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聖環  作者: 北寄 貝


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敵味方 - 2

語り:ミレイユ・カロ

 騎兵は馬上から私たちを見下ろした。

「我々は栗色の髪をした魔女を探している。」

 視線が、まっすぐセラの髪へ落ちる。

「お前の髪は栗色だな。お前が魔女か?」

 ……ずいぶんと粗い詮議だ、と私は思った。

 街ひとつを騒がせた存在を、髪の色だけで決めるのか。

 私たちは一瞬、顔を見合わせる。

 セラが静かに口を開いた。

「魔女ではありません。」

 それは嘘ではない。

 彼女は一度も、自分を魔女と名乗ったことはない。

 だが騎兵の眉間が険しくなる。

「街中で百人以上の兵や民を一瞬で病臥させた魔女は、栗色の髪の女だという!

 しかも男女の従者を連れていたと報告がある。

 まさにお前たちではないか!」

 怒声とともに、槍の穂先がセラへ向けられた。

 空気が張りつめる。

 セラはわずかに顎を上げ、騎兵を見据えた。

「どうしろと?」

 静かな声だった。

 騎兵は一瞬言葉を失い、それでも凄む。

「リンドンの民を害する者は何人たりとも許さん。

 おとなしく縛に就け。」

 その言葉で、橋の上の光景が脳裏に蘇る。

 槍を振るう兵。

 石を投げる民。

 同じ石畳に倒れる両者。

 ……害したのは、誰だろう。

「縛らなくたって、どこへでも行くわ。

 連れていって。」

 セラがあっさりと言った。

 私はダリウスと視線を交わす。

 言葉はいらない。

 今は従う――それで一致した。

 騎兵は拍子抜けしたのか、わずかに戸惑う。

「……素直でよろしい。

 ついてこい。」

 馬を前に出す。

 他の騎兵たちが、私たちを囲むように陣形をとる。

 槍の穂先が常に視界の端にある。

 無言のまま歩き出す。

 やがてロブソン川以南の市街地へ戻ってきた。

 火の手はだいぶ弱まっていたが、街はすでに別の姿になっていた。

 焼け落ちた梁が黒くねじれ、崩れた壁が道を塞いでいる。

 焦げた匂いがまだ重く漂い、煙が低くたなびく。

 石畳には灰が積もり、踏むたびに靴底が白くなる。

 屋根を失った家の中身が、むき出しになっていた。

 炭になった寝台。

 溶けた鍋。

 半ば焼け残った木馬。

 焼け跡を掘る者。

 火消しに走る者。

 焼失した家の前で呆然と立ち尽くす者。

 何かを責めるように言い争う者。

 日常とは、あまりにもかけ離れた光景だった。

「おい。」

 ダリウスが横にいた騎兵へ声をかける。

 私たちが抵抗する気配を見せないせいか、騎兵は少し気が緩んだようだった。

「どうした?」

「君は騎士か?」

「そうだ。」

 短い返答。

 ダリウスは右を指さした。

 そこには、小さな兄妹だろうか、灰まみれで泣いている子どもが二人、寄り添っていた。

「俺たちは逃げない。だから――」

 ダリウスは騎兵をまっすぐ見る。

「君が騎士なら、せめてあの子たちを助けてやってくれないか。」

 騎兵の視線が揺れる。

 だが次の瞬間、先頭にいた騎兵――おそらく隊長なのだろう――が一喝した。

「リンドンの民を害した魔女の連れの言うことなど聞くな!」

 槍の穂先が再び、セラへ向けられる。

 横の騎兵はわずかにためらい、そして視線を逸らした。

 ダリウスと、その騎兵はほんの一瞬だけ目を合わせる。

 互いに、気づかれぬよう小さく息を吐いた。

 私は思う。

 この隊長は、橋の上の出来事を知らないのだろうか。

 兵と民が刃を向け合ったことを。

 それとも、知っていて目を閉じているのか。

 誰が敵で、誰が味方なのか。

 歩き続けるうち、ロブソン川に沿って東へと進んでいた。

 やがて視界が開ける。

 小高い丘の上に、城が見えた。

 黒く煤けた空を背に、石造りの城壁が重くそびえている。

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