敵味方 - 3
語り:ミレイユ・カロ
城は小高い丘の上に築かれていた。
白灰色の石を積み上げた円塔がひとつ、その周囲を囲むように厚い城壁が巡らされている。
堀は浅いが、門前には跳ね橋があり、鉄で補強された門扉が半ばまで閉じられていた。
規模は大きくない。
だが、無骨で、実用本位の城だ。
城壁の上には弓兵が立ち、こちらを見下ろしている。
旗竿には、あの深紅の旗――黒獅子が銀の塔を踏み据える紋章が、風に揺れていた。
私たちは内門をくぐり、石畳の中庭を横切る。
焼け跡の匂いとは違う、乾いた石の冷気が漂っていた。
やがて案内されたのは、接見の間だった。
天井は高くはないが梁は太く、壁には簡素なタペストリーが掛けられている。
豪奢というよりは、領主の実務の場といった雰囲気だ。
奥に置かれた椅子に、細面の中年男が腰を下ろしていた。
騎兵の隊長が進み出る。
「サム様。魔女とその一味を連れてまいりました。」
私たちはその男の前に並ばされる。
背後に立つ兵の気配。槍の穂先がこちらへ向けられているのが分かる。
サムと呼ばれた男は、肘掛けに体を預け、どこか倦んだような目つきでセラを眺めた。
「リンドンの民を酷い目にあわせた魔女というのは、お前か?」
声は低いが、抑揚がない。
セラはまっすぐ見返す。
「争いを止めただけです。」
堂々と。
サムは片眉をわずかに上げる。
「名は何と申す。」
「セラ・アルヴェインです。」
その瞬間だった。
サムの目が見開かれ、腰がわずかに浮く。
「セラ・アルヴェインだと?」
空気が変わった。
セラはにっこりと笑った。
「お久しぶりです、サムグリおじさま。」
背後で隊長が怒鳴る。
「貴様! リンドン領主、サム・グリーブス様に向かってなんと無礼な!」
腰の剣に手がかかる。
「よいよい。」
サムが手を上げた。
「お前は引っ込んでおれ。」
隊長は渋々一歩退く。
サムはセラを見つめ、ふっと目を細めた。
「しばらく見ないうちに、ずいぶん大きくなったな。」
その声音は、完全に親戚の叔父のそれだった。
私は思わず瞬きをする。
さきほどまでの冷ややかな領主の顔とは別人のようだ。
「五年ぶりくらいでしょうか。」
セラが穏やかに答える。
「うむ、うむ……」
サムは頷き、しかしすぐに表情を戻す。
「それで、なぜリンドンにおったのだ?」
「しばらく旅をしておりまして。その途中です。」
「旅?」
問いが重なる。
「水の魔女を探す旅です。」
ダリウスと私は、思わず小さく体をこわばらせた。
そんな目的は聞いていない。
だが、ここで否定するわけにもいかない。
サムはゆっくりと椅子に腰を沈める。
「……そうか。」
しばし沈黙。
やがて、静かな声で言った。
「私は、昨日まで君の父親と戦争をしていたよ。」
空気が凍る。
「父親はわが領地を犯し、娘はわが領内で兵と民を虐げる。」
その目が鋭くなる。
「なかなかに、ひどい話だな。」
セラは一歩も退かない。
「私は父とは関係ありませんし、兵と民の争いを止めただけです。」
「誰がそんな戯言を信じるものか。」
冷たい断言。
「リンドンを燃やされ、戦場から戻ろうにもレオンは執拗に追撃してきた。」
サムはセラに父の名を忌々し気に呼ぶ。
「さすがに帝国に魂を売っただけのことはある。」
サムにふつふつと怒りがこみあげてきているのが見て取れた。
サムは手を振る。
「三人を牢に放り込んでおけ。」
背後の槍の穂先が、背中に当たる。
冷たい鉄の感触。
そのとき、セラがこちらを振り向いた。
その目は、静かに燃えていた。
戦う覚悟を決めた者の目。
私は息を飲む。
もし、ここで刃が向けられるなら。
そのときは――
鼓動が早まる。




