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聖環  作者: 北寄 貝


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114/123

敵味方 - 1

語り:ミレイユ・カロ

 地面に転がった人々から、うめき声があがっていた。

「目が……回る……」

「気持ち悪い……吐きそうだ……」

 石畳に伏したまま、兵も民も区別なく呻いている。

 その中に、別の声が混じりはじめた。

「魔女だ……」

「魔女がいるぞ……!」

 その言葉が、風の残り香のように、じわじわと広がっていく。

 私は思わずセラを見た。

 彼女はほんの一瞬、居心地の悪そうに眉をひそめた。

 だがすぐに視線を伏せる。

「……行きましょう。」

 それ以上何も言わず、私たちを促す。

 私たちは橋を渡り、リンドン南部へ入った。

 橋の向こうは、先ほどの混乱とは別の光景だった。

 石造りの倉庫は黒く煤けてはいるものの、形を保っている。

 だがその間に並ぶ木造家屋は、骨組みだけを残して崩れ落ちていた。

 まだ火の勢いが衰えていない家もある。

 梁が崩れ、火の粉が夜気に舞い上がる。

 ロブソン川から水を汲み、桶を抱えて走る人々の姿が見えた。

 顔も衣も灰にまみれ、必死に炎へ水を浴びせている。

 胸が、きゅっと締めつけられた。

「……内輪揉めしてる暇があるなら、火を止める方に力を使えばいいのに。」

 セラが低く吐き捨てる。

 その声には苛立ちよりも、疲労が滲んでいた。

 私たちは郊外へ向かって歩を進める。

 そのとき、地面を打つ重い音が響いた。

 規則正しく、速い。

 馬だ。

 振り返ると、武装した騎兵たちがこちらに向かって駆けてくるのが見えた。

 槍を掲げ、胸当てをきらりと光らせている。

「端へ。」

 ダリウスが短く言う。

 私たちは道を開けた。

 騎兵たちは砂煙を上げて通り過ぎる。

 誰一人こちらを見ない。

 ただ前だけを見ている。

 緊急の伝令か、それとも鎮圧か。

 遠ざかる蹄の音を聞きながら、ダリウスがぽつりと口を開いた。

「そういえば……グリーブス軍はカンタベリオン軍と戦っていたと言っていたな。」

「ええ。」

 セラが短く返す。

「ということは、帝国軍はカンタベリオン軍と合流して、あちら経由で帝国へ戻る可能性が高い。」

 ダリウスは歩きながら続けた。

「なら、軍より先にカンタベリオンに入りたいところだ。」

 私は思わず問い返す。

「なぜですか?」

 ダリウスが、わずかに口ごもる。

「それは……」

 その瞬間だった。

 さきほど通り過ぎた騎兵たちの蹄の音が、再び近づいてくる。

 速い。

 振り向いたときには、もう目の前だった。

 砂を蹴り上げ、騎兵たちが私たちの前で一斉に手綱を引く。

 馬がいななき、前脚を高く上げた。

 剣帯が鳴る。

 私たちの行く手を、半円を描くように塞ぐ。

 騎兵の一人が、兜越しにこちらを見下ろした。

「貴様ら――」

 その声は、命令を告げる前の、冷たい硬さを帯びていた。

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