市街地戦 - 6
語り:ミレイユ・カロ
ヒュドラの咆哮が、橋を震わせた。
ルキウスの身体が、大きく揺れる。
ヒュドラの水柱が直線に放たれる。
轟音。
中央門の壁が削れ、石片が飛び散る。
ルキウスの身体が水圧に押され、一歩、二歩と後退する。
初めて、明確に押された。
ヒュドラの首が三本同時に噛みつく。
六本の腕が交差し、辛うじて防ぐ。
押されながら、踏みとどまる。
ヒュドラの首をはじき、ルキウスが六本の腕を一斉に動かして切り込んだ。
剣が次々と首を裂き、水を散らす。
再生の瞬間を狙い、さらに斬る。
全ての首を切り落とそうという、狂気のような執念にあふれていた。
フレヤは狂気を受け止めるかのように、視線を完全に彼に向ける。
二人は戦いに集中し、周囲もまた戦いの行方を注視している――そう思っていた。
けれど、ダリウスは違った。
「あっ!」
ダリウスの声で我に返る。
ヒュドラの背後に、橋の建物の陰から三つの影が滑り出た。
黒ずくめ。軽い装備。音がない。
「……」
声が出ない。
一人目が、ヒュドラの尾の陰を縫うように走る。
水飛沫と咆哮の死角。
フレヤは、気づかない。
ルキウスの剣がさらに二本の首を斬り落とす。ヒュドラが怒号を上げる。
その瞬間。
影が跳んだ。
刃が閃光のような軌跡を描く。
フレヤの右腕が、宙を舞った。
一拍遅れて、血が噴き出す。
私は叫んだかもしれない。
ヒュドラの首が一斉に空を仰ぐ。
咆哮が悲鳴に変わる。
二人目の影が、棒のようなものをフレヤに押し付ける。
淡い光がフレヤを包み、彼女の身体が硬直した。
三人目が素早く近づき、切断された腕の根元を手で包む。
血の噴出が止まる。
すべてが、一瞬だった。
ヒュドラの巨体が、ぐらりと傾く。
八つの首が、水へと崩れ落ちる。
鱗が溶けるようにほどけ、巨大な身体は霧となって消えた。
橋の上に残ったのは、濡れた石と、転がる血の跡だけ。
フレヤは気絶したような状態のまま、影たちに抱えられる。
ルキウスは追わない。
六本の腕をゆっくりと下ろす。
「全軍、撤収。」
静かな命令。
角笛が鳴る。
帝国兵に一瞬の動揺が走るも混乱はしない。
隊列を組み、負傷兵を担ぎ、規律を保ったまま橋を離れていく。
まだ火の手が見える南に向かって、整然と。
――戦いは、終わったの?
空が白み始める。
煙の向こうに、朝の光が滲む。
「全部……作戦だったのか……」
ダリウスが低く呟く。
「おびき出して、奪って――
あれは狩りだったんだ。」
私は、呆然としていた。
聖環には、これほどの犠牲に見合う何があるというのだろう。
セラの横顔を見た。
彼女は何も言わない。
ただ、橋の中央を見つめている。
夜明けが、ゆっくりと街を照らし始めた。




