表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
聖環  作者: 北寄 貝


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

111/118

市街地戦 - 5

語り:ミレイユ・カロ

「私のリンドンに、ずいぶんひどいことをしてくれたわね。」

 フレヤ――そう呼ばれた水の魔女は、六本腕の全てに剣を持つ魔物のようなルキウスを見据える。

「こうでもしなければ出てこないと思ってな。」

 ルキウスがニヤリとした。

「あなたのそういうところが嫌いなのよ。」

 フレヤの言葉に反応したかのように、ヒュドラが仕掛ける。

 八つの首のうち、二つが同時に反り返る。

 喉が膨らみ、空気が震えた。

「来る……!」

 水柱が一直線に走る。

 橋の石畳が抉れ、欄干が砕け、帝国兵がまとめて弾き飛ばされた。

 水ではない、刃のような圧力だった。

 だが、その直線の軌道から、ルキウスの姿は消えていた。

 水柱が通り過ぎたあと、橋の中央門の陰から六本の腕が現れる。

 次の瞬間、ルキウスが踏み込んだ。

 六本の剣が、順に閃く。

 一閃、二閃、三閃。

 首の一本が斬り落とされる。水飛沫とともに宙を舞い、石畳に叩きつけられた。

 だが――

 切断面から、水が噴き上がる。

 首が、再び生える。

 私は息を呑んだ。

「再生……」

 セラが小さく呟く。

 ヒュドラの首は、一本失ってもすぐに補われる。

 斬っても、減らない。

 だがルキウスは退かない。

 水鉄砲が再び放たれる。

 今度は横薙ぎ。

 橋上の建物の壁が削れ、瓦が崩れ落ちる。

 悲鳴が広がる。

 群衆が一斉に後退した。

 私は押され、よろめく。

「ミレイユ、下がれ!」

 ダリウスの声。

 だが、目が離せなかった。

 ヒュドラの四本の首が同時に噛みつく。

 六本の剣がそれを迎え撃つ。

 金属と鱗がぶつかる音が、橋を震わせる。

 ルキウスは、同時にすべてを相手にしていない。

 順に斬り、順に逸らし、順に距離を取る。

 連続だ。

 六本の腕が、途切れることなく動き続ける。

 一本の首が背後から襲いかかる。

 ルキウスは振り向かない。背中の腕が独立して刃を振るい、首を弾き返す。

「……」

 ダリウスが、何も言わずにそれを見つめている。

 ヒュドラの残る首のうち二つが、再び喉を膨らませる。

 水柱が二本、交差するように放たれた。

 橋の石が砕け、中央部に溝が刻まれる。

 帝国兵がさらに吹き飛ぶ。

 ルキウスは一瞬で間合いを詰める。

 六本の刃が回るように振るわれる。

 一つの首を斬り、再生を始めたその瞬間を狙い、もう一つを斬る。

 再生の隙を、削る。

 だが完全には押し切れない。

 ヒュドラの体躯は、橋の半分を占めていた。

 尾が石畳を叩くたびに、建物が軋む。

 橋が、持つのだろうか。

 私は、橋の下を流れるロブソン川を思った。

 もし崩れれば、すべてが飲み込まれる。

 フレヤは動かない。

 ヒュドラの背で、静かに立っている。

 その視線は、ただルキウスだけを射抜いている。

 次の瞬間、ヒュドラの三本の首が同時に襲いかかる。

 六本の剣が交差する。

 斬撃が鱗を裂き、水が弾ける。

 だが、徐々にルキウスの刃が空を切るようになる。

「元帥が……負けるのか……」

 ダリウスが信じられないといった表情で低く呟いた。

 確かに。

 斬っても斬っても、減らない。

 首が再生するたび、水が橋上を濡らし、足場を奪っていく。

 ヒュドラの四本の首が一斉に喉を膨らませた。

 轟音。

 水が石を裂く音。

 金属がぶつかる音。

 誰かの叫び。

 六本の腕が、水柱の間を縫うように動いていた。

 ルキウスは、まだ立っている。

「退くな。」

 フレヤは押し切るつもりだ。

 このままいけば――

 周囲が、ヒュドラの優勢にざわつき始めた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ