。

 私は思わず瞬きをする。

 さきほどまでの冷ややかな領主の顔とは別人のようだ。

「五年ぶりくらいでしょうか。」

 セラが穏やかに答える。

「うむ、うむ……」

 サムは頷き、しかしすぐに表情を戻す。

「それで、なぜリンドンにおったのだ?」

「しばらく旅をしておりまして。その途中です。」

「旅?」

 問いが重なる。

「水の魔女を探す旅です。」

 ダリウスと私は、思わず小さく体をこわばらせた。

 そんな目的は聞いていない。

 だが、ここで否定するわけにもいかない。

 サムはゆっくりと椅子に腰を沈める。

「……そうか。」

 しばし沈黙。

 やがて、静かな声で言った。

「私は、昨日まで君の父親と戦争をしていたよ。」

 空気が凍る。

「父親はわが領地を犯し、娘はわが領内で兵と民を虐げる。」

 その目が鋭くなる。

「なかなかに、ひどい話だな。」

 セラは一歩も退かない。

「私は父とは関係ありませんし、兵と民の争いを止めただけです。」

「誰がそんな戯言を信じるものか。」

 冷たい断言。

「リンドンを燃やされ、戦場から戻ろうにもレオンは執拗に追撃してきた。」

 サムはセラに父の名を忌々し気に呼ぶ。

「さすがに帝国に魂を売っただけのことはある。」

 サムにふつふつと怒りがこみあげてきているのが見て取れた。

 サムは手を振る。

「三人を牢に放り込んでおけ。」

 背後の槍の穂先が、背中に当たる。

 冷たい鉄の感触。

 そのとき、セラがこちらを振り向いた。

 その目は、静かに燃えていた。

 戦う覚悟を決めた者の目。

 私は息を飲む。

 もし、ここで刃が向けられるなら。

 そのときは――

 鼓動が早まる。

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