市街地戦 - 1
語り:ミレイユ・カロ
三人でリンドンに辿り着いたのは、昼過ぎのことだった。
遠くからでも分かる。
街を囲む石壁の向こうに、無数の煙が立ち上り、塔や尖塔が林立している。
リンドンは、アルビオン島最大の都市だ。
ロブソン川は街の中心をゆったりと流れ、リンドンを南北に分かつ大きな帯のようだった。
川幅は広く、対岸の家並みがかすんで見えるほどだ。
両岸には石造りの倉庫が壁のように並び、その背後に木組みの家々が密集している。
川面には大小さまざまな船がひしめき合っていた。
荷を積み下ろす掛け声、樽を転がす音、商人たちの値切り合う声。
香辛料、魚、革、羊毛、焼きたてのパンの匂いが混ざり合い、街全体がひとつの巨大な市場のようだった。
橋の上では物売りが声を張り上げ、路地では子どもたちが駆け回り、馬車が石畳を軋ませて通り過ぎていく。
私は、しばらく言葉を失っていた。
大都市だとは聞いていたけれど、これほどまでに人が多く、活気に満ちているとは思わなかった。
セラは以前来たことがあると言っていたが、どうやら街を歩いた経験は少ないらしく、きょろきょろと辺りを見回している。
ダリウスだけが、迷いなく足を進めていった。
ソードーで聞いた話から、もっと張りつめた空気を想像していた。
けれど、街は意外なほど日常を保っている。
ただ――
武器を帯びた人間がやけに多い。
傭兵か、護身用か。
剣や槍を持つ者が、自然な顔で通りを歩いている。
日が沈み始めた頃、私たちは適当な宿を見つけて部屋を取った。
案内された部屋に入り、荷を置き、三人で車座になる。
「フランカは、まだリンドンには来ていないみたいで、よかったですね。」
私が言うと、ダリウスは腕を組んだ。
「元帥が総大将とはいえ、それほど多くの兵を海を越えて連れてきたとは思えない。
おそらく、リンドンの兵数のほうが多いと踏んでいるはずだ。」
「あなたがそこまで評価している人なら、一気に攻め込んでくるのかと思ったわ。」
セラが言う。
「元帥が、勝算の薄い賭けをするはずがない。」
ダリウスは即答した。
それから三人で、これからの動きを整理した。
まず、会うべき相手は二人。
ルーメン教司教、モルヴァン・エルドレッド。
そして、セラの父、レオン・アルヴェイン。
だが、レオンは帝国軍と行動を共にしている可能性が高い。
今近づけば、軍との戦闘に発展しかねない。
ならば――
リンドンとカンタベリオンを結ぶ街道を避け、軍との接触を回避しつつカンタベリオンへ入る。
そこでモルヴァン司教と接触する。
その後、軍の動向を見極めながら、レオンとの接触を図る。
無理はしない。
だが、後回しにもできない。
計画を立て終えた頃には、空腹を思い出していた。
三人で簡単な夕食を取り、明日に備えて休むことにする。
長い道のりを歩いてきたせいか、食後すぐに眠気が押し寄せてきた。
明かりを消そうとしたとき、ダリウスが窓の外をじっと見ているのに気づいた。
「まだ眠くないの?」
セラが聞く。
「いや……ただ……」
「気になる言い方、やめてよ。」
セラが口を尖らせる。
ダリウスは、低い声で言った。
「もし俺が元帥の立場でリンドンを攻めるなら、夜襲だな。
それが今じゃなければいいと思っただけだ。」
「怖い予感ですね。」
私が言うと、ダリウスは首を振った。
「予感じゃない。
真っ先に選ぶ手だ。」
そして、「寝よう」と言って明かりを消した。
どれだけ眠ったのか。
けたたましい鐘の音で目を覚ました。
まだ、未明だ。
窓辺へ駆け寄り、カーテンを開ける。
外は暗い。
だが、遠くで炎が天を焦がしていた。
対岸――
ロブソン川以南の街区が、赤く染まっている。
火の手がいくつも上がり、煙が夜空を覆っていた。
炎の向こうから、悲鳴とも怒号ともつかない音が、風に乗って届いた。
ダリウスが、吐き捨てるように言った。
「……やはり、そう来たか。」




