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聖環  作者: 北寄 貝


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107/114

市街地戦 - 1

語り:ミレイユ・カロ

 三人でリンドンに辿り着いたのは、昼過ぎのことだった。

 遠くからでも分かる。

 街を囲む石壁の向こうに、無数の煙が立ち上り、塔や尖塔が林立している。

 リンドンは、アルビオン島最大の都市だ。

 ロブソン川は街の中心をゆったりと流れ、リンドンを南北に分かつ大きな帯のようだった。

 川幅は広く、対岸の家並みがかすんで見えるほどだ。

 両岸には石造りの倉庫が壁のように並び、その背後に木組みの家々が密集している。

 川面には大小さまざまな船がひしめき合っていた。

 荷を積み下ろす掛け声、樽を転がす音、商人たちの値切り合う声。

 香辛料、魚、革、羊毛、焼きたてのパンの匂いが混ざり合い、街全体がひとつの巨大な市場のようだった。

 橋の上では物売りが声を張り上げ、路地では子どもたちが駆け回り、馬車が石畳を軋ませて通り過ぎていく。

 私は、しばらく言葉を失っていた。

 大都市だとは聞いていたけれど、これほどまでに人が多く、活気に満ちているとは思わなかった。

 セラは以前来たことがあると言っていたが、どうやら街を歩いた経験は少ないらしく、きょろきょろと辺りを見回している。

 ダリウスだけが、迷いなく足を進めていった。

 ソードーで聞いた話から、もっと張りつめた空気を想像していた。

 けれど、街は意外なほど日常を保っている。

 ただ――

 武器を帯びた人間がやけに多い。

 傭兵か、護身用か。

 剣や槍を持つ者が、自然な顔で通りを歩いている。


 日が沈み始めた頃、私たちは適当な宿を見つけて部屋を取った。

 案内された部屋に入り、荷を置き、三人で車座になる。

「フランカは、まだリンドンには来ていないみたいで、よかったですね。」

 私が言うと、ダリウスは腕を組んだ。

「元帥が総大将とはいえ、それほど多くの兵を海を越えて連れてきたとは思えない。

 おそらく、リンドンの兵数のほうが多いと踏んでいるはずだ。」

「あなたがそこまで評価している人なら、一気に攻め込んでくるのかと思ったわ。」

 セラが言う。

「元帥が、勝算の薄い賭けをするはずがない。」

 ダリウスは即答した。

 それから三人で、これからの動きを整理した。

 まず、会うべき相手は二人。

 ルーメン教司教、モルヴァン・エルドレッド。

 そして、セラの父、レオン・アルヴェイン。

 だが、レオンは帝国軍と行動を共にしている可能性が高い。

 今近づけば、軍との戦闘に発展しかねない。

 ならば――

 リンドンとカンタベリオンを結ぶ街道を避け、軍との接触を回避しつつカンタベリオンへ入る。

 そこでモルヴァン司教と接触する。

 その後、軍の動向を見極めながら、レオンとの接触を図る。

 無理はしない。

 だが、後回しにもできない。

 計画を立て終えた頃には、空腹を思い出していた。

 三人で簡単な夕食を取り、明日に備えて休むことにする。

 長い道のりを歩いてきたせいか、食後すぐに眠気が押し寄せてきた。

 明かりを消そうとしたとき、ダリウスが窓の外をじっと見ているのに気づいた。

「まだ眠くないの?」

 セラが聞く。

「いや……ただ……」

「気になる言い方、やめてよ。」

 セラが口を尖らせる。

 ダリウスは、低い声で言った。

「もし俺が元帥の立場でリンドンを攻めるなら、夜襲だな。

 それが今じゃなければいいと思っただけだ。」

「怖い予感ですね。」

 私が言うと、ダリウスは首を振った。

「予感じゃない。

 真っ先に選ぶ手だ。」

 そして、「寝よう」と言って明かりを消した。


 どれだけ眠ったのか。

 けたたましい鐘の音で目を覚ました。

 まだ、未明だ。

 窓辺へ駆け寄り、カーテンを開ける。

 外は暗い。

 だが、遠くで炎が天を焦がしていた。

 対岸――

 ロブソン川以南の街区が、赤く染まっている。

 火の手がいくつも上がり、煙が夜空を覆っていた。

 炎の向こうから、悲鳴とも怒号ともつかない音が、風に乗って届いた。

 ダリウスが、吐き捨てるように言った。

「……やはり、そう来たか。」

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